Naqaab(2007)#044
Naqaab(仮面) 07.11.03 ★★★
ナカ.ーブ
製作:クマール・S・タウラーニー、ラーメーシュ・S・タウラーニー/監督:アッバース-ムスターン/原案・脚本:シラーズ・アフムド/台詞:アヌラーグ・プラパンナ、ジーテンドラ・パルマル/撮影:ラヴィ・ヤーダウ/作詞:サミール/音楽:プリータム/振付:ラジュー・カーン/アクション:コォーシャル-モーゼス/背景音楽:サリーム-スレイマン/衣装:ファルグニー・タークル/美術:アーシシュ・アナント・ラナード/VFX:プライム・フォーカス/編集:フセイン・バルマワーラー
出演:ボビー・デーオール、アクシャヱ・カンナー、ウルワシー・シャルマー(新人)、ヴィシャール・マルホートラ、ヴィカス・カラントリー、ラージ・ズトシー
特別出演:アルチャナ・プーラン・スィン
公開日:2007年7月13日(日本未公開)
STORY
ドバイのファストフード店で働くソフィア(ウルワシー)は、大富豪のカラン(ボビー)との結婚を控えながら、パーティーの席で俳優志望のヴィッキー(アクシャヱ)に心惹かれ始める。が、その姿を何者かが盗撮して・・・。
Revie-U *結末には触れておりません。ご安心を。
現在、世界展開するボリウッドにおいて最も重要なポイントであるUKとドバイ。本作もアウトドア・シーンの9割は、そんなドバイでロケを行っている。
ざっと振り返っても「Boom」(2003)、「Deewana Huye Paagal」(2005)、「Fool N Final」(2007)とドバイで大々的にロケした作品は多く、これで、日本にロケ隊が来ないのは「物価が高いから」と言い訳出来ないことに氣付く!
さて、オープニング・タイトルバックから目を引くのが、これがデビューとなるウルワシー・シャルマー。その名の通り麗しいマスクと完ぺきなボディを持つ。モデル出身とあって、身のこなしもしなやか。
ストーカー的キャメラアイも手伝って、「Soldier」(1998)におけるプリティーの登場ナンバル「mera khwabon mein jo aaye」を想い起こさせる。笑窪も引き継いでいるところから、第2のプリティー・ズィンターに成長するか?!
(もっとも、ルックスとしては、プリヤンカー・チョープラ+サミーラー・レッディ+イーシャー・シャルワニーをミックスしたような、いささか平凡な美形なのだが……スタイルは抜群)
富豪役のボビー・デーオールは、例の巻き毛の長髪を復活。伊達男ぶりが溜らない!
それにしても、本年(2007)はデーオール年。父ダルメンドラ出演作は、親子共演「Apne(身内)」、「Life
in a…Metro(大都会)」、「Johnny Gaddaar」の3本ともトップ5にチャート・イン。
ボビー自身も「Shakalaka Boom Boom」を皮切りに、ヤーシュ・ラージ作品「Jhoom Barabar Jhoom」、「Apne」、本作、彼自身としての主演「Nanhe Jaisalmer」、ゲスト出演「OM Shanti OM」など怒濤の勢いで、「Filmfare」誌の表紙も久々に飾るなど、天変地異が起きそうなほど??
さて、本作の収穫は、演技面で大きく飛躍したアクシャヱ・カンナーだろう。
DVDヴィデオキャメラを片手にヒロインを追いかけまわすなど「Taal(リズム)」(1999)めいているものの、嫌み加減が薄れているのは、内面の微妙なトーンを醸し出せるようになったから。
第20回東京国際映画祭でもコンペティション部門で上映された「ガンジー、わが父」Gandhi My Father(2007)で<負け犬>を控えめに演じた甲斐があったというものだ。本作でも、スター志望だった父親の意思を継ぐ売れない俳優という役どころを好演。
余談だが、TIFFのティーチ・インで「マッチョ・スターでヒーロー役のアクシャヱを起用した理由は?」との質問が(恐らくは映画ライターから)飛び出していた。これは事務局が用意した試写会の資料にあったプロファイル(正確には作品オフィシャル・サイトからの翻訳)を鵜呑みにしたのであろう。フェーローズ・アッバース・カーン監督はこれをやんわりと否定し、「彼はマッチョではなく、パワフル・キャラクター」と正鵠得たコメントを返していた。
サポーティングは、ヴィッキーの<友人>役のひとりに、「Ishq Vishk(愛に恋)」(2003)でシャーヒド・カプールの友人役ヴィシャール・マルホートラ。冴えないキャスティングも実は仕掛けのひとつ。
謎の男に「Zinda(生存)」(2006)のラージ・ズトシー。「ガンジー、わが父」での茶屋店主役も印象的であったが、本作の役作りもなかなか。
カランの家政婦ミス・ゴメス役が「KKHH」(1998)のスピーチ大会で黙ってしまうアンジェリ(娘の方)を促す女教師役のジュニア・アーティスト、グルシャン・マンズィハシー。
ヴィッキー父親の遺影は、「Dil Aashna Hai(心は愛してる)」(1992)のナーズィル・アブドゥーラーか?
また、インタビュアー役で「KKHH」のミス・ブリガンザーことアルチャナ・プーラン・スィンが彼女自身として顔を見せている。
「Metro」で銀幕露出を果たしたプリータムの音楽はでしゃばり過ぎず、シックな装いで良好。「Garam Masala」(2006)でも用いたアラヴィックなサウンドでオトナの雰囲氣を奏で上げ、耳を潤す。
バザール・ナンバル「aa dil de dil mila se」(クリシュナ/アリーシャー・チナイ)は、ソフィアの妄想であったと一瞬思わせるラジュー・カーンの振付も佳い。アリーシャーの声はやや乱れているが。
「運命の糸」Dor(2006)では音楽監督を務めたサリーム-スレイマンによる背景音楽はほつれがないものの、「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)でも使われていたチャンティングソングのSEは氣恥ずかしい……。
本作は例によってキャサリン・ロス主演「謎の完全殺人(未)」(1979=米)を下敷きにしているとのことだが、破綻ギリギリのサスペンスは、やはり「Baazigar(賭ける男)」(1993)、「Baadshah(帝王)」(1999)、「Ajnabee(見知らぬ隣人)」(2001)を放ったアッバース-ムスターンらしい。
ボビーとアクシャヱ揃っての起用は、「Humraaz」(2002)以来となる。
1990年代からのヒットメーカーでインドラ・クマール、スバーシュ・ガイーなど21世紀の波に乗れず低迷しているおりに、このディレクター・デュオ(兄弟監督)は時代にフィットしたB級作品を作り続けているのが嬉しい。
スリラー・テイストを前面に押し出したパブリシティ・キーアートに反してスラップスティック・コメディであった「36
Chaina Town」(2006)の反省なのか、本作では時代の流れに乗ってあまり主題から踏み外すことのない<ジャンル映画>となっている。
さて、思わせぶりの仕掛けが随所に見られる中で、最も小粋な<罠>がヴィッキーのモバイル着メロだろう。
BGMと思わせつつ実は着メロ、と、観客へのアクセントを忘れない脚本作りからも確信犯ぶりが伺える。
このメロディーは、スバーシュ・ガイー監督、リシ・カプール主演「Karz(借り)」(1980)のタイトル・ナンバル。シャー・ルク・カーン製作・主演「Om Shanti Om」(2007)も、この作品のヒット・ナンバルからタイトルを借りており、それだけにインド人観客なら、本作の見方が誘導される仕掛けになっているのだ。この<仕掛け>は是非、自分の目と耳で確かめて欲しい。
やはり、ボリウッド映画を楽しむのであれば旧作も外せない、と再認識させる1本であった。
追記 2010,09,05
アッバース-ムスターンは、引き続きアクシャヱ・カンナーを起用した「Race」(2008)が年間4位に食い込むヒットに。
初回レビューに書いたように、90年代のヒットメーカーと言われた世代の中で氣を吐き続けるのは、ひとえに時代に対応しているが故。
逆に言うと、破綻そのものを楽しんでいたゼロ年代初頭(撮影自体は90年代)に比べ、インド人も心の余裕が減った?
アクシャイ・カンナーを「アクシャヱ」と表記しているのは、彼自身、アクシャイ・クマールと混同されぬよう、スペリングを「Akshaye」と変更していることへの尊重から。
日本人も画数を氣にするが、ボリウッドでもインド数霊術(数秘術)からローマナイズのスペルを変更しているケースがしばしば。
例)キロン・ケール Kiron →Kirron