Luck by Chance(2009)#300
「Luck By Chance」チャンスをつかめ!/2009 ★★★☆
製作:リティーシュ・シドワーニー、ファルハーン・アクタル/原案・脚本・監督:ゾーヤー・アクタル/台詞・作詞:ジャーヴェード・アクタル/撮影:カルロス・キャタラン/音楽:シャンカル-イフサーン-ローイ/配役:ナンディニー・シュリケント/振付:ヴァイバヴィー・メルチャント、ラジーヴ・スルティー、メガー・ナルカル/美術監督:T・P・アビド/プロダクション・デザイン:アヌラーダー・パリク/衣装デザイン:アルジュン・バシン、アパルナー・チャンドラー/編集:アナン(=アーナンド)・スバヤー
出演:ファルハーン・アクタル、コンコナー・セーン・シャルマー、リシ・カプール、ディンプル・カパーディヤー、イーシャー・シャルワニー、サンジャイ・カプール、アリー・カーン、シーバ・チャッダ、アルジュン・マトゥール、シド・マッカル、パンカジ・カルラー、メガー・ナルカル、アーシーシュ・サウニー
特別出演:ジュヒー・チャーウラー、リティク・ローシャン、アーミル・カーン、シャー・ルク・カーン、アビシェーク・バッチャン、ジョン・エイブラハム、ランビール・カプール、ヴィヴェーク・オベローイ、アクシャヱ・カンナー、ラーニー・ムカルジー、ディヤ・ミルザー、カリーナー・カプール、ボーマン・イラーニー、ソォーラブ・シュクラー、マック・モーハン、ローニト・ローイ、カラン・ジョハール、ラージクマール・ヒラーニー、アヌラーグ・カシャップ、マニーシュ・マルホートラ、マニーシュ・アチャルヤー
公開日:2009年1月30日(2009年 東京国際映画祭上映)
STORY
俳優志望のヴィクラム(ファルハーン)は、養成所に通ううち売れない女優ソーナー(コンコナー)と恋仲となる。しかし、トップスター、ザファル(リティク)が蹴ったヒーロー役に大抜擢され、結局、ソーナーを捨てる事となる。
Revie-U
「ハリウッドのヒーローになるのは簡単だ。だが、ボリウッドで演じるのは難しい。歌って踊って、コメディ、アクションが出来なければ、ヒーローにはなれない」
とは、劇中、演劇学校の講師役ソォーラブ・シュクラー(「スラムドッグ$ミリオネア」の太っちょ警官)の台詞。
本作は、映画一族とは無縁な青年が演劇学校から新進スターに躍り出るまでを描いた映画界物。映画が大好きで、熱愛するあまり、チャンスがあれば映画スターになりたがっている一般インド人の心を強く刺激する題材だ。
音楽監督トリオ、シャンカル-イフサーン-ローイによるゆるやかな主題歌に乗って、撮影所で働く人々の姿を切り取ったオープニング・タイトルバックはとても美しく、(おそらく元ネタの)撮影所風景を綴ったCD付き写真集「Bollywood-The Passion of Indian Film and Music」(ear Books)のポートレートを見るよう。
ボリウッド・ファンにとって、劇中、のっけから姿を見せるアーミル・カーンはじめ、シャー・ルク・カーン、アビシェーク・バッチャン、ジョン・エイブラハム、ランビール・カプール、ヴィヴェーク・オベローイ、アクシャヱ・カンナー、ラーニー・ムカルジー、ディヤ・ミルザー、カリーナー・カプール、ボーマン・イラーニー、ソォーラブ・シュクラー、マック・モーハン(「Sholay」等の名脇役)、ローニト・ローイ(「Udaan」)、カラン・ジョハール監督、ラージクマール・ヒラーニー監督(「Munna Bhai MBBS」「3 Idiots」)、アヌラーグ・カシャップ監督(「Dev.D」)、マニーシュ・マルホートラ(「K3G」他の衣装デザイナー)など20名に及ぶ豪華なカメオ出演、アクシャイ・クマール N カトリーナー・ケイフ「Singh is Kinng」(2008)の引用フィルム、実名が飛び交う数々の映画ネタは溜飲物で、華やかなボリウッドの裏側を垣間見ることが出来る。

(c)Excel Entertainment, 2009.
何よりふるっているのがキャスティング。ライバル視されるメガ・スター役に実際のトップ・スター、リティク・ローシャンを配役(特別出演)。
ちょっとヌケてる新人ヒロインに、デビュー作「Kisna」(2005)で「ダンスの神と結婚した」とまで騒がれながら芽が出なかったイーシャー・シャルワニー(サーカス・ナンバル「baawre」で持ち芸の空中舞踊を披露。しかし、リズミカルなステップやインド舞踊的仕草は苦手のようだ)。
その、70年代の人氣女優という設定のステージ・ママに、「Bobby」ボビー(1973)で大ブレイクし、今ではトゥインクル・カンナー(アッキー夫人)の母親であるディンプル・カパーディヤーを。
迷プロデューサー役、リシ・カプール(ランビールの父)は「Bobby」でディンプルとWデビューした仲。そのパートナーにジュヒー・チャーウラー。
そして監督役には、「たとえ明日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)の終盤、買い物シーンにチラリと登場するサンジャイ・カプール(「Chhupa Rustam」。兄アニル・カプールとは反りが合わず共演作はなし)。これなど、役者として大成せず監督に転向したパターン(スバーシュ・ガイーなど)の確信犯的配役だろう。

(c)Excel Entertainment, 2009.
主演のファルハーン・アクタルは、映画監督してアーミル主演「Dil Chahta Hai(心が望んでる)」(2001)でキャリアをスタート。第3作「DON」Don(2006)の後、ガレージ・ロックバンドがスターダムに乗る製作・主演・脚本・歌唱「Rock On!!」(2008)で俳優デビュー。監督から俳優デビューしたのは、かつては父ジャーヴェード・アクタルが脚本家デュオを組み、決別したサリームの三男ソハイル・カーン(サルマーンの末弟)への対抗意識だけでなく、フィルミーサーラー(映画バカ)乗じての事だろう。
監督もこなすだけに勘所が良く、ホスト番組も持つほどの持て囃されぶり。主演作も続々プランニングし、ディピカー・パドゥコーン共演「Karthik Calling Karthik」(2010)に続き、妹ゾーヤーの監督でリティクと同格の再共演「Zindagi Na Milegi Dobara」人生は一度だけ(2011)が日本でもラテンビート映画祭で上映。年末には念願の(つまり俳優でなく監督作)「Don2」(2011)が世界公開となる(日本を覗く)。
さて、監督のゾーヤー・アクタルは、ファルハーンの妹にして、父が作詞の大家ジャーヴェード・アクタル(本作で台詞・作詞を担当。旧作ではサルマーンの父と「Sholay」や「Don」の脚本を手がける)。実母は脚本家のホーニー・イラーニー(「Koi…Mil Gaya」他。本作の脚本読み合わせにも立ち会っている)、継母が大女優のシャバナー・アズミー。
それにしても、オープニング・タイトルバックでゾーヤーの監督クレジットが出る場面、ハウスフル(満員御礼)の映画館に掛かっている「Kismat Talkies」とは当初、彼女の監督第2弾としてアナウンスされていた作品。新人女性監督がデビュー前から第2作が伝えられるのも珍しいが、デビュー作のオープニングで次回作のハウスフルを堂々予告するのも前代未聞であろう。ちなみに主演はリティク N カリーナー。
こうして見ると、父母のコネを使いまくっての監督デビューに思えるが(実際そうだが)、10年前からアート系の小品「Bhopal Express」(1999)の現場で地道な下働きを経験(したはず)。

(c)Excel Entertainment, 2009.
本作は一見きらびやかな映画界の虚像を追っているように見えながら、作品そのものがボリウッドの<現実>。なぜなら、ボリウッドの<作り物の世界>だから。オープニングの撮影所風景もコマーシャル・フィルムのように巧に<捏造>されたものであり(宇宙飛行士やローマ劇の衣装も本作のためのもの)、劇中、目を楽しませてくれる映画ポスターやDVDのジャケットもほとんどがプロダクション・デザイナーによる<小道具>。
巨大な映画産業に見えて、兄ファルハーンが製作・主演、妹ゾーヤーが監督デビュー、映画界に絶大な影響力を持つ父親ジャーヴェードと国会議員も務める大女優のシャバナーが彼ら自身のセレブ出演して見守る<ホーム・ムーヴィー>なのだ。
市井の青年からスター街道に昇り始める主人公も、袖にされるマイナー女優も、演じているのはチャンス不要の映画一族出身(コンコナー・セーン・シャルマーの母もバンゴーリー映画の名女優にして映画監督アパルナー・セーン)。ハナからトップに入り込む隙などなく、観客は常にマーヤー(幻影)に躍らされるのが、<ボリウッド>だ。
(ナマステ・ボリウッド 21号/2009年11月号改稿)