Lucky(2005)#046
Lucky 2006.04.22 ★★★★
製作:ブーシャン・クマール、クリシャン・クマール、ソハイル・カーン/脚本・監督:ラディカー・ラーオ、ヴィネイ・サプルー/台詞:ミラープ・ザヴェリ/撮影:スディープ・チャッテルジー/作詞:サミール/音楽:アドナン・サミ/振付:レモ、ロリーポップ、ラージュー・カーン/背景音楽:モンティー/アクション:マヘンドラ・ヴェルマー、ゴロヴィキン・セルゲイ/編集:デーヴェン・ムルデーシュワール
出演:サルマーン・カーン、スネハー・ウッラール、ミトゥン・チャクラワルティー、カーダル・カーン、ヴィクラム・ゴーカレー、ラヴィ・バスワーニー、ナヴニー・パリハール、プリヤンカー・シノーイー、ムマヤト・カーン、ヴァイシャリー・セフデーヴ、レベッカ、ウペンドラ・ジョーシー
公開日:2005年4月8日(年間16位/日本未公開)
STORY
ロシアに住むNRIの女学生ラッキー(スネハー)は、ふとしたことからアディ(サルマーン)の愛車に乗り込み、テロリストの襲撃を受ける! 戒厳令の最中、空港へと向かうふたりに恋が芽生え・・・。
Revie-U
ボリウッドの甘い徒花、サルマーン・カーンに5年の判決が下ったというニュース(注:初回アップ時)。「Hum Saath Saath Hain」(1999)の撮影中、禁猟動物をハンティングしたということで、サルーだけでなく共演のサイーフ・アリー・カーンやソーナーリー・ベンドレーなどの女性キャストも題名通り「みんな一緒に」逮捕された事件である(苦笑)。
インドも日本同様に裁判にやたらと時間がかかり、その間に大抵の事件はうやむやにされて、金に余裕のある階層だけが助かるという構図も似ている。
現在の野生動物保護にうるさい状況が苦しいだけでなく、実際に30代半ばでマシンガン不法所持とテロ幇助罪で服役したサンジャイ・ダットと比べ、40の大台に乗ったサルーがここで数年の実刑を喰らうとすると、サンジューのような奇跡の復活は難しいと思われる……。

(c)Sohail Khan Production, 2005.
本作公開時に話題となったのは、ヒロインの新人スネハー・ウッラールが、なんとサルーと別れた後もなにかと取り沙汰されるアイシュワリヤー・ラーイのそっくりさんということ!
スネハーはオマーン生まれの19歳(撮影時は17〜18歳)で確かにアイシュ顔であるものの、つたない演技から「Jhankaar Beats」(2003)の若手女優リヤー・セーン(母がセクシー女優のムーン・ムーン・セーン、姉がライマー・セーン)を思い出してしまう。
彼女が演じるヒロインの名前が「ラッキー」。 これが名前に反してサルー演じるアディにトラブルをもたらす<疫病神>になるのが可笑しい。さらに、サルーがアイシュそっくりのスネハーに「彼氏がいるんだろ?」と問い詰め、「彼氏なんていません。本当です。信じてください!」と言わせたり、はたまた「君なしでは生きられない! 君なしでは死んでしまうよ!」とサルーの本心とも虚心とも思える台詞が用意されているので、さぞかしインドの映画館では苦々しい笑いでいっぱいだったことだろう(もっとも、現在の恋人は「Maine Pyaar Kyun Kiya(私は愛をなぜか知った)」で共演した英印ミックスのカトリーナー・ケイフだとか)。
このへんは、サルーの弟ソハイル・カーンが自らのプロダクションで製作協力しているため(サルー自身がスネハーに電話で交渉したとも伝えられる)果たしてどのような意味合いがあるのか不明だが、企画の当初はリシ・カプールの娘がキャスティングされていたものの、彼女が実業家に嫁いでしまい新人発掘と相成った。
ただ、スネハーに入れ込んでいるのはソハイルの方らしく(?)、彼の次回作「Aryan」で共演するとのこと。
映画は美しいロシアの蒼い空から始まり、女学生ラッキーの学内シーンがしばらく綴られる。イーシャー・デーオールのデビュー作「Na Tum Jaano Na Hum」(2002)よろしく、ほのかなラブロマンスが続くかと思えば、ロシア人青年に襲われたラッキーがアディのクルマに逃げ込み、たまたま差しかかった検問でテロリストの攻撃を受け(!)、事態は戒厳令下の逃亡劇となるから驚き!
映画が俄然面白くなるのは、非常事態の中、行方不明となったふたりを捜索するため、情報部出身の凄腕退役軍人PDことパンディ・ダース・カプール大佐が登場してから。演ずるは、このところリスペクト・オファーが続く「Chingaari(閃光)」(2006)のミトゥン・チャクラワルティー!
‘ミトゥン・ダー’は、80年代はボリウッド・メジャーでも活躍していたが90年代はB級映画のヒーローに甘んじていたことから、ソニー千葉に準えてみたものの、本作で見せる彼の芝居は実に軽やかで、それまでのトーンを崩すことなく映画に奥行きを与えるなど、改めてインド映画界の実力を再認識! 特殊メイクによってロシア人に化けては「メー・フーン・コーン(私は誰?)」と、アミターブ・バッチャン主演「Don」(1978)のフィルミーナンバー「main hoon don(俺がドンだ)」を地声で披露したり、ミトゥン・ダーのエンターティナーぶりには脱帽してしまう!
さらに驚かされるのは、一時、あのシュリーデヴィーと不倫状態にあったということ!!! リティク・ローシャンの父親ラーケーシュ・ローシャンがプロデュースした出演作「Jaag Utha Insan」(1984)でのことだとか。いやはや、恐るべしミトゥン・ダー!
それにしても、絵を見るようなロシア・ロケは、なんとも美しい限り!
一見、インド映画と場違いに思えるかもしれないが、旧ソヴィエト共産圏は社会主義路線を取っていたインドと連携する部分もあり、昔から数々のボリウッド映画が輸入され、ラージ・カプールの「放浪者」Awara(1951)がヒットしたり、ダルメンドラ&ヘーマ・マーリニー「Alibaba Aur 40 Chor(アリババと40人の盗賊)」(1980=印ソ)のような合作も作られている。
あの凍てついた大ロシアにあって、マサーラー脳になり過ぎて、シベリア送りされたり、粛正された人々も多かったのではないだろうか(当然ながら、ロシアでもボリウッド通販サイトがアップされていて、実に嬉しい!)。

(c)Sohail Khan Production, 2005.
こうした背景から親露的に思えるインド人であるが、本作の設定からインド人が抱いているであろうロシア人が浮き上がってくるのが興味深い。瀕死の重傷を負ったラッキーを医者のところへ運ぼうとするアディに金銭ばかりか彼の愛車まで要求したり、その医師にしても戒厳令の中でパスポートを持たないふたりを自宅に置いておけぬと寒空の下に追い出す他、列車に我先に乗り込んだ群衆はさっさと鉄の扉を閉めてしまうなど、社会的なテーマを選んだボリウッド映画でも見かけない描写が織り込まれており、ITバブルに賑わうインドと負の遺産に喘ぐロシアの差が見て取れる。
反面、先の医者への案内代としてクルマを要求した青年はインド人とのハーフという設定で、父親であるインド人医師(扮するはカーダル・カーン)は自宅に「Mother India」(1957)をはじめとするヒンディー映画のポスターを飾りつつも、ヒンディーが解らぬ娘を持ち、困窮した人間を見放すなど、自国の文化や誇りを失ったNRIへの批判も込められているようにも思える。
音楽は、バラード・キングと呼ばれるアドナン・サミが担当。

(c)Sohail Khan Production, 2005.
掴みの「lucky lips」は、アーシャー・ボースレーをフィーチャル。スネハーら制服姿の女子学生たちがロシア(ロケ地不明)の町に繰り出す、粋なナンバー。アーシャー・ジーの歌声は、とても70代半ばとは思えないグルーヴ感を持ち、思わず聴き惚れてしまう。シンプルな振付ながら印象的で、ロケに借り出されたロシア人たちも実に楽しそう!
道行くロシアの女児に「カワイイ!」と祝福するスネハーの仕草が佳い。
森の中で野宿するラッキーが思い描く幻想ナンバル「jaan meri rahi sanam」は、「Garam Masala」(2005)の美術ナンバル「falak dekhun」に通じる美麗なセットが目を引く。ブルーの基調は、スネハーの瞳を讚えたものか? 案外、スネハーはロシア人好みかも。
その他、ソーヌー・ニガム「chori chori」、「sun zara」も耳に残る。

(c)Sohail Khan Production, 2005.
さて、スネハーあるが、女学生役ということも手伝ってそのたどたどしい演技も許容でき、氣になるダンスもアイシュとは比べられないがなかなかリズミカルに動き、今どきの新人女優のレベルからすると及第点といえよう(他の役柄となったら、その保証の限りではないが)。
共同監督のラディカ・ラーオとヴィネイ・サプルーは、どちらも新人監督。映画の出来は、戒厳令下の逃亡劇が全体の3分の2にあたるため、ややダレるのが難点。サブタイトルの「No Time for Love」通り、逃げ込んだ森の中でラッキーが汚染された水を飲んで不二の病に倒れる悲劇となって、前半後半の色合いがはっきり分かれた方が面白くなっただろうと思う。
トラブルメーカーの素行だけでなく、髪の毛の1本1本にまでとやかく言われる(?)サルーであるが、スターとしての存在感は依然として高いだけに、今後の展開が氣になる。
また、ロシア軍が全面協力しているので、ミリタリーマニアにはオススメかも??
*追記 2010,09,07
フロップ扱いされた本作だが、年間16位というのは、けっこうな驚き。
旬なアドナン・サミを起用し、ミュージカル場面でも美術に凝っただけある。
そしてなによりミトゥン・ダーはこの年、マニ・ラトナム作品「Guru」(2005)、欧州各国ロケのアクション大作「Elaan」(2005)など5本に出演し完全復活にあった。
「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」CC2C(2009)における親方役(実際は兄貴役)の情愛深い演技に、劇場で涙したファンも多かったはず。
本作でデビューしたスネハー・ウッラールは、サルマーンの末弟ソハイル(本作ではプロデューサー)共演「Aryan」(2006)でも健氣な芝居を見せていた。
もっともその後はパッとせず、早々に消えたかに見えて、テルグ映画界にシフト。今年、シュリヤス・タルパデー主演のスリラー「Click」(2010)で久々にボリウッドに復帰。
ちなみに本作のファースト・ナンバル「lucky lips」に永遠の歌姫アーシャー・ボースレーが招かれているのは、新人女優にとって最高の祝福。
ところで、サルマーンは2009年の段階でカトリーナー・ケイフとブレイクUPしている。
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