Jo Jeeta Wohi Sikandar(1992)#292
「Jo Jeeta Wohi Sikandar」
勝者アレキサンダー ★★★☆
ジョー・ジーター・ヴォヒー・シカンダル
製作・台詞:ナースィル・フセイン/原案・脚本・監督:マンスール・カーン/撮影:ナジーブ・カーン/作詞:マジュルーフ・スルタンプリー/音楽:ジャティン-ラリット/振付:ファラー・カーン、スレーシュ・バット、マダーヴ・キシェン/アクション:A・ガニー/美術:ニテーシュ・ローイ、シブ・ダー/衣装デザイン:アシュレー・レベロー/編集:ザファル・スルタン、ディリープ・コタルギ
出演:アーミル・カーン、アイーシャー・ジュルカー、ディーパック・ティジョーリー、プージャー・ベディ、クルブーシャン・カルバンダー、マミク(新人)、キラン・ザヴェリ(新人)、アフメド・カーン、ラヴィンデル・カプール、デーブ・ムカルジー、アディトヤ・ラーキア、デーヴェン・ボージャニー、ミキ・カーン、プラカーシュ、スーラージ・タッパル、ボビー・カンナー、サーナム・オベローイ、シーナーズ・クディア、シラーズ、シャローク、イムラーン
特別出演:アスラーニー、アジート・ヴァチャニー、アンジャン・スリワスターワ
公開日:1992年5月22日(年間11位/93年7月 福岡アジア映画祭上映)
Filmfare Awards:作品賞
STORY
北インド・デヘラドゥーンのボンクラ学生サンジャイラール(アーミル)は、クイーンズ・カレッジに通う美形のデヴィカー(プージャー・ベディ)にひと目惚れ。しかし、幼馴染みのリリー(アイーシャー・ジュルカー)が傷つくとは知らず…。
Revie-U
例によって米「ヤング・ゼネレーション」の翻案。原版そのままのサイクル・レースもしっかり用意されている。
作品の出来としては凡作になるが、インド人にしてみると当時ヒットしたタイトルソングでもあるフィルミー・ナンバル「pehla nasha pehla khumar(初めての恋、初めての酔い)」のリリカルなメロディーが深く心に刻まれているのか、ランビール・カプール N コンコナー・セーン・シャルマー「Wake Up Sid」(2009)やイムラーン・カーン N ディピカー・パードゥコーン「Break Ke Baad(別れの後で)」(2010)でも敬愛。
アーミル・カーンのボンクラ学生ぶりは「3 Idiots」3バカに乾杯!(2009)を彷彿させ、仲間を入れるとちょうど3人組となるが、他のふたりは添え物に留まる。
アーミル扮するサンジャイラールは、家業がカフェのミドル・クラス。父親と口論して食事もろくに取らず飛び出ると、幼馴染みのリリー宅へ上がり込み、食事にありつくのが毎度の出来事。氣の置けない生活ぶりがなかなかに佳い。
このリリー役が、この時期そこそこ人氣を博したアイーシャー・ジュルカー。愛らしくもあるが、やや地味な顔立ちで妹的キャラクターがインドでは足枷となり、カジョールなど90年代デビュー組の中では霞んでしまった。
家業が自動車修理とあって、可憐な一方、オイルにまみれ、競技用自転車の整備も手がける様が愛らしい。
幼馴染みの想いには氣付かず、外来の美形に惚れてしまう定番通り(「KKHH」も同様)のセカンド・ヒロインに、デヴィカー役プージャー・ベディは「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)や「Kites」カイト(2010)の国際派俳優カビール・ベディの娘。
エキゾチックな雰囲氣を湛えているのは、ティベット仏教修行者の祖母フリーダー・ベディが豪州出身の英国系のためクォーターであるから。どことなく、「Kites」のバルバラ・モリに通ずる野性的な顔立ちが魅力的。モデルとしても活躍しただけに「pehla nasha pehla khumar」中、まくれ上がるスカートに隠された美脚も見事。
ボリウッド映画史的な注目ポイントとして、金持ち組のラージプート校にはアスレチック・ジムが整っており、筋力トレーニングに励むシーンがあることだろう。
米「ランボー」のインパクトからサンジャイ・ダットやサルマーン・カーンがこぞってマッチョ化を狙い始めたのが80年代末からとあって、この時期はまだどの俳優もさほど筋肉が発達していない。
サポーティングは、サンジャイラールの父親に「Ghayal(傷ついた者)」(1990)のクルブーシャン・カルバンダー。まだ精悍さが残る時期だけに、カフェを経営しながらモデル校のサイクル・コーチも務める熱血親父ぶりが板に付いている。
兄役に「Kya Kehna!(なんと言っても!)」(2000)のマミク・スィン。競技者らしい均整の取れた身体と健脚が目を引く。
サンジューの通うモデル校の教師に「Sholay」炎(1975)のアスラーニー、ラージプート校の校長に「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)のアジート・ヴァチャニー、スポーツ大会本部の中継アナウンサーに「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」(2009)のアンジャン・スリワスターワを配役。
製作はアーミルの伯父ナースィル・フセイン、監督はその息子でアーミルの従兄弟にあたるマンスール・カーンというホーム・プロダクツで、アーミルの少年時代役にイムラーン・カーンの子役出演(細い!)も頷けるというもの。
ラージプートのコーチ役デーブ・ムカルジーは、カジョールやラーニー・ムカルジーの親戚にあたり、「Wake Up Sid」の監督アヤン・ムカルジーの父親。これで「WUS」での<引用>理由が解る。ちょうどアヤン自身も少年時代がこの時期にあたり、感慨深い想い出となったのだろう。
アーミル絡みでは、サンジューのボンクラ仲間に「ラガーン」Lagaan(2001)のカチェラー役、アディトヤ・ラーキアが顔を見せる。
また、サイクル・レースの中間地点中継役がなんと「Taare Zameen Par(地上の星たち)」(2007)の脚本を手がけ、当初監督する予定だったアモーレー・グプテー。シャーヒド・カプール主演「Kaminey(イカれた野郎)」(2009)でのグンダー(ゴロツキ)のボス役を演じ、監督デビュー作「Stanley Ka Dabba」(2011)ではアディトヤ・ラーキアも出演。
オープニングのプロローグでサンジャイラールの兄が競技に負け、この雪辱を晴らすべくトレーニングを重ねるもラージプート校の嫌がらせを受けて負傷。サンジャイラールが報復戦に臨む、というスポーツ物の王道ストーリー。
そのライバルとなるラージプート校の感じの悪い男が、「アシュラ」Anjaam(1994)でマードゥリー・ディクシトの夫役を務め、「Ghulam(奴隷)」(1998)、「Baadshah(帝王)」(1999)、「Dulhan Hum Le Jayenge(花嫁は僕が連れてゆく)」(2000)などに出演するディーパック・ティジョーリー。Bグレード臭さたっぷりのため、遂にヒーローとして認知されなかったが、その後は「Oops!」(2003)監督に転身し、「Tom, Dick, and Harry(デバガメ三人衆)」(2006)など愚作を発表。
ちなみに本作の翌年、ラヴィーナー・タンダンをヒロインに迎えたアーシュトーシュ・ゴーワリカルの初監督作品「Pehla Nasha(初めての恋)」(1993)で主役に抜擢されている。
舞台となるデヘラドゥーンは、「家族の四季」K3G(2001)でリティク・ローシャンも学んでいた寄宿学校のある聖地で良家の子女が通う名所として知られるが、メインはムンバイーのフィルムシティ周辺オープン・セットで撮影。
90年代初頭らしいパワフルな演出でFilmfare Awards 作品賞を受賞、経済開放の息吹を感じさせるインド映画として翌93年に第7回福岡アジア映画祭でも上映された。
若さたっぷりのアーミルは、短パンで登場。
キス・シーンがしっかりあるのは、いかにもアーミルならでは。
何より本作の魅力は、初恋を想い出しそうな淡いメロディーの「pehla nasha pehla khumar」に尽きる。そして、メモラブル・ソングが決して古びることなく人々の心に宿り続けるボリウッドの文化構造が素晴らしい。