Qayamat(2003)#022
出演:アジャイ・デーヴガン、スニール・シェッティー、サンジャイ・カプール、アルバーズ・カーン、イーシャー・コーッピカル、リヤ・セーン、チャンキー・パーンディー、アユーブ・カーン、アーシーシュ・チョードリー、ネーハー・ドゥピア、クルブーシャン・カールバンダー、アンジャン・スリワスターワ、ゴーヴィンド・ナームデーオー、デープ・ディロン
公開日:2003年7月11日(年間トップ9ヒット!/日本未公開)
STORY
CDC研究所から化学兵器を盗み出したテロリスト、アリー(アルバーズ)、アッバース(サンジャイ)、ララ(イーシャー)の三兄妹がムンバイー沖に浮かぶエレフェンストーン監獄島を占拠。CBIオフィサーのアクラーム(スニール)は、科学者ラホール(アーシーシュ)と元テロリストのラチェット(アジャイ)を引き連れ、監獄島に潜入するが・・・。
Revie-U
言わずと知れた「ザ・ロック」(1996=米)の翻案。CBI(中央捜査局)オフィサーであるスニール・シェッティーの役割が大きいので、ニコラス・ケイジ扮するグッドスピードのキャラがスニールと科学者ラホール・グプタに分けられているのかと思ってしまったが、スニールは「エグゼクティブ・デシジョン」(1996=米)のスティーブン・セガールよろしく監獄島上陸後、シャワー場に相当する銃撃戦で早くも散ってしまうサプライズ出演。これにはインドの観客もびっくりだろう。
ミサイルで武装して監獄島に篭るテロリストは、なんとサンジャイ・カプールとアルバーズ・カーン! 「Chhupa Rustam(大勇者)」(2000)と「Hello Brother(ハロー・ブラザー)」(1999)を見ても判る通り、冴えない愚弟俳優(サンジャイはアニル・カプールの、アルバーズはサルマーン・カーンの)をふたり合わせても、効果は2倍のマイナス(苦笑)。
普通ならクールに見えるはずのロングコートも衣装そのまま「ちょっと着てみました」といった程度で、拳銃を上に向けて撃つ芝居さえダサ過ぎて失笑。とても頭脳明晰な科学者とコンピュータ技師には見えない。まさに「破滅」的キャスティング! 無論、「ザ・ロック」で、戦死した無名兵士を憂う義憤から止むにやまれずテロ行為に走ったエド・ハリス扮するハメルの葛藤には、ほど遠い。
映像的に凝ったラスト・バトルにしても見れば見るほどアルバーズは絵にならず、これでは末弟ソハイル・カーンが自分でも主演を張れると思って役者デビューしてしまうのもムリはない。もっとも「Darna Mana Hai」(2003)ではサンジャイと共演…。
そのサンジャイも、はしゃぎ過ぎが一目瞭然ではあるものの、なぜかブレイク?! 「Shakti:The power(シャクティ)」(2002)と「Kal
Ho Naa Ho(たとえ明日は来なくても)」(2003)でシャー・ルク・カーンと、「L.O.C.Kargil(L.O.C.カールギル)」(2003)でアジャイらとマルチスター共演を果たし、オファーも続々??
クレジットではトップ・ビリングのアジャイ・デーヴガンが出て来ないなあ、と思った頃、ショーン・コネリーの役柄が残っていたことに氣づく。それも投獄され、顔が隠れるほど伸び放題の髪に拘束服と「ザ・ロック」そのまま。しかし、グランジ・スタイルさえ格好良く見える銀髪コネリーの渋さが狙いだったマイケル・ベイの演出からは、大いに的外れな単なる陰気男。水木しげるの漫画に出て来る妖怪と言っても通用しそうなナリでがっくり。
登場後、ヘリで移送されるしんみりナンバー「woh ladki bahut yad」から追憶ナンバー「dil chura liya」に入るや幽閉以前の短い髪で登場してしまうので、その後の散髪シーンは意味なし。コネリー扮するメイソンの、高級ホテルのバルコニーを用意させる英国紳士の粋さは微塵もなく、単に薄汚い事務所の片隅でただ髪を切られるだけ。無論、ハマーとフェラーリのチェイス、シスコ名物ケーブルカーの吹っ飛びが見物だった、予算のかかる逃亡シーンはなし!
しかも、アジャイ役が回想する相手役(後述)は、単なる小娘にしか見えないのが難点。この回想シーン中、「ミッション:インポッシブル」(1996=米)&「エントラップメント」(1999=米・英・独)を真似たアジャイの侵入シーンあり。
ただ、ここしばらく「Company(カンパニー)」(2002)、「Deewangee」(2002)など演技派で売っていたアジャイの全身アクションを久々に見られるのがうれしい! もっとも、スーパーヒーロー過ぎるのが、やや興醒めではあるが。
悪のヒロイン、ララに扮するは、「Fiza(フィザ)」(2000)、「Company」のイーシャー・コーッピカル。スリットが腰まで入った黒のロングドレスで登場し、隠し持った小型拳銃でバシバシ射殺しまくる。肝心の芝居の方は、ダサい愚弟コンビに同調してしまっているのが辛い。掴みのダンス・ナンバー「qayamat」では、リズムにギリギリ乗り切れず、編集でカバーされている。まあ、「ダンス・カンパニー」(2004=米)のネーヴ・キャンベルも似たようなものだったが。品のない台詞も辞さない根性は買うものの、今後、ロマンス物のヒロインなどめぐって来ないだろう。と思ったら、アムリター・アローラ(アルバーズの義妹!)と愛し合う同性愛映画「Girlfriend」(2004)に出演!
監獄島を見学中、幽閉されてしまうヒロイン、シータルを演じるは、リヤー・セーン。小奇麗だが、すぐにヒスるのは本人の氣性か? 「今晩、家に誰もいないの…」とラホールを誘う妄想欲情ナンバー「yaar pyar ho gaya」では、露出度の高い服を脱ぎながらの猫足バス・タブ入浴シーンあり。さすが往年のセクシー女優ムーン・ムーン・セーンの愛娘。リップ・オフした革ジャンにタトゥーというワイルドないでたちのラホールが、実はヒロインの妄想というのがいかにも今どき。
アジャイの恋人サプナー役となるネーハー・ドゥピアは、これがボリウッド・デビュー作。一応、本作のファースト・ヒロインということになるのだが、リヤー同様、表情に乏しく、華がないのは致命的。しかも洋顔なのでインド映画を観ている氣分にならない。その後、テルグ映画界に流れたが「Julie」(2004)ではサンジャイと再共演、「Rakht」(2004)とアナウンスされている「Phir Hera Pheri」ではスニールとの共演が続く。
3人のヒロインはどれもモデルっぽく、芝居は月並み。3人共、ワイヤーワークや爆炎シーンを吹き替えなしでやっているので、熱演ということになるのか?! インド映画慣れしていない人は、3人の区別がつかないかも(もっとも、ボリウッドずれしまうと、日本の若いタレントの顔が見分けられなくなるが…)。
ラホール役のアーシーシュ・チョードリーは、ラホール・デーウ、アルジュン・ラームパールに続く、モデル俳優。顔が長いところが、ニコラス・ケイジと同じ? 恋人シータルが監獄島に人質となってしまう工夫が為されているものの(対岸に残るヒロインとしては、サプナーがいるため)、オリジナルそのままに用意された坑道トロッコ・チェイスの後、「偶然」シータルを救出したことに。そんなゴタゴタの中、ラチェットにラホールが「ボクの彼女のシータルです」と紹介するのが可笑しい。この後、ラホールはギャグ度を増すのだが、トップモデルのくせにリヤーとの絡みナンバー「yaar pyar ho gaya」がパッとせず、どちらかというと軽喜劇向き?
本作では新人扱いのアーシーシュながら、「Chalo America(アメリカへ行こう)」(1999)でデビュー済み。イーシャーとは「Girlfriend」でも共演している。
サポーティングは、研究所から毒ガスを盗む出す裏切り研究者ゴーパルに「Kasam(誓い)」(2001)のチャンキー・パーンディー。飄々としたキャラクターは故山田康雄を彷彿とさせるが、今となっては「ビッグ・ヒット」(1998=米)のエリオット・グールド?
CBI長官クラーナーに、「Lagaan」ラガーン(2001)のクルブーシャン・カールバンダー。チーフ・ミニスター役に「Tumko
Na Bhool Paayenge」(2002)のアンジャン・スリワスターワ。裏切りホーム・ミニスター役に「Kachche Dhaage(不完全な鎖)」(1999)のゴーヴィンド・ナームデーオー。今回は三者とも深刻な表情をするばかりで、余り見せ場がないのが残念。
そして、テロ三兄妹の仲間に、「Dil Chahta Hai(心が望んでる)」(2001)のアユーブ・カーン。パーキスターン軍の悪役ブリガディール・ラシードは、深い声が売りのデープ・ディロンをフィーチャル。
サウンドトラックCDは、「デスペラード」(1995=米)、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(1996=米)などを氣取ってアジャイやスニールの台詞入り(サンジャイ&アルバーズもあり!!)。
「dil chura liya」のカヴィター・クリシュナムールティーは声が上ずっているのが残念。回想中のリゾート・ナンバー「woh ladhi bahut」は、クマール・サーヌーのムーディーな低音が佳い。意外に古風なメロディーが耳に残る。シャーンとマハーラクシュミーをフィーチャルした「mera dil dil tu lete」もなかなか軽快。ただし、「aitibaar nahi karna」のサーダナ・サルガムは、声色が硬く、プレイバックを当てられたネーハのオーバー・ウェットな芝居も伴って痛々しい。
さて、この監督ハリー・バヱージャ。どこかで聞いた名だな、と思えば、なんと「Mujhe Meri Biwi Se Bachao(私を妻から救って!)」(2001)の監督ではないか! 「殺したい女」(1986=米)から「ザ・ロック」とは!!
しかし、「チャリ・エン」風ワイヤーワーク格闘とAVIDノンリニア可変スピード編集にはいささか食傷気味。クライマックス、ミサイルの標的にされたムンバイーの人々が我先に逃げ出そうとするのは「MMBSB」を思い出して笑ってしまう(もっとも、低予算だった「MMBSB」の方が迫力あり)。単なるコピーでなく、ラストに仰天クライマックス?を付け足してくれたゆえに、「MMBSB」はオリジナルを凌駕していたが、今回はその点では満足できない。
化学兵器の緑玉からして「ザ・ロック」そのまま。監獄島の内部はセット。明るめのライティングが陳腐。ガスの被害にあった死体のSFXメイクも台無しだ。
CGIのジェット戦闘機は「ザ・ロック」も金門橋下を潜るショットがVFXだったから許容であるものの、公海上?にある軍艦をミサイル攻撃! これは、一警察官が領海侵犯してしまう「バッド・ボーイズ2バッド」(2003=米)以上!?
オープニングにしても、パーキスターンの軍事収容所で強制労働させられた囚人たちに化学兵器を混入した水を飲ませての生態実験というもので、なにしろドアタマのショットが水に溶けゆくグリーンの化学兵器がパーキスターン国旗に二重写し。中盤も、パーキスターン軍の悪役ラシードがグリーンに彩られたインド亜大陸型ケーキを、まずはカシミールから切り取って食べるシーンさえあり、これだけ露骨にパーキスターンを「ならず者国家」扱いしてよいのだろうか、と心配したくなるのだが、そんな勢い余った演出が好まれたのか、年間トップ9ヒットというから驚きである!
追記 2010.08.31
今となっては、妙に懐かしい破滅映画。出演者たちが今も生き残っていることが嬉しく思えるほど。
まず、本作でファースト・ヒロインを演じたネーハー・ドゥピア。当時はダビング(アテレコ)のため、芝居が余計に酷く思えたものだが、現在では<小粒映画の女王>というべきポジションを確立。演技や存在感も上々で、特に「Dasvidaniya(10のさよなら)」(2008)におけるゲスト出演では、彼女のナチュラルな演技が心を打つ。
ネーハーとオーバーラップする細面のイーシャー・コーッピカルは、「DON」(2006)でシャー・ルク・カーンの恋人役に昇格! といってもサブ・キャラクターのひとりに過ぎず、ヒロインとは言えない。やはり本作の後、「Girlfriend」などに出演したのが祟ったか。もっとも「Kyaa Kool Hai Hum(オレたち苦ールじゃん?)」(2005)で見せた野暮な女警官役は絶品。ダンスも上達し、「DON」では時にヒロインのプリヤンカー・チョープラーを凌ぐステップを見せていた。ヒロイン女優には乗り切れなかったが、2009年11月、縁あってご成婚。
シータルを演じたリヤー・セーンも、その後に出演した「Tum…Ho Na!(君が…!)」(2005)のジャンキー女など低迷し早々に消えるかに思えて、2008年頃からオファーが増え、2009年には4本公開。「Krrish 2」に敵役の恋人として名前が挙がりながらクランクインが伸び伸びになっている状態。ぜひ、ひと花、完全に咲かせて欲しいところ。
さて、男優勢であるが、ラーフルを演じたアーシーシュ・チョードリー。苦み走った劇画顔がシリアス過ぎのため、逆にコメディで個性を発揮。ネーハーと組んだ「Rama Rama Kya Hai Dramaa(ラーマ! ラーマ! なんてドラーマー!)」(2008)や「Daddy Cool」(2009)などが収穫。アンサンブル・キャストに需要を見出しそう。
そして、本作のレベルを引き下げまくっていたアルバーズ・カーンとサンジャイ・カプール。共に主演作品は皆無。ただ、アルバーズは演技に深みが出て来て、「Shootout at Lokhandwala」(2007)の抑揚など実に佳い。
サンジャイの方は万年B級感が拭い切れず、「Luck by Chance」(2009)では「売れない役者から監督に転向」という設定を知ってか知らずか出演。多分、本人的には氣のいい奴なのだろう。
こうして破滅的な映画に出演していた彼らが、なんとかそれぞれ生き延びているところを見ると、2012年の人類滅亡説もなんとなくハズレて、人類はそこそこ前向きに生きてゆけるんではなかろうか、と思わせてくれる。