Bhootnath(2008)#294
「Bhootnath(幽霊王)」★★★★
ブートナート
製作:B・R・チョープラー、ラヴィ・チョープラー/脚本・台詞・監督:ヴィヴェーク・シャルマー/脚本・台詞:スダンシュー・ドゥベー/撮影:ヴィシュヌ・ラーオ/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽:ヴィシャール-シェーカル/振付:レモ、ヴァイバヴィー・メルチャント/編集:サンジャイ・ヴェルマー
出演:アミターブ・バッチャン、ジュヒー・チャーウラー、サティーシュ・シャー、ラージパル・ヤーダウ、プリヤンシュー・チャッテルジー、アマン・シディークィー(新人)
特別出演:シャー・ルク・カーン、ニーナー・クルカルニー
デルナーズ・パウル、アーシーシュ・チョウドリー、ナゥヒード・サイラス、シャーナー・ディヤー
公開日:2008年5月9日(日本未公開)

(c)B.R.Films, 2008.
STORY
航海エンジニアのアディティヤ(シャー・ルク)の一家は風光明媚なムルマガオの邸宅へ引っ越すも、妻アンジェリー(ジュヒー)とひとり息子バンクー(アマン)を残してすぐ航海へと出てしまう。しかし、その屋敷は怨霊となった元の持ち主ナート(アミターブ)が夜な夜な出没する曰く付きの幽霊屋敷だった…。

(c)B.R.Films, 2008.
Revie-U
なんとアミターブ・バッチャンが幽霊に!
しかも子供相手に大難儀。そして、なかなかの秀作。
自らプレイバックを2曲こなすアミターブがこれまたダンディ。
製作は、ヤシュ・チョープラーの兄B・R・チョープラー。80年代に「Nikaah(結婚)」(1982)などウルドゥー文芸映画路線を手がけた後、TV界に進出し、ヒンドゥー神話劇シリーズ「Mahabharata」や「Ramayana」で南アジアを中心に熱狂を巻き起こし、ゼロ年代にはアミターブを主演に迎え「Baghban(庭師)」(2003)、「Baabul(父)」(2006)など現代インドの世代間をテーマに伝統的心情をくすぐる作風で展開。
やや教条的との批評を受けてか、本作では子供映画の範疇で娯楽性をバランスよく保っている。

(c)B.R.Films, 2008.
母親役ジュヒー・チャーウラーは、シャー・ルク・カーンと共同製作した「Phir Bhi Dil Hai Hindustani(それでも心はインド人)」(2000)がフロップしたのに加え、おめでたも手伝ってヒロイン女優から退き、助演にシフトしたなかで、本作ではかなりの出番となり、<サンドウィッチしか作らない>愛すべき母親を好演。

(c)B.R.Films, 2008.
本作を生き生きとしたものにしているのは、やはり物語の主人公となるバンクー役のアマン・シディークィーだろう。
「3 Idiots」3バカに乾杯!(2009)のR・マダヴァンを縮小したようなもっちりした子役で物怖じしないパワフルな演技を見せ、一休さんよろしく頓智でブートナートを使役してしまう。ロック・チューンのキッズ・ミュージカル「hum to hain aandhi」でのダンスも迫力あり。
ただ、バンクーと対立する同級生のジョジョが区別の付きにくい丸顔同士なのが困ったもの。

(c)B.R.Films, 2008.
サポーティングは、弁当試食魔の校長役にサティーシュ・シャー。「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)のツバ吐き教授を思い出させる。
幽霊屋敷となったナートの屋敷ナート・ヴィラに出没する浮浪者アントニー役がラージパル・ヤーダウ。まず母親アンジェリーがアントニーに遭遇し、バンクーに彼のことを告げ、さらに「幽霊じゃなくて天使なのよ」と伝えたことからブートナートに出会ったバンクーが怖がらない、という脚本上の効果を生んでいる。
バンクーが学校で対立するジョジョの母親役が「たとえ明日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)でプリティー・ズィンターのぽっちゃりした友人役だったデルナーズ・パウル。運動会で「見て、私のジョジョよ!」とまわりに声をかけまくる様が彼女らしいキャラクターで微笑ましい。
また、ナートがブートとなるきっかけとなった息子ヴィジャイ役が「Tum Bin…(君なしでは…)」(2001)でデビューしたプリヤンシュー・チャッテルジー。
その後、「Dil Ka Rishta(心の関係)」(2003)でアイシュワリヤー・ラーイと共演を果たしたが、役者としては大成せず、細々とキャリアを伸ばしている。
そして何より話題となったのは、シャー・ルクの特別出演(航海士という役柄上、時よりストーリーに寄港する)。
アミターブが低迷期にあった90年代にブレイクしたシャー・ルクは「家族の四季」Kabhi Khushi Kabhie Gham…(2001)で初共演。以来、<キング・オブ・ボリウッド>のシャー・ルクは帝王アミターブと急速に親交を深めるも、アミターブが起死回生し、「スラムドッグ$ミリオネア」原作のインスパイア元となったTV「Kaun Banega Crorepati(誰がなるのか億万長者)」の後継司会者にシャー・ルクが巨額のギャラで収まったことからふたりは断交へと至っていたからだ。
しかし、ブートナートの姿は無垢なるバンクーしか見えないため、共演場面はクライマックスの儀式スケッチのみ。断絶した親子が供儀を通して<和解>するという本作の核心であり、心温まるシーンながら、この時のアミターブとシャー・ルクは氷解することはなかった。
シャー・ルクの表情が心なしか硬いのはそのためか。
現実世界では心の修正は難しい?