Agneepath(1990)#315
「Agneepath(火の路)」(1990) ★★★☆
アグニーパト
製作:ヤシュ・ジョハール、ヒルー・ジョハール/原詩:Dr. H. R. バッチャン/監督:ムクール・S・アーナンド/原案・脚本:サントーシュ・K・サロージ/台詞:カーダル・カーン/撮影:プラヴィーン・バット/作詞:アーナンド・バクシー/音楽:ラクシュミーカーントピャーレラール/振付:カマル/アクション:パップー・ヴェルマー/美術:スデンドゥ・ローイ/編集:ワマン・ボースレー、グルダット・シラリ
出演:アミターブ・バッチャン、ミトゥン・チャクラワルティー、マダヴィー、ニーラム、ダニー・デンゾンパ、アロークナート、ローヒニー・ハッタンガディー、ティヌー・アーナンド、ヴィクラム・ゴーカレー、アルチャナー・プーラン・スィン、マスタル・マンジュナート、シャラート・サクセーナ、ゴーガ・カプール、モンティー、アヴタール・ギル、アルヴィンド・ラトール、プラデープ・ラーワト、シャンミー、アンジャン・スリワスターワ、ベビー・タッバシュム、ヤスミーン、ボブ・クリストー、ベビー・アイーシャー、ヴィジャイ・ガヴリー、トニー・レウィズ、ラージ・シン、ディーパック・シャルマー、ハルシュ・トリパティー、ディーパック・シルケー
特別出演:シャクティー・カプール、アーシャー・サッチデーウ
受賞:National Film Awards 主演男優賞(アミターブ・バッチャン)、Filmfare Awards 助演男優賞(ミトゥン・チャクラワルティー)、Filmfare Awards 助演女優賞(ローヒニー・ハッタンガディー)
公開日:1990年2月16日(日本未公開)
STORY
人格者の学校教師ディーナナート(アロークナート)は、マンドワ村の誇りであった。しかし、彼を疎ましく思っていた地主に取り入ったアンダーワールドのドン、カンチャー・チーナー(ダニー)がマンドワ村を密輸の中継点として確保するため、ディーナナートに汚名を着せ抹殺する。ディーナナートのひとり息子ヴィジャイ(アミターブ)は母と妹を連れ村を去った後、ボンベイの下町でグンダー(ヤクザ)として名をなすが…。
Revie-U
東京国際映画祭で上映されるリティク・ローシャンNプリヤンカー・チョープラー×サンジャイ・ダット出演「Agneepath」火の道(2012)のオリジナルが本作。
製作は「家族の四季」K3G(2001)等を手がけた故ヤシュ・ジョハールで、リメイク版は彼の息子カラン・ジョハールが亡き父を偲んでのプロデュース。
監督のムクール・S・アーナンドは名匠とまでは行かないが、本作後、「Hum」タイガー・炎の3兄弟(1991)、「Khuda Gawah(神に誓って)」(1992)と3年連続でアミターブ3部作を放ち、どれも力強い演出。海賊ビデオ勢の影響で没落しかけ、かつての栄華に満ちた映画美術のスキルを失った垢抜けない時期だけに荒っぽい作風であるが、悲痛なテーマを選び、荒唐無稽を抑えているのは、ヴィドゥー・ヴィノード・チョープラー監督が実録タッチの「Parinda(鳥)」(1989)を前年に取りかかっていた時代の流れだろう。
さて、本作の主演は、言わずと知れたボリウッドの帝王アミターブ・バッチャン。しかもストーリーはアミターブの父である文学者Dr. H. R. バッチャンの手による同名の詩からインスパイア、憤怒に生きた成り上がりのヤクザを演じNational Film Awards 主演男優賞を受賞しただけあって、バッチャン家にとって思い入れの強い作品だ。
80年代後半、政界スキャンダルなど低迷期に向かっていたアミターブにとって、それらを払拭する迫真の演技であり、息子のアビシェーク・バッチャンも父の出演作で最もお氣に入り演技であったという。
注目は、ヴィジャイの生命を助け、後に彼の妹シクシャーと恋仲になるクリシュナン・アイヤール役のが、「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」CC2C(2009)でアクシャイ・クマール相手に情感溢れる芝居で日本の劇場でも観客をも魅了したミトゥン・チャクラワルティー。80年代にアミターブを追撃しスターダムに上がっていたミトゥンだが、本作ではアミターブを立て道化役に専念。アイヤールの名よろしく南インド出身で訛り全開、ルンギー(腰巻き)姿の田舎者という設定で、これを逆手に取って大学のディスコ・パーティーに乗り込むダンス・ナンバル「I am krishnan Iyer M.A.」を奢られているのは、一世風靡したカルト・ヒット作「Disco Dancer」(1982)の返し技。「傷だらけの天使」で萩原健一を喰った水谷豊よろしく、アミターブを向こうにまわし見事、Filmfare Awards 助演男優賞を受賞。
その恋人となるシクシャー役が、息子カランの初監督作「Kuch Kuch Hota Hai」何かが起きてる(1998)でキャスター役で彼女自身としてゲスト出演していたニーラム。
瀕死の重傷を負い入院したヴィジャイを献身的に看護するうちに彼から想いを寄せられる看護婦マリー役が、南インド映画界の女優マダヴィー。テルグ映画でチランジーヴィーの相手役を務める一方、ヒンディー映画のボリウッドにも遠征するものの、やや華を欠いた印象。それだけに暗いテイストを秘める本作のヒロインとしては相応しいが、やはり今ひとつ。
そして敵役となるカンチャー・チーナー役が「Pukar(熱)」(2000)、「16 December」(2002)等の名優ダニー・デンゾンパ。米「セブン・イヤーズ・イン・チベット」で宰相役に起用された他、近年も「Luck」(2009)等で燻し銀の芝居を見せる一方、ヒマラヤのチベット系住民を描いた「Frozen」(2007)に出演。
ボンベイの地下社会を支配するアンダーワールドのドンらしく、国外脱出し海外の南洋にてインド国内へ指示を送るというのがすでにこの時期から設定されているのが興味深い。
サポーティングは、ヴィジャイに詩「Agneepath」を教える父親役に「Maine Pyar Kiya(私は愛を知った)」(1989)はじめ、「家族の四季」等、往年の父親役定番役者として知られたアロークナートを配役。
ヴィジャイの母親役に「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)でサンジャイ・ダットに魔法のハグを施していたローヒニー・ハッタンガディー。英「ガンジー」では、マハートマー・ガーンディーの妻カストゥルバに扮している。本作では夕食に訪れたヤクザのヴィジャイに「手を洗え」と諭す。日本で言うところの「足を洗え」だが、生死を賭けた戦いを繰り返すヤクザの生き方を、人と獣(けだもの)の狭間として描いている。
ヴィジャイに目をかける警察署長に「ミモラ 心のままに」Hum Dil De Chuke Sanam(1999)でアイシュワリヤー・ラーイの父親を演じていたヴィクラム・ゴーカレー。
ヴィジャイらをボンベイに連れ出す村の酔っ払い役にティヌー・アーナンド。普段は卑屈者を演じる事が多いだけに「泣き」役として効果抜群。
カンチャーの愛人役に「Kuch Kuch Hota Hai」の悩殺英語教師アルチャナー・プーラン・スィン、悪徳地主にゴーガ・カプール、ヴィジャイの敵となるボンベイのボスたち等にシャラート・サクセーナ、モンティー、アヴタール・ギル、アンジャン・スリワスターワ等、迷脇役たちの顔が並んでいるのが嬉しい。
また、海外という設定のリゾート・ナンバル「ali baba mil gaye chalis choron se(アリババが40人の盗賊をみつけた)」にシャクティー・カプールがゲスト歌手として登場。
汚名を着せられた上、村人に撲殺された恨みと生まれ育った村への愛憎がない交ぜとなるヴィジャイだが、少年時代を演じるマスタル・マンジュナートもアミターブに負けない凄みを見せる。
タイトルの「Agneepath(火の路)」は、人生に立ち塞がる困難をも物ともせず、信念を貫き、果敢に歩めと諭す詩(これにより、父親ディーナナートは苦難の道へ陥る事になるのだが)。それだけにクライマックスでは、海岸に据えられたオープン・セットのマンドワ村がカンチャー・チーナーに仕掛けられた爆薬で炎上しまくり、まさしく瓦礫の中の「炎の路」を怒りに染まったアミターブが走り行くシーンは圧巻!(もっともアクション・シーンのBGMは「ブラックレイン」をそのまま借用!)
クライマックス前、盛大に祝われるガネーシャ祭でモブ(群衆)・シーンによるダイナミズムは故ヤシュ・チョープラー(去る2012年10月21日に没)監督の「Darr(恐怖)」(1993)におけるストーカー、シャー・ルク・カーンがジュヒー・チャーウラーの前に現れた後、ホーリー(春の色かけ祭)を祝う群衆へと消えるスケッチに発展したと思われる。
子役からアミターブへと代わる警察署の取り調べシーンで語られる名台詞「本名、ヴィジャイ・ディーナナート・チョウハン。父の名はディーナナート・チョウハン、母の名はスハシーニー・チョウハン、出身はマンドワ村…」、そして村の土を持ち歩く描写にインド人がいかに自分たちの出自を誇り、拠り所にしているかが解る。
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