Bas Ek Pal(2006)#303
Bas Ek Pal(せめてひと時)/2006 ★★★
バス・エーク・パル
製作:マノーハル・P・カヌンゴー、シャイレーシュ・R・スィン/原案・脚本・監督・プロダクションデザイン:オニル/原案・脚本・編集:イレーネー・ダール・マリック/台詞:アシュウィン・マリック/撮影監督:サチン・K・クリシュン/作詞:アミターブ・ヴァルマー、サイード・クァードリー(tere bin)/作曲家・背景音楽:ヴィヴェーク・フィリップ/作曲家:プリータム(aa zara)、ミトゥーン/背景音楽:プラサード・サシュテー/美術:シャーム・デーイ、ラフール・トーサール/プロダクションデザイン:サンジャイ・スーリー/アクション:シャーム・コゥーシャル
出演:ジュヒー・チャーウラー、ウルミラー・マートンドカル、ジミー・シェールギル、サンジャイ・スーリー、レハーン・エンジニーア
特別出演:ヤーシュパル・シャルマー、チェータン・パンディット
公開日:2006年9月15日(日本未公開)

(c)Sahara One Motion Pictures, 2006.
STORY
ニキル(サンジャイ・スーリー)は、クラブで出会ったアナーミカー(ウルミラー)を口説こうとするあまり、彼女の恋人ともみ合い、止めに入ったバスケ仲間のラフール(ジミー)を銃撃。3年後、出所してNGOのヘルパーとなったニキルは、意中のアナーミカーが電動車椅子の人となったラフールと交際している事を知るも、彼女への想いを押さえられずストーキング。これにニキルの身請け人となったイラー(ジュヒー)のDV夫が絡んで…。
Revie-U
クレジットがジュヒー・チャーウラー、ウルミラー・マートンドカルからになっているのは、キャリア順。90年代までは年功序列で女優でもネームヴァリューがある場合は先のクレジットとなった。
実質、メインリードのサンジャイ・スーリーは「Daman(制裁)」(2001)、「Jhankaar Beats」(2003)等のマイナー中堅、ジミー・シェールギルは「Mohabbatein(愛の数々)」(2000)で売り出すも売れず終いで「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)の胃癌青年など不運なキャラクター路線へ。本作でも銃撃を受けて半身不随の役。しかし事件後、車椅子の身となったラフールを黒縁眼鏡で役作りしたジミーはかえって若々しく見え、それなりの存在感を見せる。
トップ・ビリングのジュヒーは、服役したニキルの身請け人となるNGOスタッフ。刑務所絡みの役は佳作「3 Deewarein(3つの壁)」(2003)に続く。小さな役に収まるようになったのは、出産を経てヒロイン女優から外れたため。
ヒロインとなるウルミラーもすでに「熟女」の領域だが、なかなかに麗しい。それだけに男優ふたりの格落ちが寂しい限り。

(c)Sahara One Motion Pictures, 2006.
脚本やプロダクション・デザインを手がける監督オニルは、これが長編第2作。編集を担当した「Daman」でサンジャイ・スーリーと知り合い、彼主演「My Brother…Nikhil」(2005)で監督デビュー。その手腕は…サスペンス仕立ての恋愛映画としてはアベレージ。
サンジャイ・スーリーと共に名を連ねるプロダクション・デザインもピエロを多用したクラブ・セットなど安っぽく、作品の質を落としているのが残念。
また、もっともらしく「story(原案)」とクレジットしているが、例によって「ライブ・フレッシュ」(1997=仏伊)の変形。もみ合ううちに銃が暴発し、主人公が服役を済ませて出所すると、撃たれた方が車椅子の人生を送っており、入り組んだ男女関係がさらに悲劇を生むというのをなぞったどころか、ラストをより悲惨なものにしている。
1970年というフランコ政権末期にバスで生まれ落ちた主人公という設定が映画に重くのしかかったオリジナルの核が欠落しているために単なる偏執愛のメロドラマに留まってしまっている。インディラ・ガーンディーが強権を発した1975年の非常事態宣言に絡める事も出来たはずなのだが、やはりバブル期は表面的ななぞり(つまりは、インド人好みのストーキング・ラヴストーリー)だけで企画が通ってしまうようだ。
(冒頭でバスの中で生まれ落ちる主人公は、むしろ「Radio」に引き継がれている)

(c)Sahara One Motion Pictures, 2006.
ただし、ボリウッド的には出会ったクラブでニキルが歌う「Yaadon Ki Baaraat(想い出の花婿行列)」(1973)のメモラブル・ナンバル「chura liya hai tumne jo dil ko」を、後半、アナーミカーも料理中に口ずさむ等、「運命の人」として位置づけられる。
本作を忘れ難くしているものがあるとすれば、オトナのムードにあふれる音楽面だろう。
ゲスト・コンポーザーとして招かれたプリータムによるファースト・ナンバル「aa zara(嗚呼、わずかに)」、メイン・コンポーザー、ミトゥーンらによるタイトル・ナンバル「bas ek pal」や「ashq bhi(愛しき人もまた)」、パーキスターニー・ポップの新星アーティフ・アスラムをフィーチャルした「tere bin(君なしでは)」等が耳に残る。いずれも本編を凌駕するソフィスティケートされた出来。
バブリーなゼロ年代中盤のボリウッドが音楽セールスに牽引されたいたことを示す1本と言える。