Anjaana Anjaani(2010)#276
アンジャーナー、アンジャーニー
製作:サジード・ナディアドワーラー/脚本・台詞・監督:シッダールタ・アナン(=アーナンド)/原案・衣装デザイン:マムター・アナン(=アーナンド)/脚本:アドヴァイター・カーラー/撮影監督:ラヴィ・K・チャンドラン/作詞:クマール、イルシャード・カミル、ニーレーシュ・ミスラー、コォーシャル・ムニル、ヴィシャール・ダドラーニー、シェーカル・ラヴジアーニー、アンヴィター・ダット、アミターブ・バッターチャルヤー/音楽:ヴィシャール&シェーカル/振付:アフメド・カーン/背景音楽:サリーム-スレイマン/プロダクション・デザイン:シャルミスター・ローイ/衣装デザイン:マニーシュ・マルホートラ)/VFX:プライム・フォーカス/編集:ラメーシュワル・S・バガット
出演:ランビール・カプール、プリヤンカー・チョープラー、プージャー・クマール、ヴィシャール・マルホートラ、スチェーター・カンナー
特別出演:ザイード・カーン
公開日:2010年10月1日(年間9位/日本未公開)
STORY
NYの証券マン、アーカーシュ(ランビール)は市場の読みを誤って1200万ドルの大穴を開けてしまう。絶望に陥った彼はワシントン・ブリッジから飛び込み自殺を試みようとするが、酔っぱらいで自殺願望のあるキアラ(プリヤンカー)と出会ったばかりに運命がさらに狂い、彼女の63年型フォード・ファルコン・コンバーチブルでヴェガスへと向かうが…。

(c)Nadiadwala Grandson Entertainment, 2010.
Revie-U
日本では「草食系」という言葉が流行って久しいが、本作の主人公アーカーシュもまさしくその類。さらに童貞だったりする。
演ずるは、父親リシ・カプール譲りの才能を武器にめきめきとその真価を発揮し続け、若手ナンバル1の名演を見せるランビール・カプール。非マッチョに見えて、それなりに筋肉をつけているのがボリウッド・スターとしてのたしなみだ。

(c)Nadiadwala Grandson Entertainment, 2010.
一方、最愛の幼馴染みとの間に拭えぬ過去を築いてしまったリストカッター、キアラに扮するのが、演技派女優として大きく花開いたプリヤンカー・チョープラー。心に傷を持ちながら、天真爛漫に振る舞う彼女の愛らしさは120%。
あの生命力あふれた「インド映画」の登場人物と異なり、自殺願望を持つ主人公とはいかにもアメリカ的だが、これがアメリカ映画ならボーダーレス症候群になるのだろうが、キアラの人物設定はそれほどぶっ飛んではいない。
橋の上からの飛び降り自殺に失敗したふたりは、互いに歩き出すも間もなく病院に担ぎ込まれる。懲りずに病院を抜け出し、トライベッカにあるキアラのロフトへ転がり込んではガス自殺を画策。しかし、料金未納でガスが止められていて…といった具合で犬猿の仲のふたりが珍道中を繰り広げる。

(c)Nadiadwala Grandson Entertainment, 2010.
タイトルにある「Anjaana」はサブタイトル(字幕)によると「stranger」となっていて「見知らぬ者」の男性形と女性形から「見知らぬ者同士」といった意味合いになるが、「Anjaana」は「知らずに/無意識」という本来の意味があり、ふたりは知らずして、無意識のうちに想いが深まってゆくのだった。
これまで「Mujhse Shaadi Karogi(結婚しようよ)」(2004)、「Jaan-E-Mann(我が命~愛する人よ)」(2006)、「Heyy Babyy」(2007)、「Housefull」(2010)など娯楽の王道作を手がけてきた製作者のサジード・ナディアドワーラーにしてはシリアス・タッチ。これからもボリウッドの転換期が感じられる。
監督は「Hum Tum(僕と君)」(2004)の脚本からスタートし、「Salaam Namaste」(2005)でサイーフ・アリー・カーンをトップ・スターに押し上げたシッダールタ・アナン(=アーナンド)。「Bachna Ae Haseeno(可愛い娘チャン、ご用心)」(2008)に続くランビールとのコンビ作となる。
スタイルとしてはインド映画の必然性がまったくなし、ということを逆にコンセプトとした「Salaam Namaste」を押し進めた系統となる。
「Band Baaja Baaraat(花婿行列狂騒楽団)」(2010)にも通ずるカップルだけにフォーカスした10年代の<トレンディー映画>で、9割方はランビールとプリヤンカーだけのふたり芝居が続く上、アーカーシュのキャラクターも家族から切り離された孤独の身。
すでに経済開放から20年となるインドだけに、これも当然の潮流と言えようか。
キアラの幼馴染みにして結婚相手のクナール役が、特別出演のザイード・カーン。デビュー間もない「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)の青臭さも陰り、どこか憂いを秘めた(売れないため?)風合いが備わって、キアラとの再会シーンで見せる表情などなかなか味が出て来ており、頼もしくも思う。
ほとんど助演の出番がない本作にあって、印象を残すのがアーカーシュの同僚の妻役のスチェーター・カンナー。「Yamla Pagla Deewana(阿呆に馬鹿に恋狂い)」(2011)のパンジャービー娘を先取りしたような、天然インド人の天真爛漫さが妙にマサーラー的に懐かしく、力を落としたアーカーシュならずともやすらぐはず。
いわゆるボリウッド・ダンス・ナンバルは軽快で耳に覚えのよいタイトルソング「anjaana anjaani ki kahani(見知らぬ者同士の物語)」だけと言えるが、ラーハト・ファテー・アリー・ハーンをフィーチャルした「aas pass hai khuda(神は傍らに)」、ラッキー・アリーのロック・チューン「hairat hai hairat hai」、さらにシルパー・ラーオの物憂げな歌声が心に響く「anjaana anjaani hai magar(見知らぬ同士よ、だけど)」など、どれも上出来で、オトナの鑑賞に堪えられるのがいかにもボリウッドらしい。
音楽監督デュオのヴィシャール&シェーカルは、これまでヴィシャール・ダドラーニーがソロのプレイバック・シンガーとしてシャンカル-イフサーン-ローイなどの他作品にも招かれていたが、本作ではシェーカル・ラヴジアーニーもプレイバックと作詞を手がけている。

(c)Nadiadwala Grandson Entertainment, 2010.
ニューヨークで時間を決めて再会するのは、「Mann(想い)」(1999)の原版である米「めぐり逢い」を思い出させる。
この時、キアラがガーグラー(インド服のスカート)の裾を持ち上げながら走り行く姿からインドの心が託されているように思える。
それまでインド文化らしい描写は少なく、キリスト教の教会で祈り場面などどっぷりウェスターン・スタイルに染まったかのように、無宗教の一般日本人からすると見てしまいがちになるだろうが、多くの化身を持つヒンドゥーなら<祈り>の姿に自身の信仰を想い重ねることだろう。