Darwaza Bandh Raakho(2006)#054
Darwaza Bandh Rakho(ドアを閉めとけ!) 06.09.07 ★★★★
ダルワーザー・バンド・ラコー
製作総指揮:R・R・ヴェンカーター・ラーオ/製作:ラーム・ゴーパル・ヴァルマー/脚本・監督:J・D・チャクラワルティー/原案:ミッキー/脚本:ムシャラフ・アリー・カーン/台詞:スネハール・ダビー/撮影:チョーター・K・ナイドゥー/音楽:ニティン・ライワール/背景音楽:アマル・モーヒレー/VFX:プライム・フォーカス/タイトル&VFX スーパーバイザー:トゥシャール・デーサーイー/美術:スニール・ニグヴェーカル/音響設計:クナール・メーフター、パリクシュット・ラールワーニー/編集:バノーダーヤー
出演:アーフターブ・シヴダサーニー、チャンキー・パーンディー、マニーシャー・コイララ、イーシャー・シャルワニー、スミター・ジャイカル、ザキール・フセイン、スネハール・ダビー、デヴィヤー・ダッタ、イシュラート・アリー、パドマー・ラーニー、ヴィジャイ・スィン、タシュー、ジャーヴェード、ラヴィ・カーレー、ニティン・ライワル、コーター・シュリーニヴァーサン・ラーオ、ジーヴァ
特別出演:グルシャン・グローバル
ゲスト出演:ゴーガ・カプール
友情出演:アーディティヤー・シュリワスターワ、アブヘイ・バルガーヴァ、プラムード・モウトー、ラージュー・マワーニー、アヌパム・シャーム
公開日:2006年8月4日(日本未公開)
STORY
裕福な一家の屋敷に、アジャイ(アーフターブ)ら誘拐犯4人組が押し入り、人質イーシャー(イーシャー)の家族と交渉に入ろうとするが上手くいかず・・・(苦笑)。
Revie-U *結末には触れていません。
インド映画史に燦然と輝く「炎」Sholay(1975)のリメイクが難航しているラーム・ゴーパル・ヴァルマーが製作、監督は「サティヤ」Satya(1998)の主演J・D・チャクラワルティー。テルグ映画界出身のふたりが組んでいるだけに、一風変わった映画に仕上がっている。
チャクラワルティーは初監督作品「Durga」(2002)でヒンディー映画市場にもシャー・ルク・カーンの向こうを張ってヒーローとして認知されよう画策としたが果たせず、今回は監督に専念している。
代わりに主役を担うのが「Kasoor(過ち)」(2001)のアーフターブ・シヴダサーニー。
「Mast(陶酔)」(1999)で子役から脱皮を計って再デビュー、新人賞も獲得して2000年代のトップスターを期待されてはいたが、その童顔からあれよあれよと言う間に後からデビューしたアルジュン・ラームパールやファルディーン・カーンの引き立て役に。しかも、お腹のあたりに早くから脂肪が・・・。
「Jaani Dushman(命敵:奇譚篇)」(2002)では脇役扱いとあって大いに心配したものだが、ここへ来て風格を醸し出す役者に成長。本作はやや伸ばした長髪に髭ヅラで男臭さをアピール。アミーシャー・パテール&イーシャー・デーオールとの「Akahee」(2006)でも、はっとするような表情を見せ、今後の活躍にも注目したい。
このアーフターブ扮するは安ホテル(食堂)のウエイター、アジャイ・パンディット。
彼と手を組んで誘拐を働くのが、ラグーこと運転手のラグヴィール・アチャレーカル、パーンワーラーのゴーヴィンド・ガヴデー略してゴガ、そしてダフ屋のアッバース・カバリーの3人。
これらのキャラクターが端切れのよいナレーションで紹介されてゆくのだが、このへんはサンジャイ・ダットをナレーターにフィーチャルした「Taxi Number 9211」(2006)や「Buluffmaster!」(2005)を意識してのことかと思っていたら、アッバースの紹介ショットで「Buluffmaster!」の看板が大写しに!
「Durga」でもシリアスな学園物かと思わせて「KKHH」(1998)のポスターを出しまくっていた確信犯のチャクラワルティーらしい(苦笑)。
演ずるは、ラグー役に「Qayamat」(2003)のチャンキー・パーンディー。「Elaan」(2005)や「Ssukh」(2005)のハズレぶりは目も当てられなかったが、本作では、たまたまシャンプーを売りに来た訪問販売のセールスガールを招き入れ、ほのかに恋心を抱いてしまうなど、彼の軽妙なところが活かされていて久々によい。
ゴガ役のスネハール・ラールは「Love Ke Liye Kuchh Bhi Karega(愛のために何もかも)」(2001)でアイシュワリヤー・ラーイをネタに映画好きのゴロツキ、ジョニー・リーヴァルを手玉に取った詐欺師役が記憶に残っているが、本作では台詞とナレーションも担当。
アッバース役のザキール・フセインは、「The Killer」(2006)でアンダーワールドのインテリ風ドンを演じていたが、こちらの方が強烈!
屋敷を占拠される主カンティラールを演じるのが、「D」(2005)、「Sarkar」(2005)などR・G・V作品の常連イシュラート・アリー。恐ろしいほどの醜顔故に似非クンフーもキマって見え、助演男優賞間違いなし?!
その妻サリターに「Taxi Number 9211」のスミター・ジャイカル、女中チャメリが「Veer Zaara(ヴィールーとザーラー)」(2004)で助演女優賞にノミネートされたデヴィヤー・ダッタ。アーフターブの妻を演じた「Kasoor」では殺されるシーンのみの登場だった。
これに、アンダーワールドで成り上がりを夢見るピザの配達人、彼女を追ってやって来た警官にして夫(ラヴィ・カーレー)、カンティラールに金を貸していた心臓患いのシェッティー(ジーヴァ)、ひと晩家を空けた父親を探しにやって来たその息子(ジャーヴェード)、シャンプーのセールスガール、心臓マヒの処置に呼ばれた動物医(コーター・シュリーニヴァーサン・ラーオ)……と、とにかくこの屋敷を訪ねて来た者は片っ端から監禁されてしまうのが可笑しい(特にジーヴァのドラヴィダ顔が強烈!)。
屋敷限定のシチュエーション・コメディーでは「クワイエット・ファミリー」(1998=韓国)が思い出されるが、本作は事件が片づくまでの終幕以外、屋敷の屋内から一歩も出ない密室劇のセオリーを守っていて好感が持てる。
押し入った晩、腹が減った男たちが某ピザショップにチキンピザを頼もうとしてベジタリアンの一家に猛反対を受けたり、いざ、身代金の交渉に入ろうとイーシャーの家族に電話するや、にべもなく電話を切られてしまったり、父親さえ放蕩娘の悪戯とばかり「だったら、娘を殺してしまえ!」などと言うに及び、人質たちに懇願させるビデオレターを撮影したり、人質も加わって身代金の分け前を皮算用したり……本作におけるチャクラワルティーのコメディ・センスは、かなり上出来。
もちろん、この先鋭さは、タミル映画界のカマル・ハーサン製作・脚本・主演「Mumbai Express」(2005)あたりを意識してのことだろう。
さて、誘拐犯たちが拉致したヒロインはと言うと、デビュー直前の50th Film Fare Awardsのオープニング・パフォーマンスで持ち芸の空中舞踊を披露し、「ダンスの神と結ばれた」とまで評されたイーシャー・シャルワーニー。これが空中ヨーガを見せた「Kisna」(2005)に続く第2作とあって、役名もイーシャー。
が、ダンス・シーンはなく(一応、ふざけて踊るシーンはあるけれど)、故に印象は薄く、なぜ本作に出演??
セカンド・ヒロイン?にあたるのがセールスガール、ジュリー役のマニーシャー・コイララ。三十路をかなり踏み込んで久しく、若づくりの役柄が辛く思えないこともないが、その艶やかな美しさは相変わらずで、芝居の面でも十年の長を見せつけるところは流石。
ジュリーとラグーには映画ネタの会話が用意されていて、これまた楽しませてくれるのだが、「どんな映画が好きか?」と尋ねられたジュリーが答えるのが「Sholay」というもの二重に笑える(ラストで盗賊たちが殺されるのと、R・G・Vが難航しているから)。
レンブラント・ライトを多用したチョーター・K・ナイドゥーの撮影も見事、バノーダーヤーの編集も冴える。
クナール・メーヘターとパリクシュット・ラールワーニーによるサウンド・デザインも良好。鳴る度に人質が増えてゆくドアベルのジングルが小鳥のさえずりというもの素っ惚けているし、男臭い犯人たちがガンガン流れるフィルミーソングの着メロ(「Aksar」の「jhalak」など)に一喜一憂するのも可笑しい。ただし、悲愁感あふれるニーノ・ロータ「ゴッドファーザー」の借用というのはなんであるが。
ちなみに、タイトルソングはピザ配達人役として出演しているニティン・ライワール。
本作の白眉は、やはり身代金を届けに来た父親とイーシャーの再会だろう。ここで父親役の俳優が見せる奥行きある芝居は一級品! ボリウッドの芸域の広さにあらためて感心してしまう。
出来はよいものの、ダンス・ナンバルなしのマイナー作品だけにヒットは望めず?? しかし、アーフターブの新たな魅力が楽しめる秀作といえよう。
*2010.09.11追記
>J・D・チャクラワルティー
「Sholay」炎(1975)のリメイクは結局「Ram Gopal Varma Ki Aag(ラーム・ゴーパル・ヴァルマーの火)」(2007)に変更となり、J・Dもこれに出演している。
役者としては、スシュミター・セーン主演のホラー「Vaastu Shastra(風水経典)」(2004)における、あまり目立たない夫役がよかった。
その後、監督を2作手がけているがテルグ映画ばかりで、ヒンディー進出は諦めたようだ。
>イーシャー・シャルワーニー
鳴り物入りでデビューしたものの、パッとせず、確信犯的キャスティングの「Luck by Chance」チャンスをつかめ!(2009)では、尻軽な2世女優役をすんなり引き受けていた。
芝居も上達していないところを見ると、そもそも女優になりたいわけではなかったのだろう。
>アーフターブ・シヴダサーニー
パッとしないと言えば、主演のアーフターブも然り。芝居も上手く存在感も増し、映画賞の司会などをよく引き受けるようになったものの、一枚看板としては心もとない限り。
ただし、「Bollywood/Hollywood」(2002)の焼き直し「Aloo Chaat(フライド・ポテト)」(2009)や「ハウエルズ家のちょっとおかしな葬式」のイタダキ「Daddy Cool」(2009)、「ビッグ」の変形「Aao Wish Karein(さあ、願って)」(2009)など、アーフターブ・ファンには楽しめる。
>ザキール・フセイン
あのタブラー名奏者のザーキル・フセインとは別人。「Deadline」(2006)のちょっと抜けてる誘拐犯、ヒメーシュ・リシャームミヤー主演「Radio」(2009)におけるヒロインの父親役などが印象的。