Raaz(2002)#019
Raaz(神秘) 02.08.10 ★★★
ラーズ
製作:ムケーシュ・バット/監督:ヴィクラム・バット/脚本:マヘーシュ・バット/台詞:ギリーシュ・ダミジャ/音楽:ナディーム-シュラワーン/詞:サミール/撮影:プラヴィーン・バット/編集:アミット・サクセーナー/美術:ガッパ・チャクラワルティー/アクション:アッバース・アリー・ムーグル/振付:ガネーシュ・アチャルヤー、ロリーポップ、ボスコー-セアサル
出演:ディノ・モレア、ビパーシャー・バス、マリーニー・シャルマー、シュルティー・ウルファト、アマン・デーサーイー、ヴィシュワジート・プラダーン、アリー・アスガル、マスード・アクタル、アーシュトーシュ・ラーナー
ゲスト出演:ミンク
公開日:2002年2月1日(上半期トップ1→年間トップ2ヒット!/日本未公開)
STORY
ビジネスに傾倒する夫アディティヤ(ディノ)に嫌氣がさしたサンジェナー(ビパーシャー)は接待パーティーを飛び出すが、運転中に彼女の名を呼ぶ女の声を聞き、事故を起こしてしまう。一命を取り留めたサンジェナーはアディティヤの懇願を受け入れ、やり直すことに同意。彼女の希望で思い出の場所ウーティーへ向かう。しかし、別荘でサンジェナーはポルターガイスト現象に悩まされ、遂には事件の真相を知る・・・。
Revie-U *真相に触れています。
今まで不思議に思っていたのは、あれだけ神話と妄想が好きなインドにあって、いわゆるSF・オカルト・ファンタジー映画がない、ということだ。
もちろん、D級・F級、そしてZ級の映画界ではSFホラーめいたヘンテコ・エログロ映画が捨てるほど作られているが、ボリウッド・メジャーではまず考えられない(注:レビュー当時)。シャー・ルク・カーンがマッド・サイエンティストに扮したり(昔はサイコなストーカーを演じていたが・・・)、リティク・ローシャンがインド宇宙軍の任務で銀河を飛び出しエイリアンの女性と恋に落ちたりはしない(アナウンスされている新作にはE.T.が登場する企画があるというが・・・/注:「Koi..Mil Gaya」のこと)
インド人は現実の世界こそ幻影と認識しているから、わざわざ「マトリックス」(1999=米)のような映画を作る必要がないのだろう。
ところが、本年2月にリリースされ、「Aankhen(盲点)」(2002)や「Company(カンパニー)」(2002)などの話題作を尻目に半年間もトップ1ヒットの座を死守した本作が、インドでウケないはずのオカルト・ホラーだったのだ!
オープニング早々、ヨーロッパの湿った高原を思わせるウーティーでキャンプする女子大生が森に迷い込み、何者かに襲われる。スティーブン・キングさながらに古めいた屋敷で書き物をするアグニ教授(注:名前の意味は「火」。儀式に重用される)が病院に呼ばれると、女子大生は縛りつけられたベッドの上で荒れ狂い、再生スピードを落とした男の声で呪詛めいた言葉を吐き捨てるのだった。
そして、サンジェナーが別荘に残ると、立て掛けてあったスコップが何度も倒れたり、不審な電話が鳴ったり、シャンデリアから大量の血が流れ落ちたり、といったポルターガイスト現象が次々と発生。彼女は友人のプレアとともにアグニ教授を訪ね、例の森に出かけて事件の鍵を握る拳銃を発見する・・・。
ラジュー・ラーオのスコアは、まさにハリウッド・ホラーそのまま。プラヴィーン・バットの撮影は、ウーティーとスイスの違和感を感じさせず、ロスコー(注:スモーク・マシンの有名メーカー/インドでは単に大量のお香を使ったりする)立ち込める森のセットではワイヤーワークも導入され、本格ホラーを目指した意欲がそこかしこに感じられる。
しかし、SFXメイクを怠って、超常現象の多くが「ホーンティング」(1999=米)同様、デジタル処理されているため質感が薄いのが残念だ。
昨年、デッリーを中心にモンキーマンやベアーマンなどの都市伝説が流行し、市民を恐怖のどん底に陥れた。このニュースは日本にも伝えられたので、ご存知の人もいるだろう。
都市伝説発生の背景には経済成長による生活様式の急激な変化があげられ、日本でもバブル前夜に口裂け女などが猛威をふるった。つまり、インドもようやくホラー映画がヒットする下地が整ったのか・・・という推測が成り立つが、どうもこれは早合点であった。
というのも、オカルト・ホラー映画としては大して怖くないのである! では、大ヒットの要因は??
ヒロインのビパーシャー・バスは、「Ajnabee(見知らぬ隣人)」(2001)でFilmfare Awards 新人女優賞を受賞し、今、最も注目される若手女優である。
アディティヤに扮するディノ・モレアは、その名の通り父親がイタリア人、母親がインド人のハーフで、やはり男性トップモデル出身。
本人は映画スターを夢見ていたというが、演技力は低く、デビュー作「Pyaar Mein Kabhi Kabhi」(1999)ではダブル・デビューのリンキー・カンナーが(コネあってか)3th LUX ZEE CINE AWARDS で新人賞を獲得するも、ディノは黙殺。続く「Kandukondain Kandukondain」(タミル語=2000)でも、大した評価を得ることはなかった。
本作でもパッとせず、どちらかと言うと「Mohabbatein(いくつもの愛)」(2000)のウダイ・チョープラーの方がまだ押しがある。
このディノ扮するアディティヤは、経済解放された1990年代に育ち、夫婦の会話もほとんど英語という「新世代」だ。
そして、 第3幕において、アディティヤの口から語られる「真相」に登場するのが怨霊となるマーリニー(演じるマーリニー・シャルマーも人気モデルであり、本作の主演3人がトップモデル出身なのだった)。
彼女は新婚早々ながら別荘に一人で滞在していたアディティヤを誘惑、ふたりは愛欲に浸り続けるが、やがてアディティヤに捨てられそうになり、彼女は拳銃自殺する・・・。
白昼堂々現れては欲望剥き出しに求愛するマーリニー、そして人目をはばからず彼女に耽溺するアディティヤ、この「大胆な」(注:インド基準)性描写が、経済開放以後に育ったインドの若い世代の空気感を素直に伝えているように思える。
しかもそれが、オカルト・ホラーというオブラードに包まれているため、そこまで大胆になれないウブな層も映画館に足を運びやすかったのではないだろうか(ホラーとして大したことない以上、他にヒットの要因が思い当たらない。実際には性描写に関しても以前稚拙なままなのだが)。
サポーティングは、アグニ教授に「Badal(雲)」(2000)のアーストーシュ・ラーナー。ポスト・アムリーシュ・プーリーらしく、本作でもミイラ取りがミイラならぬ悪魔祓いが悪魔憑きに、と期待通りの変貌を見せる!
サンジェナーの友人プレアにはマニーシャー・コイララ似のシュルティー・ウルファト、その兄アジェイに「Gupt(秘密)」(1997)のヴィシュワジート・プラダーン、アディティヤの父に「Na Tum Jaano Na Hum」(2002)のアナン・デーサーイーがキャスティングされている。
オープニングで取り憑かれる女子大生は特別出演のミンクであるが、そのボーイフレンドが「Khal Nayak(悪役)」(1993)のアリー・アスガルというのはちょっとムリがあるのではないか??
マヘーシュ・バットの脚本は、「ホワット・ライズ・ビニース」(2000=米)を下敷きにしていると言われ、単なる痴話喧嘩が真相というのが肩透かしである。怨霊伝説といったもう少し大掛かりな仕掛けが欲しかった。
もっとも、監督のヴィクラム・バットは、そんな評価は一向に氣にしないハリウッド物イタダキ専門監督。勢いづいて本年4月にリティク&アミーシャー・パテールの「Aap Mujhe Achch Lagne Lage」(2002)を、6月にアクシャイ・クマール主演で「Awara Pagal Deewana」(2002)を連続リリース! それぞれ上半期トップ8&トップ6になっており、マネーメイキング・ディレクターぶりに得意満面であろう。
しかしながら、ヴァンピッシュなビパーシャーが生かされてるとは言えない。マーリニーもなかなか妖艶で、儚いサイコな女を見事に演じているが、逆のキャスティングでもよかったのではないかと思う。
なお、アルカー・ヤーグニクの歌声が悩ましいフィルミーソング「aapke pyaar mein」も佳い。
(2002.09.16 追記)
本作の大ヒットに気を良くしたムケーシュ・バットがビパーシャーとディノ共演第2弾を製作。タイトルは「Gunaah」で、ビパーシャーが婦人警官、ディノが消防士という役柄。果たして、夢ヨもう一度となるか??
(2010.08.31 追記)
「Gunaah(悪)」(2002)は37位とフロップながら、ディノの存在感はまるで別人。台詞がほとんどない中、芝居の表情がぐんと上達して惹きつけられる。制服姿のビパーシャーは、これまたフェロモン爆発(残念ながらダビング=アテレコ)。トップ女優とまで成長しなかったのが、実に惜しい。