Chandni Chowk To China(2009)#037

(c)2008 Warner Bros.Pictures(India)Pvt.Ltd.and RSE People Tree Films.
Chandni Chowk To China
「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」
/2009 09.06.04UP ★★★★★
製作:ラーメーシュ・シッピー/監督:ニキル・アドヴァニー/音楽:シャンカル-イフサーン-ローイ/詞:ラジャート・アローラー、カイラーシュ・ケール/アクション:ディーディー・クー、アッバース・アリー・ムガル
出演:アクシャイ・クマール、ディピカー・パードゥコーン、ミトゥン・チャクラワルティー、ランヴィール・ショウレー、ゴードン・リュウ、ロジャー・ユアン
公開日:2009年1月16日(オープニング動員1位!→現在2位)
日本公開:5月30日(上映終了)/日本版DVD:2009年10月21日発売(定価3980円)
STORY
インドの首都デリーは下町チャンドゥニー・チョウクに暮らす屋台料理人のシドゥ(アクシャイ)は、すべての運に見放された大凶男。連日、親方ダーダー(ミトゥン)にケツを蹴り上げながらも開運の夢は諦めない。そんなある日、中国からやって来た村人に極悪人・北条(ゴードン・リュウ)から村を守って欲しいと懇願される。インチキ占師チョップスティック(ランヴィール)に英雄・劉勝の生まれ変わりと言いくるめられたシドゥは、中国製品のCFガール・サキ(ディピカー)に妄想爆発! 英雄氣取りで中国へ乗り込み、さっそく謎の女ミャオミャオ(ディーピカーの二役)によるダイヤ密輸を暴くが・・・。

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Revie-U
2009年1月16日、米印同時公開されるや、インド国内で第1週45カロール・ルピー(8.1億円=入場料換算で81億円!)の興収を獲得した最新ボリウッド・メガヒット作「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」Chandni Chowk To China(2009)が5月30日より日本公開された。これまでインド映画というと公開から数年経った、いささか鮮度落ちがほとんどであったが、本国公開から半年以内に劇場公開というケースはこれが初めて。
しかも、インド進出したワーナー・ブラザースがローカル・プロダクト(現地製作)し、世界配給も行うという第1弾。それだけにボリウッド・ファンにとっては目の上のコブになりがちな邦題案「踊る〜」はワーナー本社が却下、洋画風に原題ソノママ、パブリシティ・デザインも世界標準のキーアートでの公開となったのは嬉しい限り。
ワーナー・ブラザースが製作/世界配給しているだけあって、「CC2C」は、いつものボリウッドとはやや異なり、いささかはしゃぎ過ぎた一面もあるが、カンフーという新素材を取り入れ、印・中・洋食ミックスでアレンジ。ボリウッド未体験の日本人にも合いやすい風味に仕立てられているのが佳い。
「七人の侍」的英雄志望のストーリーラインに、生き別れた美人姉妹の再会という定番物語ながら、そこは映画王国のボリウッド。巧みに観客の感情をつまみあげ、もみほぐしてくれる。「CC2C」は決して映画史上に輝く大傑作ではないが、映画心を満たしてくれる高い仕事ぶりが実に嬉しい。
すべてを失った主人公シドゥが心の底からひたすら渇望し、眠っていた自分自身の本領を発揮する姿は、自分探しに疲れた現代日本人の心をも鷲掴みするはず。今、必見の映画があるとすれば、この「CC2C」の他にない。
主演は今をときめくアクシャイ・クマール。「Bhagam Bhag」(2006)以降の主演作9本連続オープニング第1位を獲得、本年4月公開の新作「8X10 Tasveer(写真)」(2009)が6週連続1位を記録。カリーナー・カプールとの共演、最新作「Kambakkht Ishq(トンデモない恋)」(2009)はハリウッドを舞台にスーパースタントマンという役柄。ユニヴァーサル・スタジオのウォーターワールド・アトラクションやスタローンも特別出演、製作費はインド映画史上最大の9億ルピー(物価換算で115億円)という途方もなさ!
本作では下町チャンドゥニー・チョウクに暮らす大凶男シドゥを前半はダサダサに、終盤はストイックに演じきっている。自らプレイバックに臨んだフィルミー・ラップのエンディング・ナンバル「CC2C」もソー・クール!

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ヒロインは、「オーム・シャンティ・オーム」Om Shanti Om (2007)でスーパー・デビューを果たしたディピカー・パードゥコーン(デーヴァナーガリー的にはディーピカーとなるが、彼女自身は本作のグリーティング映像では「ディピカー」と発音している)。
バドミントン王者を父に持つだけあって、自らを<スポーツパーソン>と認識。かねてよりアクション映画への出演を心待ちしていただけあって、「OSO」公開前に本作のオファーが入るや即サイン。クランクイン半年前からフィルムシティで1日8時間に及ぶ武術トレーニングを行なっただけあって、空港シーンでは迫力あふれる殺陣に挑戦。
本作でもサキ(ミスTSM)とミャオミャオのダブル・ロールを演じており、夜空のランデブー・ナンバル「tere naina(君の瞳)」直前、救出するも悪女ミャオミャオと勘違いしてひるむシドゥに「ミャオミャオ・ナヒン。ミスTSM,トマリ・サキ(あなたのサキよ)」と言う台詞が胸を打つ。
また、その美麗さにワーナーで試写を観た記者たちをすっかり魅了。今回、来日プロモーションがなかったのが、非常に残念だ。
この他、勢いに乗って主演作も好評なランヴィール・ショウレーが「Singh is Kinng(スィン・イズ・キン)」(2008)に続いてアッキーと共演。

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元祖武道派スターとしても知られる名優ミトゥン・チャクラワルティーが、孤児シドゥを育てあげた「兄ィ」を熱演している。(字幕では、不慣れな日本人に解りやすいように「親方」となっているが、ダーダーはベンガル語で「兄」の意味で、シドゥのことを「バイヤー(弟よ)」と呼びかけている。地元ベンガルではミトゥンは敬愛をこめて「ミトゥン・ダー(兄貴)」と呼ばれているためのリスペクト的設定である)。
また、中国側のキャストとして、敵役に「少林寺三十六房」、「キル・ビル」のゴードン・リュウを招聘。ゴードンも若かりし頃は聡明な美少年であり、アッキー同様、コメディもこなす両刀使い(中にはキョンシー役も!)。
そして、シドゥに少林寺拳法の手解きをするのが、「シャンハイ・ヌーン」、「バレットモンク」のロジャー・ユアン。ヒンディー語台詞も彼自身により、物語設定から言っても敵役のゴードンより印象が深い。
* * *
ダークなトーンとスペクタクルなCGに頼り切ったアメコミ・ヒーロー物ばかりのハリウッド映画に人々が飽きだして久しい。「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」は、そんな状況に模索を始めた米ワーナー・ブラザースが広大なインド映画市場で現地製作し、世界配給を試みた第1弾である。
チャウ・シンチーや、あるいは志村けんのバカ殿的なギャグ・スケッチも見られるため、一見、安手のマサラ映画と思われてしまう節もあるが、「CC2C」の本当の魅どころは、むしろ人心を知り尽くした脚本と、味わい深い役者たちが織りなすドラマにある。
シドゥをダシに中国へ渡り一旗揚げようとするインチキ占い師は大仰なメイクもあってコミックリリーフになりがちなところを、嫉妬から裏切り、後悔から献身に至り、映画に深みを添える。

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占い師が卒倒するほどの大凶男シドゥは、英雄に祭り上げられたかと思えば、正体を暴かれ、さらには親方を北条に殺され天涯孤独となる。しかし、親方に拾われた孤児シドゥは実に幸運であった。骨太の兄貴に深く愛され、遅まきながら自分の運命をみつけたのだから。親方の言う「運命は自分で握りしめるもの」、そしてカンフーの師となるチャン警部の「一万回繰り返された(身にしみついた)技は一万種の技でも破ることはできない」という台詞が観る者の心を打つことだろう。未曾有の大不況を受け、自分の人生に迷いを感じる人がいたとしたら、ぜひシドゥの奮闘を思い出してほしい。それは、これまでの人生で日々生きてきたことこそ、本当の自分を発揮できる近道であることを示しているからだ。

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また、この映画の魅力を増しているのは、なんといってもヒロイン、ディピカーの輝きだろう。生き別れの姉妹を探すという設定から彼女はこれまでの出演作で最も印象を放っている。内側からほとばしる魂の輝きが観る者の心に響くのだ。悪の権化・北条に育てられたミャオミャオは表情をそぎ落として演じられているが、自身の運命を知って父親との再会を果たした時、そっと見せる温かい感情の躍起は、うるさ型の演技では到底叶わない味わいを与える。
これらに満ちた「CC2C」を大きなスクリーンで観られる幸運が我々の前に横たわっている今、ぜひとも劇場に駆けつけてほしい。映画らしい至福の時を入場料分たっぷりと満喫できること請け合いだ。もし、一瞬たりともディーピカーにときめくことなく、展開する物語に躍動を感じなかったとしたら、このナマステ・ボリウッドが返金に応じてもよいと思えるほどなのだから。そしてもし、映画を観終わって、どこか幸福な氣分と活力を得られたなら、ぜひボリウッド未体験の友人・知人を誘って欲しい。その人たちが喜んでくれた時、映画王国ボリウッドが育む映画愛というものを実感できるだろう。
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さて、ここいらへんで、劇場パンフにも書けなかったディープなボリ・ネタを披露。

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ディピカーの初登場シーンとなるパロディーCM「ダンスマスターG9」だが、台詞にある「baby can’t dance」というのは、昨年、ヒットしたイムラーン・カーンのデビュー作「Jaane Tu Ya…Jaano Na(わかる? わからない?)」(2008)のヒット・チューン「pappu can’t dance!」のイタダキ(このネタはシャー・ルク・カーン製作「Billu」にもある)。いわゆるインドCMのパクリが実にキャッチー。
足首に巻くだけでどんなタコでもダンスがイケるようになるという中国製品「ダンスマスターG9」の元ネタは、ミトゥン・ダー主演「Surakshaa」(1979)における役どころ<ガンマスターG9>。そして、このタイトルソングを手がけているのが、本作の酒宴ナンバー「india se aaya tera dost(インドから君の友人がやってきた)」でリスペクト・フィーチャルされてる伝説の音楽監督バッピー・ラーヒリー(彼もベンガル出身でバッピー・ダーと呼ばれる)。
この「india se〜」自体もバッピーが手がけた「Aap Ki Khatir(あなたのために)」(1977)のメモラブル・ナンバル「bombay se aaya mera dost(ボンベイから俺の友達がやってきた)」の替え歌。ちなみにアビシェーク・バッチャン主演「Mumbai Se Aaya Mera Dost」のタイトルもこれが原形。
さらに複雑になるが、中国大使館前のシーンでサキがシドゥの足首にダンスマスターG9を仕掛けて踊らせるスケッチで、4曲目に流れるのがミトゥンの伝説映画「Disco Dancer」(1983)より80年代に一世を風靡したディスコ・ナンバル「I am disco dancer」。この「Disco Dancer」もバッピーが音楽監督を務め、劇中、酔ったミトゥンが地声で「bombay se aaya mera dost」を歌っている。「CC2C」で終盤、窮地に陥ったシドゥの前に<兄ィ>の幻影が現れ鼓舞するのも、「Disco Dancer」のクライマックスにおいて演奏不能となった主人公(ミトゥン)の前に伯父(ラージェーシュ・カンナー:アッキーの義父)が降り立つのと同じ構成。
ミトゥン続きでは言えば、シャー・ルク・カーン主演「Kuch Kuch Hota Hai」何かが起きてる(1998)でのサマー・キャンプは劇中シムラー(北インド)という設定だが、実際には南インドの高級避暑地ウーティーでロケをしており、これを手配したのがウーティーのホテル王と言われるミトゥン。彼の名前が「KKHH」の冒頭で献辞されているので確認して欲しい(ミトゥンは、国家映画賞主演男優賞受賞者であるが、90年代はウーティーを牙城に「Aaag Hi Aag(火には火を)」(1999)のようなD級アクション映画ばかりを作っていた)。
その「KKHH」で助監督を務めていたのが、本作の監督ニキル・アドヴァニー。彼自身、サマーキャンプ中、カジョールがTVで見かける「ニーラム・ショー」の中で「新しい彼女ができた。スパルナー、すまんな」と言ってる野球帽の男として出演(しかもその時、<新しい彼女>役でチラリと顔を見せているのが、なんとファラー・カーン!)。
ついでに言えば、中国へ向かう機内映画として流れているのが、ニキルの前作「Salaam-E-Ishq(愛のサラーム)」(2007)。サルマーン・カーンはじめ11名のスターを集め、あの「たとえ明日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)のニキル第2作!と期待を集めたものの、フロップ(年間17位)。「CC2C」も同じ1月公開とあって、心配していたが、見事オープニング1位を獲得し雪辱を晴らしたのは喜ばしい限り。
さて、この機内シーンはまわりの中国人ジュニア・アーティストたちの芝居も素晴らしく、ランヴィールのとぼけ具合も最高なスケッチ。何度観ても笑えるし、やはり飛行機に搭乗した時、ついつい思い出し笑いしてしまう。この時「あんた、バカ?」と真顔で尋ねる眼鏡青年。ムンバイ在住なのか、クナール・ケムー×パレーシュ・ラーワル主演の映画製作ネタ「Dhoondte Reh Jaoge」(2009)でも<日本人ビジネスマンの替え玉である中国人>という設定で顔を見せている。
そして、シドゥ暗殺の指令を受けたミャオミャオが村に忍び込み、ランヴィール扮するチョップスティック(字幕ではハシ道士)が彼女に欲情して、ついつい踊り出すナンバル「chura ke dil mera」こそ、アッキー主演「Main Khiladi Tu Anali(俺は闘士、おまえは頓馬)」(1994)。なるほど「グル・ジー、これはオレがマスターよ」とアッキーが踊り出すわけである(字幕では「これは俺の持ち歌」)。
ちなみに毒リップをつけたミャオミャオがシドゥの部屋に忍び込んだ時に流れる懐メロが、デーブ・アナン主演「jewel Thief」(1967)のメモラブル・ナンバル「honton pe aisi baat」(ラター・マンゲーシュカル)。
さて、映画ネタはいろいろあるが、ストーリーの骨格となっている「七人の侍」的なところは、インド映画の金字塔「Sholay」炎(1975)。もちろん、製作ラーメーシュ・シッピーの監督作。断崖に囲まれた村の設定や、酒宴でくつろいだ村人たちを悪党どもが急襲するシーン運びも「炎」に対応している。
そして、生き別れの美人姉妹というのもラーメーシュが「炎」の前に監督したヘーマー・マーリニー主演「Seeta Aur Geeta(シーターとギーター)」(1972)。ミャオミャオのメイクが、どこかヘーマーの娘イーシャー・デーオールを彷彿するのは氣のせいか(あるいは単に最近のイーシャーが陰顏になってしまっただけか)。
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さてさて、洋画不況(最近は字幕を読むのが面倒臭いそうだ)、また世間一般的にはインド映画というと「踊るバカ映画」という認識になっていることもあって関心度が低く、上映スケジュールがいつ変更になるか不透明なため、都合がつく限りスクリーンでの上映を堪能しておきたい。
ボリウッドの世界的な潮流から日本がますます取り残されないように祈ります。
*追記 2010,09,03
北米では130スクリーンで公開、まずまずの収益を上げている。ワーナー・ブラザース・インディアでは、その後もローカル・プロダクツを進めている。第2弾が「Quick Gun Murugun」(2009)で、「Om Shanti Om」(2007)の劇中パロディー映画からのイタダキ企画。第3弾がリティーシュ・デーシュムーク&ジャクリーン・フェルナンデス(ミス・スリランカ)「Jaane Kahan Se Aay Hai!(どこから来たか知ってる?)」(2010)。
アクシャイ&カリーナー主演「Kambakkht Ishq(トンデモない恋)」(2009)が「スタローンinハリウッド・トラブル」というトンデモない邦題で日本版DVDが発売中。データ的にはスタローンら本来カメオ出演であるハリウッド勢が「主演」でアッキーとカリーナーは脇役扱い、というやり放題。もっともスタローンらはカメオ契約のため、ジャケット画像には使えないようでアッキーとカリーナーが大写しになっている。
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