Fiza(2000)#041
Fiza (フィザー) 01.09.08 ★★★★★
製作:プラディープ・グハ/原作・脚本・監督:カリード・モハムド/台詞:ジャーヴェード・シッディクィー/撮影:サントーシュ・シヴァン/音楽:アヌー・マリック、A・R・ラフマーン/詞:グルザール、サミール、シャウカト・アリー、テジパール・カウル/劇伴:ランジート・バロット/アクション:シャーム・コゥーシャル/振付:サロージ・カーン、ファラー・カーン、ガネッシュ・ヘーグデー/美術:シャルミスタ・ローイ
出演:ジャヤー・バッチャン、カリシュマー・カプール、リティク・ローシャン、 ネーハー、アーシャー・サッチデーウ、ビクラム・サルージャ、イーシャー・コーピッカル、デーニーシュ・タークル、ジョニー・リーヴァル
ゲスト出演:マノージ・バージパイ、スシュミター・セーン
公開日:2000年9月8日(年間トップ8ヒット!/日本未公開)
FILM FARE AWARDS:主演女優賞(カリシュマー・カプール)、助演女優賞(ジャヤー・バッチャン)
STORY
1993年、ボンベイ。ある晩、絵が得意なアマン(リティク)は友人に呼び出され、ヒンドゥー・ムスリム対立の暴動に巻き込まれる。母親(ジャヤー)と妹フィザー(カリシュマー)の目の前で襲われ、消息を絶つ。
1999年、ムンバイー。就職活動中のフィザーが面接の帰りに、アマンの姿を見かける。彼女は様々なつてでアマンの捜索に乗り出し、マスコミまで動かす。だが、ボーイフレンドのアニルダ(ビクラム)が手に入れた情報によれば、アマンはラージャスターンの国境地帯で活動するテロ組織のメンバーになっていた・・・!
Revie-U
リティク・ローシャンのデビュー第2作。ちょうど1年前の2000年9月8日にリリースされた。役柄は、絵を描くことが好きな繊細なムスリム青年アマン。しかし、母と妹とのつつましい暮らしも、暴動に巻き込まれたことから一夜にして激変する。
デビュー作「KNPH」(2000)の伝説的メガヒットを問い直すかのように、本作が注目されたリティク。暴動に立ちすくむ氣弱な青年が逃げ延びるうちに暴漢を次々と刺し殺し、テロ組織に転落する運命を好演。役者としても真価を発揮した。再会した妹に説得され仕方なく連れ戻される晩、眠りこけた彼女を置いて立ち去ろうしながら、思い留まる芝居がいい。
後半、近所の不良を追い払い彼らのバイクを焼き払ったことから反感を買って警官たちに連れ去られそうになるが、隠し持っていた拳銃で不良たちを射殺、再びアマンは逃走する。
マニ・ラトナムの「ボンベイ」Bombay(1994)にも描かれていた通り、ヒンドゥー・ムスリム間の対立は、政治家が私欲のために裏で操作し合っている、というのが一般の見方だが、本作でもそれを反映して、アマンは群衆の前に現れた二大政党のリーダーをライフルで狙撃してしまう! ラストは更に「衝撃的」だが、その眼差しはテロリストでなく、冒頭に示された繊細な青年の、妹を想うそれである。
もちろん、逆三角形に鍛え上げたリティクの見せ場もたっぷり。暗殺にそなえるナンバル「mere watan」は1曲分まるまるトレーニング・シーンで、ブルース・リーを思わせるほどのしなやかな動きを見せる。
一方、兄思いの妹フィザーを演ずるカリシュマー・カプールは、本作でFilmfare Awards 主演女優賞を受賞。暴動の夜に彼を追い返した警官、色目を使うジャーナリスト、私欲が見え隠れする政治家たちに強く対抗しながら兄の捜索を続ける。兄の逃亡、母の死で悲しみに打ちひしがれ号泣するシーンが胸を打つ(同録のサウンドを使用)。面接の帰りにアマンの姿を見かけ、乗っていたオートリキシャーから車が行き交う道路へ飛び出す命がけの撮影も吹き替えなしでこなしている!
ただし、ディスコで踊る「aankh milaogi」のナンバーは、振付がイマイチだったのか、ダンスが得意なはずのカリシュマーにしては見ていて退屈してしまうのが玉にキズ。
消息を断った息子の帰りを待ち望む母親役は、ジャヤー・バッチャン。「炎」Sholay(1977)などに出演し1970年代を飾った名女優で、現アミターブ・バッチャン夫人にして、アビシェークの母。目の前で最愛の息子が暴動に巻き込まれ姿を消す瞬間、近所の不良青年を射殺して逃走する瞬間と二度も目の当たりし、独り、海辺で入水自殺。鼻腔に綿を詰め、遺体まで演じきった。本作でFILM FARE AWARD助演女優賞に選ばれ、「Mohabbatein(愛)」(2000)で助演男優賞を得たアミターブとダブル受賞を果たした。
アマンの行方を捜すウダイプルのシーンでフィザーが話しかける丸顔のオバサンは、この夏、暗殺されたプーラン・デヴィを思わせる。
その後に続くダンス・ナンバーでは、スシュミター・セーンがゲスト出演。いつもながらの迫力あるダンスを見せる。
もう一人のゲスト出演は、マノージ・バージパイ。暴動に巻き込まれて逃げ惑うアマンを受け入れるテロ組織のリーダー役。「サティヤ」Satya(1998)のヴィクーを彷彿とさせ、登場シーンでは観客を大いに沸かせたことだろう。
ジョニー・リーヴァルも1シーン出演。町中で人々を笑わし、得意の顔面芸でスタンダップ・コメディアンとして活躍していた頃を思わせる。
ゲストと言えば、メイン・コンポーザーのアヌー・マリックの他に、ヒンドゥーからイスラームに改宗したことで知られるA・R・ラフマーンが、フィルミーガザル「piya
haji ali」1曲を提供(このシーンはアラビア海に浮かぶモスクで撮影。多用されたクレーンが効果を上げている)。
なかなかツボを押さえた布陣であるが、さらにシャー・ルク・カーンもミュージカル・シーンで1曲、特別出演するはずであった。しかし、すでに尺が長過ぎたために、リティクとシャー・ルクの夢の共演は流れてしまった!
全体に見応えあるが、カリシュマーのボーイフレンド役、ビクラム・サルージャ(これがデビュー作)が出演する2つのミュージカル・ナンバルがダレるのが残念。リティクのガールフレンド役のネーハーも印象薄。
もっともカリード・モハムドの演出・構成はしっかりしており、ムンバイーに戻った息子らと久々に見ていた旧作映画のフィルミーソングに合わせて往年の名女優ジャヤーが踊りだすというサービスから一転、押し入った警官たちにリティクが連れ去られそうになり発砲、目の前で再び息子が消え去る、という巧さ。運命に翻弄され、誰もがテロリストになりうる儚い人生であることをリティクが見事に演じたのも、カリードの演出力あってのことだろう。
2002.08.19追記
フィザーの親友ギータンジャーリー役に、「Company(カンパニー)」(2002)でゲスト・ダンサーに昇格したイーシャ・コーピッカル。
2010.09.04追記
プーラン・デヴィ似の丸顔おばさんは、プラティマー・カズミー。「Bunty Aur Babli(バンティーとバブリー)」(2005)では、タージ・マハルの売買詐欺スケッチで登場。
劇中登場するフィルミー・ソングの名曲(メモラブル・ソング)は、リシ・カプール(ランビール・カプールの父でカリシュマーの叔父)とディンプル・カパーディヤー(トゥインクル・カンナーの母でアクシャイ・クマールの義母)のWデビュー作「Bobby」ボビー(1973)の「jhoot bole kawwa kaate(ウソつきはカラスにくわれるの)」。
ジョニー・リーヴァルが公園のようなところ(おそらくフィルムシティの寺院周辺)で人々を笑わせているのは、インドで人氣のある「笑い療法」。「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナ兄貴)」(2003)でも医学長役ボーマン・イラーニーの登場シーンに用いられている。
カリシュマーは、90年代にお茶目なアイドルとして活躍していたが、この時期、シャーム・ベネガル監督のアート系「Zubeidaa(ズベイダー)」(2001)に出演するなど役柄を広げようと模索していた。妹カリーナー・カプールがデビュー後は、アビシェーク・バッチャンとの婚約解消などもあり低迷。寿引退した。
さて、リティクはデビュー10年後の今年、200スクリーンで全米公開された「Kites」(2010)がオープニング・トップ10にランクイン。インド映画として初の快挙。近年、ファンになった人は、ぜひ若きリティクの美顔ぶりを堪能してほしい。