Namastey London(2007)#283
製作・監督:ヴィープル・アムルトラール・シャー/原案・脚本・台詞:スレーシュ・ナーヤル/台詞:リティーシュ・シャー/撮影:ジョナサン・ブルーム/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽:ヒメーシュ・リシャームミヤー/振付:サロージ・カーン、アシュレー・ロボ、ラジーヴ・スルティ、ポニー・ヴェルマー/背景音楽:サリーム-スレイマン/美術監督:ジャヤント・デーシュムーク、ルパート・アレン(ロンドン)/プロダクション・デザイン:ポール・バーンズ/編集:アミターブ・シュクラー
出演:リシ・カプール、アクシャイ・クマール、カトリーナー・ケイフ、ウペン・パテール、ジャーヴェード・シェイク、ニナー・ワディア、クライヴ・スタンデン、ティファニー・マルヘエロン
特別出演:リティーシュ・デーシュムーク
公開日:2007年3月23日(年間10位/日本未公開)128分
STORY
英国人の恋人チャーリー・ブラウンを持つロンドン生まれのジャズ(カトリーナー)は、父マンモーハン(リシ)に騙されて連れて行かれたインドでパンジャーブ野郎のアルジュン(アクシャイ)と結婚させられる。しかし、ロンドンに戻った彼女は「結婚無効」を宣言。英国人からのプロポーズを承諾するが…。
Revie-U
2007年はアクシャイ・クマールが主演4作トータルで<キング・オブ・ボリウッド>シャー・ルク・カーンをぶち抜いてメイキング・マネーのNo.1に輝いた年。なにしろトップ1「Welcome」、7位「Bhool Bhulaiyaa(迷宮)」、8位「Heyy Babyy」、10位本作「Namastey London」と全作がトップ10入り、さらにゲスト出演した「Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)も含めると5作がランク・イン。
特に本作は、英国人撮影監督を迎え、洗練されたロンドン・シークエンス、インドの名勝を飛び回った美しい映像と文化、スタイリッシュな音楽、アッキーもダサ男でなく二枚目路線であり、128分というランニング・タイムといい、
日本の映画ファンにも受け入れやすいと思われたが、冷え切った日本市場での公開は叶わず。

(c)Blockbuster Movie Entertainers, 2007.
幕開け早々、ゲスト出演のリティーシュ・デーシュムーク相手に見合いの席でウォッカを飲み干すコメディエンヌぶりもお見事。
この時期の彼女はボリウッド・ダンスもまだまだではあるが、撮影を愉しんでいる様が実に微笑ましい。
ケーダールナート(ウッタルカンド州)、リシケーシュ(ウッタルカンド州)、ハリドワール(ウッタルカンド州)、アジメール(ラージャスターン州)、ジャイプール(ラージャスターン州)、タージマハル(ウッタル・プラデーシュ州)を観光し、ムンバイー(マハーラーシュトラ州)、ハイデラバード(アーンドラ・プラデーシュ州)、デリーでボンクラ男と見合いさせられた後、ジャズが連れて行かれるのが父の故郷チャンディーガル(パンジャーブ州)。

(c)Blockbuster Movie Entertainers, 2007.
アーミル・カーン N ソーナーリー・ベンドレー「Sarfarosh(命賭け)」(1999)にあるように、通常、恋が芽生える場面でと言えば、風に舞ったドゥパッターが主人公の顔を覆うのが定番であるが、本作でアルジュンが被るのはマンモーハンの赤い腰巻。それ故、彼は困難が降りかかるのだ。
そんなこんなでインド式の結婚を済ませたアルジュンとジャズだが、ロンドンに戻った彼女が「あれはお芝居。父さんだって、私を騙したでしょ」と報復宣言し、堂々と英国人の恋人チャーリー・ブラウン(笑)と交際。
これが90年代中盤なら「DDLJ」(1995)よろしく、血まみれアクションが展開するところだが、アルジュンの台詞「ここはロンドンで、パンジャーブじゃない」と、大暴れせず、ラヴ・ロマンス的なアプローチとなるのがニクイ。
日本では相も変わらず前世紀の遺物である「インド映画と言えば、いきなり意味もなく踊り出す」という認識が続いているが、ふたりの心がほんのりと結びついてゆく様を描き出すのが、ミュージカル・ナンバルの数々。
インドの伝統文化に馴染まないジャズがアルジュンの妄想「rafta rafta」の中ではトラクターに乗り、ギーを手作りしてみせ、ロンドンではアルジュンというより観客の妄想として「yahi hota pyaar」が甘く開花する。
見せ場は、テムズ川沿いで開催されるジャズとチャーリー・ブラウンの婚約パーティーだ(チャーリーもボリウッド式に広大な荘園と城を所有する大富豪という設定)。
この時、来客の英国人が「インド」について皮肉を言い、ジャズが氣分を害する。同席していたアルジュンは「俺は頭に来たぜ。なぜってインド人だからな。だが、君がなんで頭に来るんだ? 君はイギリス人なんだろ」と、ロンドン生まれのジャズを刺激する。
そして、先の英国人相手に伝統あるインドの素晴らしさを<英語を話さない>アルジュンがヒンディーで話し、ジャズが英語で通訳するうちに彼女の中で自国への愛と誇りが昂揚する訳だ。
この時、蛇足的にアルジュンが口にするマノージ・クマール主演・監督「Purab Aur Pachhim(東と西)」(1970)は、愛国的な作品を監督してはヒットを飛ばした、現代で言えばアーミル・カーンのようなスターである彼が、洪水に悩む遅れたインドから時代の先端を行くロンドンへ渡り、このテムズ川沿いで当時のヒッピー相手にインドの深遠な精神文化を説いた注目作で、西洋文化に染まったヒロイン、サイラー・バヌーを正道に目覚めさせるストーリー。

(c)Blockbuster Movie Entertainers, 2007.
脚本はメリハリがあって出来がよく、続いて英印対抗のラグビー練習試合となる。
ジャズと観客席で傍観していたアルジュンが急遽、インド/パキスタンの混合チームに加わり、大学時代にチャンピオンだったというチャーリーの旧宗主国チームをぶっちぎりで負かすのだ。
(夕食の席で、チャーリーの負けっぷりを思い出し笑いするスケッチは何度観ても可笑しい)
いささか英国へのコンプレックスが強く出過ぎな嫌いがあるが、アルジュンはひたすら男(インド人)としての懐の深さを示し、ジャズことジャスミートがほだされてゆく。
サポーティングは、父親マンモーハン役にリシ・カプール(ランビール・カプールの父)。往年のロマンス・スターとして中年期も押しまくり、「Karobaar(愛の取引)」(2000)などでもジュヒー・チャーウラー相手に恋のヒーローを演じていたのが痛々しくもあったが、「Hum Tum(僕と君)」(2005)あたりから父親役にシフト。
その後も「Delhi-6」デリー6(2009)、「Love Aaj Kal(ラヴ今昔)」(2009)、「Patiala House」(2011)など出ずっぱりフィルモグラフィを伸ばしている。

(c)Blockbuster Movie Entertainers, 2007.
デビュー作「36 China Town」(2006)、「Shakalala Boom Boom」(2007)等、ヒンディーが出来ないため毎回アテレコで声が違うのが玉に瑕。
本作では英国人の恋人を持ち、相手の家族から「娘と付き合うならイマニエルと改名せよ」と迫られ、パキスタンのバック・ボーンを断ち切ろうと思い悩む役どころ。
その父親がロンドンのしがないタクシー運転手パルヴェーズ役のジャーヴェード・シェイク。パキスタン映画界で長年活躍した俳優兼監督で、シャーヒド・カプール主演「Shikhar(頂点)」(2005)でボリウッドに進出。
本作では「国境にかけるスクリーン」に書いた通り、経済開放が進むに連れて失われて行った厳しい父親像を演じる。
このように印パの友情が描かれているのは頼もしい限りだが、それだけ在英パキスタン人がボリウッド市場での大きなターゲットになっていることが判る。
(英国市場を意識したキャスティングとしては、ジャズの母親に英TV/映画界で活躍し、英国ソープドラマ・アワードで最優秀道化賞を受賞したこともあるニナー・ワディアを起用)
また、ジャズの恋人チャーリー・ブラウンに英TV「ロビン・フッド/シーズン3」のクライヴ・スタンデン、イムラーンの恋人スーザンに英「レズビアン・ヴァンパイア・キラーズ(未)」のティファニー・マルヘエロンが出演。
監督のヴィープル・アムルトラール・シャーは演劇出身でアッキー出演「Aankhen(目)」(2002)で監督デビュー(妻は「Gandhi My Father」のシェファリー・シャー)。その後もほぼアッキーと組み、プロデュース作「Singh is Kinng」(2008)がメガヒットとなるが、監督の手腕としては波が多く、「Waqt(時)」(2005)、「London Dreams」(2009)、「Action Replay」(2010)等は並み。
きめ細やかな演出が見られる本作と「Aankhen」は、まさしく彼の代表作と言えよう。
<カワリー(=カッワーリー/カウワーリー)の帝王>ヌスラット・ファテー・アリー・ハーンの後継者ラーハト・ファテー・アリー・ハーンをフィーチャリングした「main jahaan rahaan」はオープニング・タイトル・ナンバルのビートフルなミックス・バージョンも心に迫る。
ヒメーシュの楽曲をバックスコアにアレンジしたサリーム-スレイマンも本作の作品世界を広げることに成功している。