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Singham(2011)#307

2012.01.27
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Singham「Singham(獅子魂)」★★★☆
スィンガム

製作:リアイアンス・エンターテイメント/監督・殺陣:ローヒト・シェッティー/脚本:ユヌス・サジャーワル/台詞:ファルハド-サジード/撮影:ドゥドレイ/作詞:スワナンド・キルキレー/音楽:アジャイ-アトゥール/振付:ガネーシュ・アチャルヤー/背景音楽:アマル・モーヒレー/アクション監督:ジャイ・スィン・ニッジャル/VFX:ピクシオン/衣装デザイン:ヴィクラム・パドニス、ナヴィン・シェッティー、S・スリニワス/編集:ステーヴェン・ベルナルド

出演:アジャイ・デーヴガン、カージャル・アガルワール、プラカーシュ・ラージ、アショーク・サラーフ、ゴーヴィンド・ナームデーオ、メグナー・ヴァイドヤー、サチン・ケーデーカル、スチットラー・バンデーカル、プラデープ・ヴェランカル、ムルリー・シャルマー、スダーンシュ・パーンディー、ソーナーリー・クルカルニー、ヴィジャイ・パトカル、アナント・ジョーグ、アショーク・サマルト、ジャヤント・サワルカル、スハーシニー・デーシュパーンデー、ヴィニート・シャルマー、アンクル・ナーヤル、ラビンドラ・ベールデー、サーナー・シャイク、ハリ・バラ、アガスティア・ダノールカル、ベサント・ラヴィ、ハリーシュ・シェッティー、ニーラージ・ケートラパル、キショール・ナンダラスケル
2011年7月22日世界公開(日本以外)/138分

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

STORY
マハラーシュトラ州とゴアの州境にある農村シヴガードのインスペクター・スィンガム(アジャイ)は、街から帰省した父の親友の娘カーヴヤー(カージャル)と恋に落ちる。間もなく南ゴア・コルヴァへの異動通知が届くが、そこはアンダーワールドのドンにして議員立候補したジャイカント(プラカーシュ・ラージ)の支配下にあり、じわじわと締め付けられ…。

Revie-U
例によってタミル映画「Singam」(2010)のリメイドだが、配給がリライアンス・ビッグ・ピクチャーズとなった段階でヒンディー版の企画もスタートしたように思える(本作はリライアンス・エンターテイメント)。
オリジナルのタミル版からはドン役のプラカーシュ・ラージが続投している程度だが(Bodyguard同様、デブキャラも)、カーヴヤーを侮辱したグンダー(ゴロツキ)を倒したスィンガムに想いを寄せたカーヴヤーが、バイクの後ろに乗り際、スィンガムの肩に手をかけるカット等はそのままそっくり継承している。
オリジナルで主人公に扮していたコリウッド(タミル映画界)の俳優スーリヤー「Ghajini」(2005=タミル)でもボリウッド・リメイドされながら配役から外され、テルグ、ヒンディー、タミルの三言語で製作されたラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督作「Rakta Charita 2」(2010)がボリウッド圏の初進出となった。

その、インド映画市場のメジャー・マーケットであるボリウッドでは、ここ数年、サルマーン・カーン主演Wanted(2009)、Dabangg(大胆不敵)」(2010)のメガヒットでサウス・テイストの大仰アクション映画がウケにウケ(アーミル・カーン主演「Ghajini」が制作年度としては先になるが、これは監督自身がタミル色を大幅に自粛している)、本作の他、アミターブ・バッチャン主演Bhuddah…Hoga Terra Baap(ジジイがテメエのオヤジに)」(2011)もこの流れにあたり、Bグレード映画を題材にしたヴィッディヤー・バーラン主演「The Dirty Picture」(2011)も南インド映画を当てこすっている設定だ。

これは、ゼロ年代のボリウッドがヒンドゥー色を薄め、世界中をロケしパンウッド(汎林)とも呼びたくなるほど無国籍化した反動から、ゼロ年代終盤にインド国内へ目を向けた作品が増え始めた傾向に重なる(国内を舞台にした作品が増えたのは、世界不況の影響による予算縮小もある)。
ひとつの国とは言ってもインドは北と南では嗜好が大きく異なり、ボリウッド圏の北インドでは南インド映画は南出身者しかまず観ない。それでも独特のコテコテ感がたまにウケたりする。
ここ最近の南インド映画リメイド・ブームをもって、南インド映画界がボリウッドを呑み込むかのように思うのは早合点で、いずれも大予算を投入しボリウッド的な水準に<リメイド>してヒットを勝ち得ているので、南の映画を単にヒンディー吹き替え版にしても全国区と海外市場を持つボリウッド圏では通用しない。
実際、南インドの男優が<ボリウッド>に乗り込んで主演作を次々放つ、という事はなく、南インド映画を足がかりにボリウッド入りして成功しているのは女優ばかり(3 Idiotsのマダヴァンは南系だが、芝居的にもサウス・テイストは完全封印し10年下積みを経ての事)。
この北と南の差は、もう<カテゴリー>違いというべきほどだ。

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

さて、本作だが、系譜としては「Wanted」、「Dabanng」と言うより、以前から見られた<孤高に闘う警官>物に属し、ヒロインと繰り広げるラヴコメ的な前半に対し、コルヴァに移ってからはShool(槍)」(1999)、アジャイ主演作ではGangaajal(ガンジスの聖水)」(2003)等に連なると言えよう。
「Dabanng」が悪にひとりで立ち向かうスーパー警官であったのに対し、シヴガードに乗り込んだジャイカント達を農具を手にした村人たちが取り囲み威嚇するように、むしろ機能不全に陥った社会システムに対する<民衆の怒り>を代弁した形となっている。
ただ、氣になるのは、かつてのヒンディー映画が分離独立以降、悪党をクライマックスで射殺してエンディングに持ち込むハリウッド式でなく、あくまで司法に委ねるのが基本としてあったのが(そのため90年代までのボリウッドは英米映画以上に法廷シーンが登場)、本作では<民意の代弁>的とはいえ、警察が裁判を飛び越え、自ら<処刑人>となっている事だろう。
この変化は、国会議員の20%強が犯罪嫌疑者(内、6割が殺人容疑)と言われる現状では、もう裁判の啓蒙では不十分という事か。

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

主演は、安定した動員力を持続するアジャイ・デーヴガンAjay Devgnとスペルを変更)。口髭を蓄えた役作りは、南インド映画リメイドのため。アジャイと言えば、演技派で鳴らし、アクションを得意としながらもマッチョなイメージはサルマーンに譲って来たがここ数年、トレーニングに励み、スリムなまま胸板と上腕の筋肉を増強。本作ではサルマーンに倣ってファイト・シーン前に制服を脱ぎ、マッスルを強調。
本作でも彼の幅広い技量が堪能出来るのが嬉しい。

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

とは言え、前半は牧歌的な農村でのラヴ・コメディが展開。
お化けマスクを被って(オリジナルでは虎の着ぐるみ)村人を驚かす悪戯好きのヒロイン、カーヴヤーを演じるのは、ヴィヴェーク・オベローイNアイシュワリヤー・ラーイ主演「Kyun…! Ho Gaya Na」(2004)でデビューするも、その後は南インド映画界に流れていたカージャル・アガルワール
いささかアジャイとは歳が離れ過ぎ、登場シーンからして妹というか<姪っ子>的な印象だが、なかなかに愛らしい。ただ、舞踊の素養がないために、せっかくのサリー群舞ナンバルの振付が足枷され、見ていて肩が凝りそうなのが残念。
ちなみにヒンディー・リメイドにあたって、マハラーシュトラ出身のマーラター系名字<ボースレー>となっていて、わざわざ台詞で強調されている(インド人は正式な名前でどこの誰だか出自がだいたい解る)。

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

このカーヴヤーの父親役がBichoo(サソリ)」(2000)等のサチン・ケーデーカル。モバイルのリング・トーン(着メロ)がサルマーン主演「Ready」(2011)のヒット・ナンバルdhinka chikaなのが可笑しい。
サチンは、マヘーシュ・マンジュレーカル脚本・出演のマラーティー映画「Me Shivajiraje Bhosale Boltoy(儂はシヴァジラージェー・ボーサレーと申す)」(2009)では、大都会ムンバイーでアイデンティティに悩む鈍臭いマーラター系<ボースレー>を熱演している。

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

対する悪役は、スィンガムを追い詰めるジャイカント・シクレー役に南インド映画定番のクセ者俳優プラカーシュ・ラージが好演。
「Wanted」、「Bhuddah…Hoga Terra Baap」、さらに「Dabangg 2(大胆不敵2)」にもオファーされている他、テルグ版Bodyguard(2012)ではラージ・バッバルが演じたヒロインの父親役を演じている。
本作でも軽妙な悪役ぶりを見せるが、「Bhuddah…Hoga Terra Baap」と異なり浮いていないのがいい。

その他のサポーティングに、スィンガムの父にSarfarosh(命懸け)」(1999)、Pukar(叫び)」(2000)等、悪徳大臣や軍人役で鳴らしたゴーヴィンド・ナームデーオ。「Wanted」に続き脱敵役。
プロローグで汚名を着せられ拳銃自殺する前任警官役がKhiladi 420(偽闘士)」(2000)のスダーンシュ・パーンディー「Singh is Kinng」(2008)のスィク・ギャング役が忘れ難い。
その妻役が「アルターフ」Mission : Kashmir(2000)、Taxi N0,9211(2006)のソーナーリー・クルカルニー。アート系作品で実力を発揮していた彼女だが、時にShadow(2009)のようなBグレード映画にも出演するところがいじらしい。
また、ジャイカント子飼いの上級警官役ムラリー・シャルマーMain Hoon Naカーン役)、体制に靡きながら真理を説く下級警官役アショーク・サラーフKhoobsurat)、マンガ顔の部下ケールカル役ヴィジャイ・パトカル(「Wanted」、Tees Maar Khan)が佳い。

Singham

(c)Reliance Entertainment, 2011.

音楽を手がけるアジャイ-アトゥールは、マラーティー映画「Jogwa(覚醒)」(2009)でNational Film Awards 音楽監督賞を受賞した兄弟デュオ。もっぱら、ムンバイーのあるマハーラーシュトラ州の地元言語であるマラーティー映画を手がけて来ただけあってサウス・テイストの泥臭い楽曲には適任。
ここに来てボリウッド・メジャーからの発注も続き、カラン・ジョハール製作、リティク・ローシャン N プリヤンカー・チョープラー主演Agneepath(火の路)」(2012)も担当している。

監督は「Zameen(大地)」(2003)で監督デビュー以降、Golmaal(ごまかし)」シリーズ等、アジャイひと筋にフィルモグラフィを重ねて来たローヒト・シェッティー。その演出はまずまず。
カー・スタント好きとあって本作では<アクション・デザイン>としてもクレジット。スタント・シーンのリハーサルでは自ら動いてみせる。
新作では初めてアジャイと離れ、シャー・ルク・カーンカリーナー・カプール主演「Chennai Express」(2012)、さらにアジャイ&アクシャイ・クマール主演で「Bad Boys」リメイクがアナウンスされている。

秀逸な演出は、タイトル開け、村の警察署に登庁したスィンガムが署の階段を登り始めるにあたり、床に手をあてプラナーム(深い敬愛の儀)を行う様を正面から捉えるや、フォーカス移動で斜向かいにある寺院のガネーシュ像を示すスケッチだ。これはタミル版にはない<オリジナル>の演出で、スィンガムが署を寺院と等しく思い、職務を神に仕える如く真剣に打ち込む人物である事をワンショットで明快に告げているのだ。さらに言えば、ガネーシュ寺院が斜向かいにあるのは、正面にあるとアジャイの身体に隠れてしまうため。このオープン・セット自体が演出設計に則って作られている事が解る(ちなみにスィンガムの胸にはシヴァのタトゥーが施されている。タトゥー愛好者のローヒトらしい)。

サウス・テイストの影響として、アニメ的な過剰演出がそろそろ飽きて来たものの、ゼロ年代中盤に自粛されたヒンドゥー描写が増えた事は喜ばしい。
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