Jhankaar Beats(2003)#045
Jhankaar Beats(ジャンカール・ビーツ) 05.11.18UP ★★★★
製作:ランギーター・プロティーシュ、ナンディー/監督・原案・脚本・台詞:スジョーイ・ゴーシュ/台詞:スレーシュ・ナーヤル、マラープ・ザヴェーリ/撮影:マザール・カムラーン/美術:オムン・クマール/アクション:シャミン・アーズミー/振付:ニメーシュ・バット、テレンス・ルイス、ロリーポップ、ピユーシュ・パンチャル/音楽:ヴィシャール-シェーカル/作詞:ヴィシャール・ダドラニー/編集:スレーシュ・パーイ
出演:ラーフル・ボース、サンジャイ・スリ、リンキー・カンナー、リヤー・セーン、ジュヒー・チャーウラー、シャヤン・マンシー、イクラル・カトリ、アルチャナー・プーラン・スィン、ディンヤル・コントラクター、クルーシュ・デブー、パルミート・セーティ
公開日:2003年6月20日(日本未公開)
Film Fare Awards:R・D・バルマン賞(ヴィシャール-シェーカル)
Zee Cine Awards:男性プレイバックシンガー賞(シャーン「suno na…」)
STORY
年に一度のバンド・コンテスト「ジャンカル・ビーツ」での優勝を夢見るリシー(ラーフル)とディープ(サンジャイ)。それに若いニール(シャヤン)が加わって・・・。
Revie-U
インド映画ながら英語劇で、しかも洋画に合わせた2時間余りの「短め」というヒングリッシュ映画が、2000年以降の新たな潮流となって久しい。
本作も2時間15分ながら完全な「ヒングリッシュ映画」というわけではなく、大半はヒンディーの台詞で進行する。もっとも登場人物は、例の巻き舌「インド英語」でなく流暢な英語を使い、洗練されたところを見せている。
3人の男たちの友情物語というと「Dil Chahta Hai(心が望んでる)」(2001)が思い出されるが、そう言えば、メジャー作品ながらテイストは正にヒングリッシュ映画であった。
唯一のスターであるジュヒー・チャーウラーは、ディープの妻シャンティ役。
若手の低予算映画にも理解を示して出演するところが好感が持てるが、妊婦役というのも驚き。まさに本当の妊娠中に出演したんじゃないか、と思ってしまうが、さすがに出産を経験しただけに、立ち上がろうとしたところで膝に手をつくなど妊婦の芝居もリアル。
女優としてはヒロイン役が望めなくなったものの、「3 Deewarein(3つの壁)」(2003)など、役柄を広げて出演作も増え続けている。
ディープ役のサンジャイ・スリは、ラヴィーナー・タンダンと共演した「Daman」(2001)の記憶がある。好青年で芝居もよいものの、ヴォーカリスト役としては華に足りないのが今一つ。
リシー役のラーフル・ボースは、アジャイ・デーヴガン主演「Thakshak(カッター)」(1999)で鮮烈な印象を残していたが、その後、自作の脚本を監督したヒングリッシュ作品「Everybody Says I’m Fine!(エブリバディ・セイズ・アイム・ファイン!)」(2001)をカンヌに出品。その時、役者として出ていたスジョーイが本作の監督。彼らの友情がそのままリシーとディープに見て取れる。
劇中、リシーがやたらと「炎」Sholay(1975)話を持ち出すが、これも映画のヒーローであるヴィールとジャイにふたりの友情を重ね合わせてのこと。
「炎」といえば、インド映画史上最長ロングラン作品として今なお記録を更新し続けているが(2004年10月の段階で1521週!!!)、若いふたりのお氣に入り映画という設定にも、その浸透ぶりが判ろうというもの。なにしろ後半、リシーとディープの友情にヒビが入りかけた時、タクシーのラジオから流れて来るのが名曲「yeh dosti(これが友情)」なのだ(ただし、オリジナル・ヴァージョンではなく、シャーンがカバーしたもの)。
さて、もうひとり、彼らのアイドルとして取り上げられているのが、ボリウッド映画音楽の大家、R・D・バルマンだ。「ジャンカール・ビーツ」に出場するようなポップ・デュオながら、心の師として仰ぐのがR・Dと来ているのだから、これまたその偉業ぶりが伝わってくるというもの。なにしろ、リシーとディープという役名もバルマンに由来するのだから。
その他、「デーヴダース」ネタの会話や、喧嘩した妻に謝る場面でリシーがラジカセからラター・マンゲーシュカルのフィルミーソング(曲名未調査)を流したり、と、往年の映画が今もインドの人々の中に生きているのが感じられる。
(ちなみに、バルマンはクロノス・カルテットにもリスペクトされ、彼の伴侶アーシャー・ボースレーをフィーチャルしたアルバム「You’ve
Stolen My Heart」が本年8月にリリースされた)
このアマチュア・デュオに憧れてギタリストとして参加してくる若者ニール役が、新人のシャヤン・マンシー。今風の若者らしく、さっぱりとしたイケメンで、日本でいえば竹野内豊といったところか。
彼が恋しているのが、モデルまがいにスタイルのよいプリティー。演じるは、「Qayamat(破滅)」(2003)のリヤー・セーン。つっけんどんな台詞まわしが氣になるが、シャヤンともどもダンスもまずまずの出来。
ニールはやたらと奥手で、好きな娘を口説こうにもついつい「洗濯屋はどこですか?」と訊いてしまうのが可笑しい。そこでリシーとディープが愛のキューピットとなるべく、彼女が通う教会でロマンス・ナンバル「tu asshiqui hai」を披露してギターを弾くニールに彼女が魅かれるという展開を用意。曲中、プリティーが照れながら思い出し笑いしているかのように見えるのが微笑ましい。ついでに言えば、妊婦であるシャンティが老婆に席を譲って、プリティーと同一フレームへと移ってゆく脚本術にも感心。
リシーと別居中の妻ニッキー役は、「Mujhe Kucch Kehna Hai(私に何か言わせて)」(2001)のリンキー・カンナー。「Pyar
Main Khabhi Kabhi(時々愛して)」(1999)でLux Zee Cine Awards 新人女優賞を受賞したものの、その後はパッとせず。「Yeh Hai Jalwa」(2002)では、ほとんど誰だかわからないほどだった(苦笑)。
今回は、離婚調停中に弁護士とデキてしまうという今風な役どころ。しかも、ニッキーを偲ぶリシーの回想シーンでは、「氣持ちよくして欲しいの?」と運転中のリシーに○○○し始める大胆な(?)スケッチにも果敢に挑戦! 姉トゥインクル・カンナーのようなゴージャスな風貌ではないからメジャー作品のヒロインは難しいとしても、逆にこの手の映画で実力を伸ばして欲しいところである(と、思ったのだが、リンキーはすでに既婚。しかも、2004年11月に女子を出産。このままでは、トゥインクル同様、引退してしまうのでは?)。
サポーティングは、エレベーターに乗り込む氣取ったマダム役に「Mohabbatein(愛)」(2000)のアルチャナー・プーラン・スィン。セクシー熟女路線ながら今回は台詞がなく、ヒングリッシュ映画なのに例の鼻にかかったすかした英語を聞くことができないのが残念。
ふたりが務める広告代理店の社長にして、ニールの父親役が「Devdas(デーヴダース)」(2002)でアイシュワリヤー・ラーイ扮するパローを娶るヴィジャイェンドラ・ガートギ。
鼻糞クライアント役に「Baadshah(帝王)」(1999)のディンヤル・コントラクター。間延びした芝居が氣を持たせる。
ニッキーの弁護士ながら彼女といい仲になっているのが、パルミート・セーティ。「DDLJラブゲット作戦」(1995)でカジョールのフィアンセ、クルジート役だった髭剃り跡の濃い男。ピカピカ光る金歯が傷心のニッキーの氣を引いた?
絶倫男(苦笑)ヴィジャイ役の、ラージャー・ワーイドも注目!
また、リシーの住むマンションの門番役で「Aashiq(愛人)」(2000)などインドラ・クマール作品でお馴染みのマンマウジーが顔を見せている。
監督のスジョーイ・ゴーシュは、これがデビュー作。演出力は、カットバックを駆使したスレーシュ・パーイの編集も手伝ってなかなかに小気味よい。「炎」やR・D・バルマンを引用する懐古趣味の一方で、ふたりが請け負う広告仕事がコンドームだったり、ピー音の挿入など今風のモチーフを取り込み、さらにはリシーの○○○事件(それが故に事故ってしまう!)など、かなり先走った描写も・・・。
本作の後は再び自作脚本で、ヴィヴェーク・オベローイ主演「Home Delivery(ホーム・デリバリー)」が待機中! 他にマヒマー・チョウドリーがキャスティングされている。サウラーブ・シュクラーのつるっパゲ・メイクからすると、テイストもヒングリッシュからマサーラー路線に一転しているのか、氣になるところだ。
音楽監督のヴィシャール-シェーカル(作詞も担当のヴィシャール・ダドラニーとシェーカル・ラウジアーニーのコンビ)は、リンキーの「PMKK」も担当。ジャンカール・ビーツにエントリー中のナンバル「humein tumse pyaar kitna」は、アミット・クマールのプレイバックもあって少々レトロちっくに聞こえるのがポイント。このナンバル、シャーンによる「PMKK」のナンバー「woh pheli baar」のリサイクルであるのはご愛嬌。
テーマ・ソングのスディーシュ・ボースレーのダミ声シャウトは、ムンターズとラージェーシュ・カンナー主演「Apna Desh(我が国)」(1972)のポピュラー・ナンバル「Duniya mein logon ko」が大本。
ジャンカール「ビーツ」とは言いながら、主人公たちが尊敬するのがR・D・バルマンだけに彼らの演奏するナンバーがメロディアスであるのが佳い。フィルミーソングは、どれもメローで秀逸。
劇中、R・D・バルマンを盛んに持ち上げたからではないだろうが、Film Fare Awards R・D・バルマン賞を、シャーンがニールの妄想ナンバー「suno na…」でZee Cine Awards 男性プレイバックシンガー賞を受賞(ただし、劇中はショート・バージョン)。
その他、SCREEN VIDEOCON AWARDSに作詞賞(ヴィシャール・ダドラニー「tu aashiq hai」)、音楽監督賞、男性プレイバックシンガー賞(KK「tu aashiq hai」)、Zee Cine Awardsに新人監督賞、脚本賞、台詞賞、編集賞でノミネートされた。
追記 2010,09,06
本作製作当時、洒落たニュー・ウェーブと持て囃された「ヒングリッシュ映画」は、その後、ヒンディーの「小粒映画」に結晶。
リシー役、「Mr.ヒングリッシュ」ラーフル・ボースはアート系だけでなく、マリッカー・シュラワト共演「Pyaar Ke SIde Effects(愛の必殺技)」(2006)あたりから一般コメディ映画にも進出。つくばと横浜でロケした「The Japanese Wife」(2010) の日本公開が望まれる。
*ラーフル(Rahul)は、「KKHH」(1998)はじめ多くの映画で(日本人耳には)「ラーホール」と聞こえる。
サンジャイ・スリは、メジャー・マイナー映画の二枚目俳優として立ち位置をキープだが、パンチが足りないのが残念。
リンキー・カンナーは、思った通り引退となった。
アルチャナー・プーラン・スィンは、弁護士役パルミート・セーティの実の妻。いかにもゲスト出演的なのは、パルミートの配役が決まってからのオファーだろう。あるいは逆か?
リシー側の弁護士役クルーシュ・デブーは、「Munnna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)の医師ラスラム役が印象深かったもの、「Mujhse Shaadi Karogi(結婚しようよ)」(2004)でそのパロディーを演じたのが祟ったのか、続編「Lage Raho Munnna Bhai(やってよ、ムンナー兄貴)」(2006)では叩きのめされるためだけのチョイ役。その後も決定打はないのが寂しい。
音楽を担当したヴィシャール-シェーカルも大出世し、かの「Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)を担当。フィルミー・ソングの重低音クラブ・リミックス化を推し進めた音楽監督デュオであるが、本作でRDーーR・D・バルマン。「Sholay」炎(1975)も彼の手によるーーをリスペクトしていたように、「OSO」では70~80年代の大家ラクシュミーカーント-ピャーレーラールのピャーレーラール・ラームプラサード・シャルマーの手解きを受け、大いに感銘を受けていた(相方のラクシュミーカーント・シャーンタラーム・クダールカルは1998年没)。
さて、最も大化けしたのは、監督のスジョーイ・ゴーシュだろう。第2作「Home Delivery」(2005)も大した興業にならなかったものの、この時のライン・プロデューサー、サミール・ラージェンドランと組んだ監督第3作目が「ロード・オブ・ザ・リング」並みにCGIを駆使した超大作「Aladin」(2009)というから、世界不況を物ともしないボリウッド・バブルには驚く他ない。