Ghaath(2000)#039
Ghaath(殺人) 06.01.27 ★★★
ガート
製作:クマール・モーハン/監督:アーカーシュディープ/原案・脚本・台詞:ニーラージ・パータク/撮影:スレンドラ・M・ラーオ/詞:サミール/音楽:アヌー・マリック/振付:サロージ・カーン、レーカー・チンニー・プラカーシュ、ガネーシュ・アチャルヤー、ブピンデール/背景音楽:サリーム-スレイマン/美術:アジート・ダンデーカル/アクション:ラヴィ・デーワン
出演:マノージ・バージパイ、タッブー、シーバー、アヌパム・ケール、オーム・プリー、イルファン・カーン、ムケーシュ・ティワリ、ティヌー・アナン、ジョニー・リーヴァル、サチン・ケダーカル、ラージュー・ケール、マカランド・デーシュパンディー、ヴィシュワジート・プラダーン、アパルナー
友情出演:ラヴィーナー・タンダン
ゲスト出演:アルシャード・ワールシー
公開日:2000年12月8日(年間33位/日本未公開)
STORY
人一倍正義感の強いクリシュナ(マノージ)は、仲間のハーピー(マカランド)らと警官を志望する。教官パーンディー(オーム)の覚えもよく、弁護士カヴィター(タッブー)との出逢いもあり、幸運に恵まれたかに見えたが、地上げ屋マムー(イルファン)や悪徳警官ゴードブル(ムケーシュ)らの怒りを買い・・・。
Revie-U *結末に触れています。
「Shool(槍)」(1999)に続く、マノージ・バージパイの熱血警官物。タッブーとの共演、パブリシティでコメディに見せかけた「Dil Pe Mat Le Yaar!!」*(2000)から一転してハードなニューウェーブ作品かと思えば、ミュージカル・ナンバルあり、ジョニー・リーヴァルの唐突コメディリリーフあり、とかろうじてマサーラーの域に留まる出来。
秀作でもなんでもないけれど、なぜかヴィヴェーク・オベローイ主演「Dum(強靱)」(2003)としてリメイクされている。
冒頭、地上げ屋の用心棒としてヴィシュワジート・プラダーンが登場し、一瞬氣を弛ませられるが、真の敵役はイルファン・カーン扮するマムー。終始落ち着き払い紳士的に見え、やることはえげつない。クリシュナを擁護するインスペクター・デーシュパンディー(オーム・プリー)の家に現れるや、勝手にダルをよそり始め飯を喰いながら、じわじわと威圧してゆく様が実にふてぶてしい。しかも、デーシュパンディーが遅く帰宅すると、彼の妻といちゃつき、揚げ句の果てはさんざん酷使したであろう腰を気づかってみせるほど!
イルファンは「サラーム・ボンベイ!」Salaam Bombay!(1988)の手紙代筆屋役が印象に残っているが、ヒンディー映画の世界ではわりと遅咲きで、出演作がぐっと増えるのは本作以降。「Dhund(霧)」(2003)と「Haasil(獲得)」(2003)におけるアンダーワールドワーラーの演技で、Filmfare AwardsとScreen Awardsの最優秀敵役賞を受賞している実力派だ。
さらにクリシュナの宿敵となるのが、悪徳警官のゴードブル。ミュージカル・ナンバル開け、クリシュナたちが夜の路上を歩いて帰る途中、バスの車掌から乗車拒否の罵声を浴びせられ、クリシュナがバスを追いまくる。その隙に仲間たちの前にジープで乗りつけるのがゴードブルなのだ。演じるは、「Aap Mujhe Achche Lagne Lage(あなたは私を好きになる)」(2002)のムケーシュ・ティワリ。酔ってふらつきながら登場早々、パーンを咬んだ唾を吐き、紅く染まった涎を口元に垂らしながらご婦人に絡むという、例によって不快指数200%全開ぶり! しかも書類に書き込むタッブーの胸元をニヤニヤしながら覗き込むなど、かなりの下劣漢(これが普通?!)。
サポーティングは、クリシュナの父親ラーマカーント役に、「Kyo Kii…Main Jjhuth Nahin BoltaB(なぜなら…私はウソは申しません!)」(2001)のアヌパム・ケール。息子と異なり、氣の弱い彼はゴードブルに殴り付けられ、怖じ氣づいてしまう。
クリシュナの姉マンシー役、シーバーはセカンド・ヒロインとも思えるほどの出番。結婚式ナンバル「jhumka chandi da(main ne pehni pehli bar)」では、軽やかなダンスも披露してみせる。もっとも、脇のキャラクターのはずなのに目立ってしまうのは、シーバーの実夫が本作の監督アカーシュディープだからのようだ。
後半、その結婚相手として登場するのが、アルシャード・ワールシー! なんと本作ではゲスト出演!! 「Mujhe Meri Biwi Se Bachao(私を妻から救って!)」(2001)ではレーカーと熱いダンス・ナンバーを共にしたアルシャードだが、レーカーの代表作「踊り子」Umrao Jaan(1981)のリメイクにも出演が決定**。ヒロインはレーカーに負けずとも劣らない踊り手であるアイシュワリヤー・ラーイ! 「Hulchul」(2004)では共演のパレーシュ・ラーワルと肩を並べてFilmfare Awards道化役賞にノミネートされるなど、アルシャドも出世したものである。
クリシュナの警官志望仲間に、「Company」(2002)でナレーターを務めたマクランド・デーシュパーンディー。ラスト手前、ヴィシュワジート・プラダーンとビルから落下し玉砕! と、ハーピー・スィンを好演。「Indian」(2001)、「Dum」と警官志望仲間に1人スィクが必ずいるのは、なにかと黒人俳優が善人や上司役にキャスティングされるハリウッドのポリティカル・コレクトネスに対応しているからか??
また、ニューウェーヴ志向を寸断するコミック・リリーフとして、ジョニー・リーヴァルが牢屋にぶち込まれている酔っ払い役で登場。一旦釈放されたかと思えば、もう一度、牢屋に入れられマムーと同房となるのが笑える。あと、「TVもないじゃないか!」と「Farz(義務)」(2001)に先駆けて、アミターブ・バッチャンの物真似「Kaun Banega Crorepati(誰が成るのか大金持ち)」ギャグも披露。
クリシュナに温情を示す下町の食堂店主に、アヌパムの兄、「Jungle」(2000)のラージュー・ケールが。地元の取りまとめ役ヴィラスラーオに、ティヌー・アナン(アーナンド)。爆破されるマンシーたちの新居の大家役に、サチン・ケデーカル。その妻役のスジャーターは、ほとんど首吊り(偽装)自殺のシーンのみ登場。
それと「ラガーン」Lagaan(2001)の石投げゴーリー役ダーヤー・シャンカル・パーンディー扮するダーヤー役は、タッブーの同僚弁護士か?
パーンディーの妻役に、アルパナー。オーム・プリーの妻にしては、妙に若く艶っぽい配役だと思っていたら、早々にマムーとねんごろになってしまうのであった。この情事を目撃したパーンディーがマムーの目の前で拳銃を抜き、真っ先に射殺するのは、やはり妻の方。後に、妻を射殺したパーンディーがなんのお咎めも受けず、マンシーの結婚式ナンバルに幸福そうな姿を現すのは腑に落ちないが。
この時期、ハードなニューウェーヴ系俳優としてカリスマを発揮していたマノージであるが、ぎこちないながらもプレイバックに合わせてのミュージカル・ナンバルがあって微笑ましい。また、正義の制裁とはいえ初めて人を殺した後、吐きまくるなど、市井の人間らしさを表している。
ヒロインのタッブーは、例によって気怠げに登場するあたりがなんとも彼女らしくていよい。不当逮捕されたクリシュナの釈放に奔走したり、法廷での追求など敏腕弁護士ぶりもなかなか。
アヌー・マリックの手によるフィルミーソングは、どれも秀逸。マノージがプレイバックに合わせて夕景のセットの中でタッブーと戯れる「hum bhi samajh rath」は、メロディアスで耳に残るナンバル。
結婚式ナンバル「jhumka chandi da(main ne pehni pehli bar)」もビートフル。高目のアルカー・ヤーグニクに、ファンキーなジャスピンデール・ナールラーらの歌声が愉しめる。
主色の出来は、ラヴィーナー・タンダンがゲストダンサーとして登場するステージ・ナンバル「teri yeh jawani(baba meri yeh jawani)」。CDがウディット・ナラヤン・バージョンであるのに対し、本編ではラヴィーナーのプレイバックとして女性ポップ・シンガーのファルグニー・パータクがフィーチャルされている。メローなナンバルを得意とする彼女だが、意外にこれがよかったりして。
監督のアカーシュディープは、シーバーを据えて「Pyaar Ka Rog(愛の病)」(1994)、「Miss 420(Miss 詐欺師)」(1998)を監督、本作後は出身の撮影畑に戻ったのか、「Hamara Dil Aapke Paas Hai(私の心はあなたのもの)」(2000)、「Yaadein(想い出の数々)」(2001)などの撮影ユニットでクレジットされている。
その手腕はというと、マサーラーの平均点というところか。編集もカットつながりが芳しくなく、これはコンテをよく練らずに撮影に取りかかったためと思える。
特にクライマックスで、警察本部に避難したマムーを警官のユニフォームを着込んだクリシュナ(結局、警察学校は放校処分)が正義の鉄腕を揮う最中、通り掛かりのコミッショナーがいきなり銃を抜いてクリシュナを撃つカットはまったくつながっていない(ちなみに、クリシュナは訓練の区分け用にグラウンドに刺してあった竹竿を遠投してマムーに天誅を果たす。これこそ「Shool」!?)。
さらに、パーンディーとカヴィターがクリシュナを惜しみながら、彼の遺灰をアラビア海へ流す暗いラストも「Vaastav(現実)」(1999)を受けたもの?と勘ぐってしまうのだが・・・。
*追記 2007,10,08
*「Dil Pe Mat Le Yaar!!」(2000)は、リリース当時の壁紙やDVDジャケットからしてマノージ・バージパイには珍しいラヴコメディに見せかけた実録タッチの冴えないコメディ。薄暗いナチュラル・ライティングの中、これまた意外なことにマノージが氣の弱いダサ男を演じる。脚本は、腐れ縁の親友役、「Yakeen(信頼)」(2005)のソォーラブ・シュクラー。タッブーはこれまた艶めかしく、大胆なベッド・シーンもあり(マノージとではなく)。全体としては迷走映画に留まる。エピローグにおけるマノージは、やはりインド人観客に彼ならこうあるべきという姿か。
**アルシャド・ワールシーがキャスティングされていたリメイク版「Umrao Jaan」(2006)は、結局、「Lage Raho Munnabhai(やってよ、ムンナー兄貴)」(2006)と撮影が重なって降板。代わりに往年のスター、ラージ・クマールの息子である、「Uljhan」(2000)、「アルターフ」Mission Kashmir(2000)のプル・ラージ・クマールが起用された。また、「Lage Raho〜」のアナウンス当初の題名は「Munna Bhai Meets Mahatoma Gandhi」とM絡みであった。
*追記 2010,09,04
敵役イルファン・カーンは、当時、ボリウッドで売れ始めの時期。現在では メジャー専門、「スラムドッグ$ミリオネア」はじめ、海外作品にも多く出演する出世ぶり。
その「スラムドッグ〜」で劇中登場するクイズ番組が「KBC」こと「Kaun Banega Crorepati(誰がなるのか大金持ち)」。本作でジョニー・リーヴァルがパロディにしているのがそれ。
ゲスト出演のアルシャード・ワールシーは、この当時、売れない部類であったが、「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)の相棒サーキット役でブレイク。今やTV番組を持つほどであるが、単独主演ではフロップばかりで、助演俳優として活躍中。名優ナスィールディン・シャー+ヴィッディヤー・バーランの悪女役「Ishqiya(色欲)」(2010)がヒットしている。
また、悪徳警官役ムケーシュ・ティワリも敵役専門から出世している。不正を自省する「Gangajal(ガンガーの聖水)」 (2003)あたりから微妙にシフトし、「Golmaal(ごまかし)」(2006)からコメディに目覚め、ラージパル・ヤーダウ主演「Undertrail」(2007)では、怒りを抱えた主人公を見守る人徳囚人役が佳い。
反面、本作の主演マノージ・バージパイは「Satya」サティヤ( 1998)のカリスマが失われ、サブにまわるようになり、この10年の衰勢を見るようだ。