Mumbai Xpress(2005)#058
Mumbai Xpress(ムンバイー・エクスプレス)05.10.21 ★★★★
監督:シンギータム・シュリニワーサ・ラーオ/製作・原作・脚本:カマル・ハッサン/台詞:サウラーブ・シュクラー/撮影:シッダールタ/音楽:イライヤラージャー/アクション:ヴィクラム・ダルマ/衣装:ナリーニー・シュリラーム/編集:アシュミート・クンデール
出演:カマル・ハッサン、マニーシャー・コイララ、オーム・プリー、ソォーラブ・シュクラー、ヴィジャイ・ラーズ、シャラート・サクセーナ、プラティマー・カーズミー、ラーザ・ムラード、ディニーシュ・ランバー、ラーメーシュ・アラヴィンド、ハルディク・タークル、ディーナー・チャンドラ・ダース
公開日:2005年4月15日(上半期20位→後期29位/日本未公開)
STORY
ディガンバル(ヴィジャイ)ら小悪党3人は、巨大なタワークレーンを使って、土建屋メーヘター(サウラーブ)の息子を誘拐する計画を立てる。大儲け出来るとほくそ笑んだ矢先、仲間の1人が急患で入院! 急遽、代打で参加することになったのが、モーターサーカスで生計を立てる「ムンバイー・エクスプレス」ことアビナーシュ(カマル)。もちろん、計画は脱線して・・・。
Revie-U
裸の大将カマル・ハッサン製作のヒンディー映画最新作! 「Abhey(アブヘイ)」(2001/タミル語タイトル「Aalavandhan」)の後、カマルはタミル映画界へ戻り数本の出演作をこなす傍ら、「Virumandi」(2004)で脚本・監督・主演。サンジャイ・ダットの2003年トップ4「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」のリメイク作「Vasoolraja MBBS」(タミル語=2004)に主演していた。
冒頭の安っぽい誘拐話からして、ドジな悪党のずっこけコメディーぶりが予想される。狂氣の「Abhey」路線からすると意外な氣もするが、カマルは「Biwi
No.1(奥様No.1)」(1999)にストーリーを提供しているのだった。
さて、そのスラップスティックぶりだが・・・アビナーシュをメンバーに加えた晩、Mr.Aことディガンバルは仲間のひとり、Mr.Bことジョンソンの愛馬(名前はBaazigar!)に右腕を齧られてギプスをするハメに!
誘拐当日、アビナーシュが運転するはずの「逃走車」がなんと左ハンドル。これは運転出来ないと言い出し、ギプスをしたディガンバルが結局運転。が、操作を間違え、いきなり通行人を撥ね飛ばしてしまう!!
慌てて車に運び込んだこの男、テルグ語話者で、しばしテルグ/ヒンディーの混乱ギャグとなるが、この男がハンドルを掴んだために車がスピンし、トラックと激突!!! ジョンソンがフロントガラスから飛び出して頭を打つ!!!!
このふたりをタクシーで病院へ行かせるが(笑)、そこへバイクの警官がやってくる。アビナーシュはディガンバルをコーラプルから来たヒンディー語の判らぬ男に仕立てるなどして、いよいよ誘拐の実行へ。
だが、オープニングで計画話で明かされているように、アビナーシュがビルの上に組まれたタワークレーンでディガンバルを吊り上げ、私立小学校の校庭からメーフタの息子を拉致するというもの。なんとかディガンバルは立ち小便する子供にクロロホルムを嗅がせるが、もうひとりの子供にカラテで襲われ、なんと自分も薬を嗅いで子供たちと眠ってしまう!!!!!
クレーンで待機するアビナーシュはディガンバルにモバイル(携帯電話)で呼びかけるものの、応答無し。そこで、思い立ったら吉日とばかり、アビナーシュはクレーンのアームを伝って、様子を見に行くのだ!!!!! このへんの、ちょっと抜けてる野太いキャラクターが「Abhey」にも通じているところを見ると、カマル持ち前の魅力でもあるのだろう。
続く、校庭でセレモニー中の合唱がクレーンのワイヤーを伝わって登るアビナーシュとリンクして調子っぱずれになるスケッチも秀逸。カマルのコメディ・センスを感じさせる。
この後、誘拐したのはメーへターの子供ではないことが判明。アビナーシュはディガンバルらと対立、子供を連れて逃げ出す。 実は、この子供グッドゥーは警察幹部ACPのS・P・ラーオが妾のアヒリヤに生ませた子供で、無碍な態度を取るラーオに愛想を尽かした彼女が進行中の娘の結婚式で関係をバラすと居直ったりする。
しかも、S・P・ラーオは違法工事をする土建屋のメーへターと裏でつながっていて、これらのことから誘拐事件を余計に混乱させてゆくのだ。
さらに、行きがかり上、アビナーシュは彼の英雄的行動に心酔したグッドゥーの新しいパパとなり、アヒリヤも嫌々ながら彼を夫と認め、新生活が始まる・・・かに見えて、ディガンバルら、S・P・ラーオ&メーヘター、アヒリヤ、そしてアビナーシュの思惑から話がこじれにこじれて・・・。
これに、Mr.A・B・Cのコードネーム、「ムンバイー・エクスプレス」、アビナーシュの補聴器、ジョンソンの愛馬バージガルが伏線となって、最後のツイストへと向かう。
ヒロインは、カマルとの共演がこれで3度目となるマニーシャー・コイララ。バーダンサー上がりの妾アヒリアがその役どころ。目立った働きはないものの、S・P・ラーオに愛想を尽かしたところへ抜け作のアビナーシュが転がり込むと身代金を為しめようとする健かな面を見せる。子持ちの女は強い!
下半身肥大が氣になった「Abhey」や、すっぴんのまま氣怠げに登場した「Company」(2002)に比べ、本作のマニーシャーはグリーンのサーリーに明るめのメイクが栄え、三十路をかなり踏み込んでもなお美しい彼女を見られるのがうれしい。
本作の目玉は、なんと言ってもディガンバルに扮するヴィジャイ・ラーズだろう。「モンスーン・ウェディング」Monsoon Wedding(2002)で注目を集め、「Raghu Romeo(ラグー・ロメオ)」(2003)あたりでタイトルロールを演じるまでに出世したヴィジャイだが、本作のディガンバルも前半ほぼ出ずっぱり。鼻元思案な誘拐計画の主犯格ながら馬に腕を齧られるわ、自らタワークレーンに吊る下がったはいいが子供に襲われクロロホルムを嗅いで気を失ってしまうわ、揚げ句の果てに誘拐するはずの子供を間違えてしまう! 冴えないところがなんともくすぐる。
ACPと幸福な家庭の主という威厳の陰でバー・ダンサーを妾にし、子種のダッドゥーにも振り回されつつ、事件を闇に葬ろうとするS・P・ラーオを演じるオーム・プリーは、この手の込み入った役を得意とするところで、そのオヤヂぶりが大いに笑える。オームは、「Deewana Mastana」(1997)のジョニー・リーヴァルに敗れたものの、共演したパレーシュ・ラーワルと共に「Chachi 420(偽おばさん)」(1997)でFILM FARE AWARDSコミックロール賞にノミネートされていた。
ちなみに、タミル版では「ボンベイ」Bombay(1994)、「ジーンズ」Jeanes(1998)、「Hay Ram(神よ!)」(2000)のナースィルがS・P・ラーオに相当する警部役にキャスティングされている。
メーフタ役のソォーラブ・シュクラーも好演。この人、「Yeh Teraa Ghar Yeh Meraa Ghar(君の家、私の家)」(2001)でもそうであったが、こってりとした短躯に磨き上げられたつるっ禿げが実にユーモラス。本作では、ヒンディー版の台詞を担当。「サティヤ」Satya(1998)で見せた才能を再び披露してくれる。
終盤登場する秘密捜査官役のシャラート・サクセーナは、堅物のタフガイながら期待通りのボケぶりを発揮! こうでなければ、面白くない。役名がサクセーナなのは、略称「せックス」が前のシーンに引っかけてあるため(笑)。
ラーメーシュ・アラヴィンドは本作がデビュー作となる。ギプスをはめたディガンバルの車に思いっきり撥ねられる通行人ながら、頭に包帯を巻いていつの間にか誘拐犯に加わっている保険外交員という役どころ! その点では、はじめから一味の仲間で自分の厩をアジトに提供しているジョンソン(ディニーシュ・ランバー)よりおいしい。
急病で入院してしまうアビナーシュの法律内兄ラージューに、これも遅咲きデビューのディーナー(おそらくタミル映画界出身・・・)。
その妻にしてアビナーシュの妹ドゥルガーには、「Fiza(フィザ)」(2000)の砂漠シーンでカリシュマー・カプールが出会うプーラン・デヴィ似のおばさんを演じていたプラティマー・アーズミーをフィーチャル。
エピローグで、ダンサー役のひとりに現在セクシー路線に走っている「Joru Ka Ghulam(情熱の奴隷)」(200)のラーキー・スワントが出演。もっとも本篇中ではほとんど一瞬でカットされてしまうが。
ファースト・ショットからして意表を突くシッダールタの撮影は、さすがモリウッドのトップクルーだけあって斬新。今回は全編デジタル撮影を行ったそうだが、やたらとブルーバック合成する以外はルック的にも違和感なし。
ディガンバルらのアジトとなるジョンソンの厩は、飛行機が低空で通過する空港周辺のスラム街にあり、ボリウッド・メジャー映画では「Nayak(英雄)」(2000)で登場したくらいか。このへんはやはりタミル映画の視点らしく、アビナーシュとディガンバルらが話す車に子連れの女がしつこく物乞いしていたりする。
音楽は、タミル映画界の大御所イライヤラージャーが担当。その軽いフットワークは少しも年齢を感じさせず、さすがA・R・ラフマーンの師匠だけある。しかしながら、いわゆるミュージカル・シーンはなし。
例によってカマルは角刈りに口髭、ゴーグルに革ジャンの衣装からすぐには彼と判らないほどの役作りで実にトッポイ。そこがまた、チャレンジャーのカマルらしい。
役柄のアビナーシュは、ボリショイ・サーカスよろしく巨大な樽の内側をバイクや車でぐるぐる走り回るモーター・サーカスのスタント・ライダーという設定。が、彼のライディング・シーンはブルーバック合成のため、やや興醒めしてしまうのが珠に瑕。
カマルのコメディセンスには感心するものの、奢侈極まる豪邸と荘厳な群舞が出て来ないと納得出来ない向きには、ちょっと物足りないかも。
*追記 2010.09.14
>カマル・ハッサン
インド神話をモチーフにした十変化「Dasavatharam(10の化身)」(2006/タミル)のヒンディー版が北インドでもそこそこヒットしたカマル。
その彼が出演した「Munna Bhai MBBS」(2003)のリメイク「Vasoolraja MBBS(医学博士ヴァスールラージャー)」(2004/タミル)だが、オリジナルと比べるとチープなB級作品。ギャグも安っぽくコテコテに作り替えられており、オリジナルの持ち味が活かされていないのが残念。もっともこれは南インド市場の嗜好なのか、兄貴分が率先して暴力を働き、マッチョ性を強調していたりする違いかと思われる。
>ヴィジャイ・ラーズ
前年の主演作、ダウナー系インディーズ洋画テイスト「Hari Om」ハリ・オム(2003/東京国際映画祭上映)がなかなかよかったヴィジャイ。これのスイス公開が縁となって、「Tandoori Love」タンドリーラブ~コックの恋~(2008/スイス)に招聘。日本でも昨年、大阪ヨーロッパ映画祭(大阪/東京)で上映。
新作は「ぼくの国、パパの国」East is East(1999/英)の続編「West is West」(2010/英)に出演。日本公開は未定だが、邦題は「パパの国、ぼくの国?」
>マニーシャー・コイララ
今年、6月19日に結婚。お相手とはFacebookで出合ったとか。