Shool(1999)#261
「Shool(槍)」★★★★☆ 01.04.27 改稿
シュール
製作・原案・脚本:ラーム・ゴーパル・ヴァルマー/製作:ニティン・マンモーハン/原案・脚本・監督:E・ニワス/台詞:アヌラーグ・カシャップ/撮影:ハリ・ナーヤル/作詞:サミール/音楽:シャンカル,イフサーン,ローイ/背景音楽:サンディープ・チョウター/振付:アーメド・カーン/美術:クリシュナ/アクション:アミン・ガニー/編集:バノダーヤー
出演:マノージ・バージパイ、ラヴィーナー・タンダン、ベビー・アヴィー、サヤージ・シンディー、ヴィニート・クマール、ガネーシュ・ヤーダウ、ヴィレンドラ・サクセーナ、ヤシュパル・シャルマー、プラティマー・カーズミー、ヴァラブ・ヴヤス、ラージパル・ヤーダウ
特別出演:シルパー・シェッティー
公開日:1999年11月5日(日本未公開)
National Film Awards:ヒンディー映画賞(E・ニワス)
Filmfare Awards:批評家選主演男優賞(マノージ・バージパイ)
Screen Awards:敵役賞(サヤージ・シンディー)
STORY
熱血警官のサマル(マノージ)は、妻マンジャリー(ラヴィーナー)と娘ソーヌー(ベビー・アヴィー)を連れ、ビハール州モティハリへ赴任する。しかし、その地は極悪政治家バッチュー(サヤージ)が牛耳る腐敗した町であった。サマルは、その槍のように一兎な正義感故、バッチューの反感を買い、娘を、妻を失い、ついに怒りを爆発させる…。
Revie-U
腐敗した地方へ赴任した警官が正義を通す余り、暴力に晒される。その緊迫感は米「わらの犬」を、家族を失い復讐へと暴走する警官としては豪「マッド・マックス」を思い出す。だが、これは単なる復讐映画ではない。
主演は、東京国際映画祭でも上映された「Satya」サティヤ(1998)でギャングスターを演じたマノージ・バージパイ。一転、まさしく槍のように直情的な正義感に扮する。口髭を蓄え、託された運命に果敢に挑む様が実に熱い。
その妻は、90年代に粗製濫造されたマサーラー映画で高飛車なお嬢様ヒロインを演じ続けたラヴィーナー・タンダン。化繊の安物サーリーを纏う薄幸なローワー・ミドル・クラスの妻役はこれが始めてだったというが、DVを扱った「Daman(制裁)」(2001)など役柄を広げつつ、間もなく引退となった。
そして何より本作を引き締めるのが、敵役バッチュー・ヤーダウに起用されたサヤージ・シンディー。飄々とフィルミー・ソングを口遊んでは、突発的に残虐行為を働く。その豹変ぶりは子飼いの男たちも畏怖するほど。
本作以降、同じくマノージ主演「Gaath(殺人)」(2000)、そのリメイクであるヴィヴェーク・オベローイ主演「Dum(強靱)」(2003)、アジャイ・デーヴガン主演「Gangaajal(ガンガーの聖水)」(2003)など腐敗に立ち向かう警官物が増え、そのひとつのピークとして、政治家が暴動を扇動しその暴力の安全装置としての警察がムサルマーン(イスラーム教徒)住民の虐殺を傍観者としてサポートした実態に迫ったアミターブ・バッチャン主演「Dev」(2004)を経て、娯楽色の強いサルマーン・カーン主演「Dabangg(大胆不敵)」(2010)へと至る。
サポーティングは、モティハリ駅のぼったくり赤帽にラージパル・ヤーダウ。
バッチューの右腕ラッランに、「Welcome to Sajjanpur」ようこそ、サッジャンプルへ(2008)のヤシュパル・シャルマー。
バッチューの妻に「Devdas」(2002)、「Chandni Bar」(2001)の嫌み女役アナンヤー・カール。
バッチューの母に「Mumbai Express」(2005)、「Bunty Aur Babli(バンティとバブリー)」(2005)のプラティマー・カーズミー。
サーマルの父に「Road,Movie」ロード、ムービー(2009)、「Bichhoo(サソリ)」(2000)のヴィレンドラ・サクセーナ。
サーマルの同僚ティワリに「Kachche Dhaage(不完全な鎖)」(1999)のヴィニート・クマール。
バッチュー子飼いの警官フセインにサヤージと共演も多い、ガネーシュ・ヤーダウ。
サーマルの上官でバッチューとズブズブの関係にあるDSPに、シュリー・ヴァラブ・ヴヤス。
そして、宴会シーンで登場する踊り子にシルパー・シェッティーをフィーチャル。シルパーの持ち歌として南アフリカで開催されたステージ・ショーでもこの曲を披露。
「Satya」にてインドにはびこるアンダーワールドを描いた新鋭の映画監督ラーム・ゴーパル・ヴァルマー(RGV)が製作。
監督のE・ニワスは手堅い演出で、デビュー作ながらNational Film Awards ヒンディー映画賞を受賞。この後、マノージ主演「Ghaath」のリメイクである「Dum」でも同じく熱血警官(警察学校生)を描いているが、こちらはアクション映画としての範疇に入る。
台詞は、ニューストリームの旗手として大成することとなる「Dev.D」(2009)のアヌラーグ・カシャップが担当。生活感あふれる台詞、クライマックスでの心情を発露する科白が秀逸。
音楽は、音楽監督トリオを結成して間もないシャンカル-イフサーン-ローイ(SEL)。同年の「Bhopal Express」(1999)では三人ともフルネームでのクレジットであったが、本作ではファーストネームをカンマ(,)でつないでの表記。
ニューウェーブの暴力映画ながら、愛娘ソーヌーが歌う出す家庭内ミュージカル「aaya mere papa ko」では父の制服を着込んで行進する場面でマーチに転調するなど、先行で作詞と楽曲、振付が練られていることが解る。
また、シルパーを起用したアイテム・ナンバル「main aai hoon」のドメスティックなハイテンション・サウンドは、ゼロ年代におけるスタイルを確立させたポップなサウンドとは異なるところなど、トリオ結成当初らしいチャレンジング。
米「Getaway」調のメローな楽曲はともかく、サンディープ・チョウターによる重厚なバックスコアも佳い。
クライマックスは、制服に身を包んだサーマルが審議中の議事堂へと乗り込み、宿敵バッチュー・ヤーダウを射殺。地元の議員でもありながら、自ら殺人も辞さないバッチューの設定は、戦後のどさくさ時期ならいざ知らず、悪徳政治家の汚れ仕事は暴力装置が引き受ける構図となっている日本からするといささかオーバー・アクティングに思えるだろうが、543名の国会議員中、殺人容疑者が84名に及んだというレポートもあるインドのこと。これがリアルな姿と言えよう。