Yakeen(2005)#062
Yakeen(信頼) ★★★ 06.08.22up
ヤキーン
製作総指揮・プロダクションデザイン:スーザン・ウッドハム/製作:スジート・クマール・スィン/監督:ギリーシュ・ダーミジャー/原案・脚本:ヴィクラム・バット/撮影:アンシュマン・マハーレイ/作詞:サミール/音楽:ヒメーシュ・リシャームミヤー/振付:ラジュー・カーン/背景音楽:アマル・モーヒリー/アクション:アッバース・アリー・モーグル/美術:ケシュトー・モンダル/VFX:ビジュー・D/編集:クルディープ・メーハン/アルジュンの衣装:ロッキー・S
出演:アルジュン・ラームパール、プリヤンカー・チョープラー、キム・シャルマー、ソォーラブ・シュクラー、アナン・デーサーイー、アトゥール・パルチュレー、アンクル・ナーヤル、
公開日:2005年7月1日(53位→63位→圏外/日本未公開)
STORY
断崖から車が落下。瀕死の重傷を負ったシマル(プリヤンカー)とニキル(アルジュン)。彼は記憶を失い、顔面はガラス片で埋まり、整形手術を受ける。退院したふたりは日常生活に復帰するが、ニキルは彼女が別の男と愛し合っている写真をみつけ・・・!
Revie-U
オープニング・タイトルバックは、雪山のワインディングロードを車載したキャメラがとらえたショットにクレジットがズームアップしては消えるB級スリラー・テイスト。と、ここで、嫌な予感が。果たして、氷壁を突き破ってクルマが断崖に落下するのだ!
クラッシュしたクルマの車体から女の腕が覗ける。シーンは変わって、医者が負傷した女に同乗していた男が記憶喪失に陥っていることを告げる。女が男の病室を訪れると、男の顔は事故のために判別不能になっていた・・・。
ああ、やっぱり。これはディープティー・バートナーガルとプル・ラージクマール主演のC級お蔵入り作品「Uljhan」(2000)の焼き直しであった! クレジットを見れば、原案・脚本にヴィクラム・バットの名が! ハリウッド・イタダキ専門であったヴィクラムも遂にボリウッドのマイナー映画リメイクまで手を染めるようになったか、と思ったものの、実はこれ、リチャード・ニーリー原作、ウルフガング・ペーターゼンのハリウッド作品「プラスティック・ナイトメア/仮面の情事」(1991=米)が大本。ということは、先の「Uljhan」もこれをベースにしたのだった。
主演は、アルジュン・ラームパールとプリヤンカー・チョープラー。
アルジュンは「Vaada(約束)」(2005)で良好な俳優に脱皮しているが、これはそれ以前の撮影だったのか、「Elaan(宣戦布告)」(2005)同様にただただ悲壮感が全面にあふれ、魅力に欠けるのが残念。
対するプリヤンカーは敵役賞を総なめにした「Aitraaz(秘密)」(2004)に続く悪女役で、夫と愛人を手玉に取る強欲な内面を持つ汚れ役。ながら、脚本上は淑女のように描かれているので、その点ではやや物足りず。彼女自身はシャワーを浴びるアルジュンの背を激しく愛撫するなど演技は惜しまず、愛らしいところもいつも通り。
「Uljhan」では事故の後で整形手術を受けた夫が何者かに命を狙われて安っぽいサスペンスを生んでいたが、本作は記憶を失っていたニキルが事実を調べてゆくうちに思い掛けない真実を掘り起こしてしまう点に賭けている。この終盤前のツイストは、ネタが割れていなければ、わりかしインパクトあるだろう。
監督のギリーシュ・ダーミジャーは、本作がデビューとなる。しかし、「Dushman(敵)」(1998)のアソシエート・ディレクターを経て、「Gangster」(2006)などダイアローグ・ライターとしてキャリアを積みながらデビュー作がハリウッドのパクリというのはどういう心境であろうか。もっとも「Kasoor(嘘)」(2000)、「AapMujhe Achche Lagne Lage」(2002)などヴィクラムと組んで来ただけに、さほど頓着はなし?
演出面ではまずまずであるが、プリヤンカーの悪女ぶりが暴(あばか)れるポイントは、後から明かされるとかなり幼稚にして興醒め。
サポーティングは、ニキルの友人の恋人ながら彼の手足となって<過去>を調べるタニヤ役に、キム・シャルマーを起用。初々しさがかえってしらじらしかった「Mohabbatein(幾つもの愛)」(2000)の頃に比べると、かなり老け込んだ印象が拭えず、はじめは別人かと思ったほど。さらに驚かされたのは、実際にアルジュンの親類筋なのだった!
加えて、写真屋兼私立探偵のチャマンラール役に、「Mohabbatein」でキムの父親役だったソォーラブ・シュクラーを配置。「Uljhan」ではマサーラーらしくシャクティ・カプールが蓄膿カメラマン役という設定になっていたっけ。今回はコメディリリーフは用意されず、近年のボリウッドの傾向でジャンル映画として製作されている。
また、ニキルとシマルの担当医Dr.カパーリヤー役が、「Tere Naam(君の名前)」(2003)では脳外科医だったアナン・デーサーイー。写真だけを頼りに整形してしまうのは流石?!
事件の謎を握るカビール役は、サンジャイ・カプールを精悍にしたような横顔を持つ無名の若手俳優スダンシュー・パーンディー。ステージで歌う登場ナンバーではスポット・ライトのブルーからして、その蒼冷めたところがその後の運命を示すかのよう。「Khiladi 420(偽闘士)」(2000)でアクシャイ・クマール扮する善と悪の双子を逮捕しようとしていたインスペクター・ラホールを演じていたのがカルマ的に思えてならない。
本作では、ある理由からアルジュンがアテレコしているため、影が薄いまま。主演がアルジュンである以上、カビール役にメジャースターを起用できないキャスティングの苦労が伺われる。
マナリ、シムラー・ロケということで、「Krrish」(2006)で隠遁する前のレーカーたちが暮らすマナーハウスがカビールの住んでいた屋敷として登場。もっとも、本作の方が「Krrish」より撮影が先であるため、屋根は緑へ塗り替えられる前の茶色となっている。
ミュージカル・シーンの雪山ロケはスイスへ飛ばず、国内ロケによるもの。アルプスより険しいヒマーラヤの山肌は、本作のメタファーとしても相応しく思える。
ヒメーシュ・リシャームミヤーによるフィルミーナンバルは、彼らしいリリカルな作りで、いかにもヒメーシュ節となっていて、耳に馴染むと心地よい。ただ、一部チープな打ち込みであるのはレコーディング経費の圧縮故か。
近年高音が擦れ、「Kyon Ki..(なぜならば・・)」(2005)ではほとんどラター・マンゲーシュカル化していたアルカー・ヤーグニクだが、このところスニディー・チョハーンに稼働率を譲っていたせいか本作では高音の伸びもいくらか回復しているのが嬉しい。
「忘れることなどできない」と歌うメインタイトル「bhoolna nahin」はシャーンによるバージョンがあるが、より哀愁を誘うスニディーのナンバーもよい。
謎解きサスペンス映画としてはいささか陳腐な仕上がりで、またしてもアルジュン単独では客が呼べないことを裏付ける結果に終わった。
オリジナルの 「プラスティック・ナイトメア/仮面の情事」と「Uljhan」を観ている人にとっては、見比べる一興はあるだろう(もっとも、そのような人がいれば、の話。ギリーシュにしろヴィクラムにしろ、すでに「Uljhan」でひと足先にリメイクされていたことさえ、氣付かなかったことだろうけれど)。
*追記 2010.09.21
>監督のギリーシュ・ダーミジャー
本作以降は、安手の脚本家に戻ってB級映画で食いつないでいる模様。
>キム・シャルマー
すっかり押しつけがましいキャラクターが定着したようで、「Heyy Babyy」(2007)のエンディング不意打ち出演や、最新作「Daddy Cool」(2009)での扱いを見てもギャグとして投入されているとしか思えず、独特の地位を確立。
>アルジュン・ラームパール
なんと言っても「Rock On!!」(2008)のギタリスト役がソー・ナイス!
政界版マハーバーラタ「Raajneeti(政祭)」(2010)では名優に囲まれ、いささか分が悪かったが、現在公開中の最新作「We Are Family」(2010)は案外よさそう。凡庸なイケメン中年役で活路を見出すことだろう。