Yaadein(2001)#011
Yaadein(思い出の数々)/2001 ★★★ 01.09.13
製作・脚本・監督・編集:スバーシュ・ガイー/撮影:カビール・ラール/音楽:アヌー・マリック/詞:アナン・バクシー/美術:シャルミスター・ローイ
出演:ジャッキー・シュロフ、リティク・ローシャン、カリーナー・カプール、アムリーシュ・プリー、ラーティー・アグニホートリー、スプリヤー・カールニック、アナン・デーサーイー、キラン・ラトード、アウニー・ヴァーサ、ヒマーニー・ラーワート
公開日:2001年7月27日(日本未公開)
STORY
長いロンドン暮らしからインドへ戻ったラージ・スィン・プーリー(ジャッキー)は、亡き妻シャールン(ラーティー)の遺言もあり、三姉妹、長女アヴァンティカー(アウニー)、次女サニアー(ヒマーニー)、三女イーシャー(カリーナー)の縁組みに奔走する。しかし、一家の親友にして幼なじみのロヒト・マルホートラ(リティク)とイーシャが恋に落ちてしまい、すでに縁談を他に取り決めていたラージとマルホートラ家の仲もこじれてしまう。ロヒトは渋々、モニーシュカー(キラン)と婚約するが、イーシャーを諦めきれず、ふたりは駆け落ちして・・・!
Revie-U
新人発掘で定評のある監督スバーシュ・ガイーがデビューしたてのリティク・ローシャン&カリーナー・カプールをフィーチャル。アナウンス当初から話題となり、リリース直前までダブル・メガヒットしていた「Lagaan」ラガーン(2001)と「Gadar(暴動)」(2001)を駆逐してあらゆる記録を塗り替えるだろう、と期待されていた。
そのために、過去最大と言われる拡大公開で国内・海外同時にリリースされたが、なんとこれが大きくフロップ! 2週目から客足はガクンと落ち、4週目はほぼガラ空きという悲惨な状態。
公開直後にひろまった噂は「主役はリティクとカリーナーでなく、ジャッキーの映画」というものであり、観客が待ち望んでいた内容と大きく異なっていた点が見事コケた理由。それに加えて、構成、演出がなっておらず、これでは高い鑑賞眼を持つインドの観客から反発を食らうのは無理もない。
映画は、インドにて寺院から戻ったジャッキー・シュロフの回想で始まる。妻はロンドンで犯罪に巻き込まれ死んでしまうのだが、これが二重の回想として語られるため、まず混乱してしまう。また時間軸が不明のまま、ロンドン、インド、マレーシアとロケ地が飛びまくり、余計に訳がわからなくなる。
前作「Taal(リズム)」(1999)から編集もスバーシュ自身が行っているが、成功しているとは言い難い。毎度お馴染みの監督登場シーンでもリティク&カリーナーのショットに「つながって」いないのだ。その上、自分が画面に登場し台詞まで吐いてしまうが、とても俳優としてスタートしたとは思えない芝居。
度々登場するタイアップ・スポンサーの商品紹介も興醒めだ。「Taal」でもシツコイくらいに某炭酸飲料が登場したが、今回も更に輪を掛けた状態。もっとも、タイアップにウンザリした鈴木清順が「東京流れ者」(1966=日活)で見せたような確信犯的露骨さがあれば、まだ笑えるが・・・。
エピソードが細切れになっているのも難点だ。亡き妻の遺言というだけでなく、ヒンドゥーの義務として、ジャッキーは娘たちの縁談に奔走する。長女、次女は気がついたら式が終わっていた、というくらい簡素に描かれていて、三姉妹にする意味があったのか? と思うほど。
三女カリーナーはマレーシアの女子ロードレースに参加するが、これをwebサイトを持つリティクがDVカメラで中継する。ロケの規模からすると、かなりのウエイトがあっていいはずだが、ここでもあっさりとレースの勝敗が描かれて終わり。
翌日、島の遊覧へ行ったカリーナーたちはワニ(!)に襲われ、彼女だけが取り残されてしまう!! ただちにリティクがモーター付きのゴムボートで駆けつけ、木の上に逃げ延びて気を失ったカリーナーを発見。ボートも燃料切れで、「KNPH」(2000)よろしく「また無人島!?」と思うが、今度はリティクが泳いで(!!!)本島へ。病院に担ぎ込まれ深刻な展開になると思いきや、翌日には退院してしまう・・・。
このように、どのエピソードもあれよあれよと言う間に片付けられ、味わう暇がないのだ。また、ワニのシーンも明らかに別撮りとわかり、同フレームに収まっているショットもデジタル処理の粗さが目立つ。いづれにしろ、編集がお粗末過ぎる。
二人の姉妹役のアウニ・ヴァーサとヒマーニー・ラーワート、フィアンセ役のキラン・ラトードら若手女優たちがパッとしないばかりか、リティク、カリーナーも活かしきれていない。
特にリティクの描写では、「ふたりの男とひとりの女」(2000=米)の劇場看板とジム・キャリー風顔面芸を延々見せられては、リティクのファンも引いてしまったことだろう。
「Pardes(他国)」(1998)、「Taal」と全編に噛んでいたアムリーシュ・プリーは、今回、金髪という手の込んだメイクながら終盤まで大した役割はなくお飾り同然でパーティーかプージャー(儀式)場面のみ。
反面、久しぶりにスバーシュ作品へ復帰したジャッキーは、三人姉妹を持つ初老の片親をしんみりと好演している。が、映画としては破綻しているので、これが「ジャッキーの映画」と揶揄される所以である。
「Taal」では刈り上げショート・カットも手伝って冷血な母親役に見えたスプリヤー・カールニクも一変。髪の毛も伸びたこともあって今回は愛らしいキャラクターで、結果としてリティックに理解を示しアムリーシュに対抗する母親を演じる。
撮影のカビール・ラールはよい仕事をしていて、特にマレーシアの夕景を美しくとらえている。
度肝を抜くのは、マルホートラ家の屋敷で、ほとんど古城のような大きさ。その上、室内も豪華ホテルのロビー以上に広い! ミドルクラスのサラリーマンだったはずのジャッキーが住む沙漠の中の広大なファームハウスもあきれるくらいに見事。
アヌー・マリックによるメインテーマ「yaadein(思い出)」は耳に残る心地よさがあるものの、他のナンバルがどれも印象薄く残念。
スバーシュはヒットメーカーとして名の知れた監督であるが、演出力には毎回疑問が残る。ミュージカル・シーンで踊るリティクをデジタルで数百人に増幅してしまうなどやり過ぎも目立ち、今回はとにかくハズレであった。大コケしたのは、スクリーン・レビューの中傷によるもの、とスバーシュは発言しているが、すべては演出の失敗と断定できる。
本作はリティクのデビュー第4弾、カリーナーの第3弾となるが、キャンペーンに散々引っ張り回され、不本意に作品を褒めなければならず、いい加減ウンザリしたというリティク&カリーナー。早くも「思い出」の彼方に消えることだろう。