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Mausam(2011)#308

2012.02.02
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!
Mausam

Eros Entertainment 正規盤はPケース+化粧箱入り。

「Mausam(愛の季節)」★★★★
モォーサム

製作:スニール・ルッラー、シータル・ヴィノード・タルワール/脚本・台詞・監督:パンカジ・カプール/撮影:ビノード・プラダーン/作詞:イルシャード・カミル/音楽:プリータム/振付:アーメド・カーン/背景音楽:ヒテーシュ・ソニック/アクション監督:シャーム・コォーシャル/プロダクション・デザイン:故シュリー・サミール・チャンダ/衣装デザイン:アナミカー・カンナー(forソーナム)、マムター・アーナンド(forシャーヒド)/VFX:フューチャーワークス/編集:スリーカル・プラサード

出演:シャーヒド・カプール、ソーナム・カプール、スプリヤー・パータク・カプール、アヌパム・ケール、マノージ・パウワー、アディティ・シャルマー、カマール・ナイン・チョープラー
2011年9月23日世界公開(日本以外)/

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

STORY
1992年。パンジャーブ州マルコートのボンクラ青年ハリーことハリンダール(シャーヒド)は、銃火を逃れカシミールから叔母を頼ってやって来たムスリムの美しい少女アーヤット(ソーナム)に恋心を抱く。やがて、ふたりは親しくなるが、アヨーディヤー寺院事件が起き、アーヤットは父の待つボンベイへと移ってしまう。
1999年、スコットランドで暮らすアーヤットは、IAF(インド空軍)パイロットとなり訓練プログラムのため訪英したハリーと再会する。ふたりは長年の想いを伝え合い、アーヤットの家族と引き合う事になるが、奇しくもカールギル紛争が起き…。

Revie-U
もし日本にボリウッドが浸透するとしたら、劇場公開作に最適なスターはシャー・ルク・カーンでもリティク・ローシャンでもなく、ジャニーズばりに甘いマスクを持つシャーヒド・カプールだろう。
そしてボリウッド女優としては、女性ファッション雑誌で持て囃されそうなスリムで可憐なソーナム・カプールがイチ押し。

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

トレーラー(予告編)で見せた口髭の凛々しいシャーヒドの制服姿からボリウッド版「愛と青春の旅立ち」ないし「トップガン」といった印象であったが、インドの社会状勢に翻弄された純愛物語に仕上がっている。

第1幕、1992年のパンジャーブ州マルコートは、青春物語として初々しく淡い恋が描かれる。
生活の細部が感じられるプロダクション・デザインの他、シャーヒドの場面ごとにコーディネイトされた色とりどりの手編みセーター(ベスト)が目を楽しませてくれる。

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

そして、何より素晴らしいのは、ヒロイン、アーヤットに扮するソーナムの愛らしさだろう。第1幕のインド国内では褐色の肌、第2幕となるスコットランド(1999年)で見せる洋装の華麗な様もソー・キュート。ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンスでの立ち振る舞いも美しい(バレリーナとしては物足りないが)。

監督は、シャーヒドの実父パンカジ・カプール(本人はKapur名義だが息子のシャーヒドはKapoorを中途採用)。
俳優としてはRam Jaane(神のみぞ知る)」(1995)や「Dus(10)」(2005)などメジャー作品の敵役からThe Bule Umbrella(2007)等の児童映画、教義とカーストを扱った「Dharm(法)」(2007)など問題作へ果敢に出演する実力派として知られる。
ゼロ年代に入ってアヌパム・ケールナスィールッディン・シャーらが監督に手を出した例を見るまでもなく、名優と言えどキャメラの背後で映画全体を細部まで統括する「映画監督」の仕事ではメガホンを持てあましがち。
しかし、本作が初監督となるパンカジの手腕は、その脚本作りからして一級品。カプール姓らしく郷土パンジャーブを微笑ましく描ききる。

もっともクライマックスの<感動的スケッチ>がいささか蛇足で、これはIAF(インド空軍)全面協力とは言え、予算の面で戦闘や暴動シーンを拡げ過ぎないよう足枷が掛かっているためもあろう(ミグの戦闘シーンはCGI。とは言っても、美術やライティング、スコットランドやスイス・ロケなどメジャー邦画等よりよほど金をかけ、クライマックスでは大観覧車を含むオープンセットの遊園地をセットアップし火事シーンも)。

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

出色なのは、ハリーの姉の結婚式前夜、夜鍋で花嫁にメヘンディーを描くアーヤットに筆談を交わすスケッチ。彼女は渡されたカードをコップの水に浸け、にじむ青インクのにじみ具合が淡い恋を印象づける(ハリーはウルドゥーが読めないが、アーヤットはヒンディーも読み書き出来る)。

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

第2幕のスコットランド(1999年)で再会すると、立場は逆転してアーヤットがハリーの姿を遠目に眺め、想いを焦がす。ハリーからのメモを彼女が水に浸さないのは、もう<お遊戯>ではないから(第一、ボールペンで書かれているのでにじまない)。

また、何度も出くわしてはすれ違うのは恋愛映画の常道。後ろ姿を遠目で識別したり、見つめるだけで会話が進むのもよろしい(モバイル・ナンバルがメモリーしてあるじゃん!というのは野暮)。
これらが清らかに成立するのは、眼の澄んだシャーヒドとソーナムの初々しい存在あってこそ(さすが幼馴染み)。

サポーティングは、アーヤットの叔母ファティマー役に、パンカジの後妻でシャーヒドの継母にあたるスプリヤー・パータク・カプール(Kapur)。Wake Up Sid(2009)でもランビール・カプールの母親役を好演していた。
アーヤットの父の親友マハラージ役にアヌパム・ケールを配役。アーヤットの一家はカシミールの武装闘争から避難して来る訳だが、父の親友としてヒンドゥーを配置し、市井レベルではヒンドゥー/ムサルマーン(イスラーム教徒)が親しく交流していた事をしっかりと押さえてある(カシミール・パンディットのアヌパムを配役している事が無言の強調)。

馬車からオートリキシャーへと時代が変わるもアーヤットの一家を世話するのが、マノージ・パウワー。ドラえもんばりの4等身が実にコミカル。Wanted(2009)では単なるコメディアンのような役に甘んじていたが、「Lefe in a…Metro(大都会)」(2007)等、短い出番でも作品に奥行きを与える根っからの役者だ。
そして、ハリーに恋慕し、嫁いだ後もアーヤットに嫉妬し、彼女からの手紙を焼き捨てる幼馴染みラッジョー役、アディティー・シャルマーも少女時代から子持ちの母親までそつなく演じ分けている。

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

音楽監督のプリータムは、いつになくしっとりとしたメロディーを多く紡ぎ、ビートフルなサウンドだけが彼の本領でない事を再認識させられる。
パンジャーブの春を感じさせるrabba main toh mar gaya oye(おお、神よ。我は打ちのめされた)」は、ボリウッド定番となったパキスタン人歌手、ラーハト・ファテー・アリー・ハーン版もさる事ながら、本編使用のシャーヒド・マールヤー版が仄かに甘く芳しい(ラーハト版はCDに収録)。
また、ハンス・ラージ・ハンスと言うとBichhoo(サソリ)」(2000)のステージ・ナンバルdil tote tote ho gayaの脳天氣なイメージしかなかったが、lk tu hi tu hiでの深い味わいがよい。
そして何より風雲のカッワール(カワリー歌手)、カルサン・ダース・サガティアをフィーチャルしたaag lage us aag koには、その荒々しい歌声で脳天を揺さぶられる事、請け合い。

さて、例によってのボリウッド・ネタだが、アヌパム・ケールのオルゴール・ライター(ジッポーなのであり得ない)の曲名が、昨年惜しくも他界したデーヴ・アーナン(アーナンド)がダブルロールで軍人を演じた「Hum Dono(我らお互い)」(1961)より「今行かないで、心を盗む人よ…」と歌うabhi na jao chhod karモハムド・ラフィアーシャー・ボースレー)。ヒロイン、サーダナーがこれまた凛々しい。

後半、失意のハリーに「これは思いがけないお話しね…」と、被さる列車内のアンターシャクリー(尻取り歌合戦)1曲目がラージ・クマールミーナー・クマーリー主演「Dil Apna Aur Preet Parai」(1960)のハワイアン風?メモラブル・ソングajib dastan hai yeh(ラター・マンゲーシュカル)。

続く2曲目が今や古典と化したシャー・ルクNカジョール主演DDLJ(1995)よりmehndi laga ke rakhna(メヘンディを描いて)」(ウディット・ナラヤン&ラター・マンゲーシュカル)。

そしてダメ押しとなるのが、リシ・カプール(ランビール父) N ディンプル・カパーディヤートゥインクル母)「Bobby」ボビー(1973)よりパーティー・ナンバルna mangun sona chandi(金も銀もいらない)」。ソーナム父アニル・カプール主演「Mr.India」Mr.インディア(1987)のパロディー・ナンバル冒頭がこれ。
いずれも二人目の子を宿しながらハリーを忘れられないラッジョーの想いとして選曲されている節があり、相変わらずフィルミーソングへの敬愛に感心させられてしまう。

Mausam

(c)Eros Entertainment, 2011.

パンジャーブからスコットランド、スウィスランドに移り住み、欧米社会に溶け込みつつ(さらに欧米人に負けない凛々しさを持ち)、自国の文化慣習を忘れない彼らインド人の姿が実に頼もしく思える。
日本でもインド映画を広めたい、というのなら、やはり本作のような若き美男美女を据えた良質な作品を買い付けてもらいたいものだ。

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