Rock On!!(2008)#290
製作・台詞:ファルハーン・アクタル/製作:リティーシュ・シドワーニー/原案・脚本・監督:アビシェーク・カプール/脚本:プバリー・チョウドリー/撮影:ジェイソン・ウェスト/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽:シャンカル-イフサーン-ローイ/振付:レモ/衣装デザイン:ニハリカー・カーン/プロダクション・デザイン:シャシャンク・テーレー/編集:ディーパー・バーティア
出演:ファルハーン・アクタル(新人)、アルジュン・ラームパール、プラブ・コーフリー、ルケー・ケニー、プラチー・デーサーイー(新人)、シャハナー・ゴースワーミー、コーエル・プリー
特別出演:アヌー・マリック
公開日:2008年8月29日(年間17位/日本未公開)145分
STORY
エグゼクティヴ・ビジネスマンとして成功しているアディティヤ(ファルハーン)との退屈な日々を過ごしていた若妻サークシー(プラチー)は、ある日、夫が隠していた売れないロック・ミュージシャンだった過去を知る。そして、かつてのバンド「Magik」メンバーを再会させたことから再結成の話が持ち上がるが…。
Revie-U
2008年にボリウッドでロック・ブームを巻き起こした本作。
これが俳優デビューとなる主演は、なんとシャー・ルク・カーン主演「DON」Don(2006)の監督ファルハーン・アクタル。
世界広しと言えども、本来キャメラの後側に立つ映画監督が名を成した後、俳優デビュー(それも助演でなく主演)して俳優活動に重点を置いてしまうのはそうそうあるものではない。

(c)Excel Entertainment, 2008.
これは、父ジャーヴェードが脚本家時代にコンビを組んでアミターブ・バッチャン主演「Sholay」炎(1975)、「Don」(1978)など数々のヒット作を生んだものの、喧嘩分かれとなった脚本パートナー、サリーム・カーンの三男であるソハイル・カーンが長兄サルマーン・カーン主演「Auzaar」(1997)で監督デビューを果たし、「Hello Brother」(1999)なども手がけるも自身の監督・主演作「Maine Dil Tujhko Diya」(2002)で本格デビューして監督から俳優へシフト。力作の主演「I proud to be an Indian」(2004)、コミカルな芝居で目を引いた「Maine Pyaar Kyun Kiya(私はなぜか愛を知った)」(2005)などそこそこ活躍していることに刺激を受けたのだろうか。
これが単なる邪推とも思えないのが、本作の脚本・監督アビシェーク・カプールの監督デビュー作がソハイル主演のボクシング映画「Aryan」(2006)であるからだ。

(c)Excel Entertainment, 2008.
ところが本作では、再結成を最も拒むのがリード・ヴォーカル担当のアディティヤ。少々稼いでいるどころか、一流会社での重要ポストに昇進した矢先のこととなる。このアッパー感が実にインド人らしくストレートな設定と言える。
演出はきめ細かく、カットバックを多用した構成は、いわゆる「ロック映画」テイストを見事に構築しており、その点では共感できなくもない(よく出来ているが故に<こっ恥ずかしい>というのが素直な感想。苦笑)。
もっとも、売れないバンド時代の過去スケッチにある70年代風は<再現>でなく、映画的に作り込んだ<捏造>で、往年のヒンディー映画界を50年代のハリウッドに置き換えて<偽造>した女優物語「Khoya Khoya Chand(消えゆく月)」(2007)からの潮流で、さらに妹ゾーヤーの監督デビュー作「Luck by Chance」チャンスをつかめ!(2009)へと続く。

(c)Excel Entertainment, 2008.
「We Are Family」(2010)など客を呼べるスターヴァリューが伴わないものの、映画内における存在感は向上。シャー・ルク製作・主演「Ra.One」(2011)での悪役タイトルロールが期待。

(c)Excel Entertainment, 2008.
「Yun Hota Toh Kya Hota(もし起きたら、何が起きる)」(2006)の端役でスクリーン・デビューし、小粒映画「Ru-Ba-Ru」(2008)でも光っていた彼女。サミーラー・レッディをファンキーにしたような芝居で、バンド時代から支えた夫が食えないロックバンドへ戻ろうとするのに反発する。

(c)Excel Entertainment, 2008.
稼ぎはいいものの、どこか心が閉じた夫の封印された過去に心ときめく様がよく描かれており、かつてのバンド仲間が集まるパーティー場面でマイクを押しつけられ「私、ヒンディーソングしか知らないの」と、そっと地声で歌い出すのがミーナークマーリーがヒロインを務めた「Dil Apna Aur Preet Parai」(1960)よりラター・マンゲーシュカルの麗しき歌声が酔わせるメモラブル「ajeeb dastan hai yeh」が愛らしい(ハワイアン風の原版通り、アルジュンが生ギターで伴奏を買って出るのが佳い)。
また、バンドの元メンバーがお抱えプレーヤーという際どい設定ながら平然と彼自身役で特別出演に応じているのが、トップ音楽監督のアヌー・マリック。アートなロックに対して既存音楽としてのフィルミーという構図など物ともしない自信が感じられる。
しかしながら、作品世界の足を引っ張っているのがファルハーン本人。
セルフ・プロデュースの俳優デビュー作がバンド映画で自らプレイバックしてしまうリード・ヴォーカル役はかなりの自意識と言え、他のメンバーが生活苦を押して魂としてのロックに回帰しようとする中、超高級マンションに暮らす<勝ち組>という設定からもエスタブリッシュメント志向が見てとれるが、なんと言っても素人以下の歌唱力が玉に瑕。

(c)Excel Entertainment, 2008.
この後、シャー・ルク製作・助演「Billu」(2009)のロック・チューン「ae aa o」や同じくアジャイ・デーヴガン×サルマーン競演のバンド映画「London Dreams」(2009)、「Pyaar Impossible(恋はインポッシブル)」(2010)など、ボリウッドでちょっとしたロック・ブームが湧いた背景には、ある程度、インドが体現した消費経済の成熟が挙げられよう。
それ故、いずれもロック映画として本質に迫れずに終わっており、グルーヴ感としては<ビート・ザ・システム>としてのロックが残るパキスタンの名物音楽番組「Coke Studio」に軍配が上がる。
ただ、最後のメッセージは共感できる。
“DON’T DOWNLOAD THE MUSIC”
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