Prarambh(2004)#278
「Prarambh(始まり)」★★★☆
プラーレーブ
製作:ナイーム・シッディークィー/原作:故シュリー・ジャヤンティ・ダラール/脚本・監督:クマール・A・ダヴェー/撮影:プラシャン・ジャイン/作詞:アンワル・サーガル/音楽:ミリンド・サーガル/背景音楽:サンジャイ・チョウドリー/アクション:アッバース・アリー・ムガル/衣装デザイン:ミセス・シャハーナー/美術:ラシード・ラングレーズ/編集:バルー・サルージャー
出演:ヴィジャイ・ラーズ、ガウリー・カルニク、サンジャイ・ガーンディー、アニル・ヤーダウ、ムケーシュ・バット、ブペーシュ、ラヴィ・カレー、アヌープ・カラン、ヴィジャイ・グプター
ナレーター:ゴーガ・カプール
公開日:2004年8月13日(日本未公開)83分
STORY
ボールー(ヴィジャイ)は、さる寺院の参道で乞食を生業にしている冴えない男。これまでそこそこ商売安泰で過ごして来たものの、ある日、<強敵>が現れる。日がな一日、道端に寝ている子連れの乞食チャンキー(ガウリー・カルニク)であった。そこでボールーは…。
Revie-U
本作も「Revati」(2005)と同じく、バブリーなゼロ年代にあってインドの底辺を見つめたマイナー佳作。
原作は、<ソーシャル・ライター>として知られるグジャラーティー作家、故ジャヤンティ・M・ダラールの短編で、小粒感がほどよくにじみ出て作品世界とマッチしている。
主演は、「モンスーン・ウェディング」Monsoon Wedding(2001)の哀愁漂うウェディング・プランナー役で注目を集め、東京国際映画祭「Hari Om」ハリ・オーム(2004)、大阪ヨーロッパ映画祭「Tandoori Love」タンドリーラブ〜コックの恋(スイス=2008)など日本上映も多いヴィジャイ・ラーズ。翁(能面)を思わせる味わい深い顔つきながら細身の長身も相まって、どこか初期の頼りない松田優作を彷彿とさせる。
本作で披露する自らの地声プレイバックもよい。
そのヴィジャイ扮するボールー、下町の参道で行き交う人から施しを乞うビカーリー(乞食)で身を立てる。と言っても、そこはインド。社会から隔絶された世捨て人ではなく、底辺ながらしっかり社会に組み込まれており、夕方には<仕事>を終え、傍らの露天商に小銭を引き取らせて<両替>として機能。スラムに帰宅すれば、近所の子供にビスケットを忘れない心優しき男。
そんなボールーの前に現れるのが、子連れの女乞食チャンキー。炎天下にレンタルの子供を泣かせては、自分は一日俯せで寝ているばかり。それでも人々は憐れんで小銭を投げ落とし、ボールーの稼ぎは限りなく低くなる。
当然、ボールーは商売仇を追いやろうとするが、いつしか彼女に興味を持ち、やがて恋が芽生えることとなる。
ヒロインとなるチャンキーを演ずるは、「Sur」(2002)でScreen Awards 新人女優賞にノミネートされたこともあるガウリー・カルニク。
配役されるだけあって野性味あふれるルックスの持ち主で、冴えないヴィジャイとのケミストリーも良好。
監督は「ラガーン」Lagaan(2001)の脚本家クマール・A・ダヴェー。アーシュトーシュ・ゴーワリカルとは、彼の役者時代からの仲。
しかしながら、同じく「ラガーン」の助監督を務めたアプールヴァ・ラーキアが、アビシェーク・バッチャン主演「Mumbai Se Aaya Mera Dost(ムンバイーからやって来た友人)」(2003)で監督デビューし、「Shootout at Lokhandwala」(2007)など大作を手がけるようになったのとは大違いで、本作以降めだった活動がないのが残念。
ナレーターは、「Dostana(友情)」(1980)などアミターブ・バッチャン主演作などの脇役を務めたゴーガ・カプールを起用。
ほんのりとした味わいは、バンゴーリー(ベンガル語)文学のナレンドラナート・ミトラーによる短編を映画化したアミターブ主演「Saudagar(商人)」(1973)に通じ、貧しくもたくましく生きてきたふたりが手をとりあって農村へと旅立つ様は、ラージ・カプール監督・主演「Shree 420(詐欺師)」(1955)のエンディングを思い出させる。
ゼロ年代はバブリーな上昇氣流にあったインドだが、10年代に入ると古き良き姿を振り返る傾向が出て来る。その後のボールーとチャンキーの物語を、再びヴィジャイ主演で見てみたいものだ。