Phool Aur Kaante(1991)#033
Phool Aur Kaante(花と棘)/1991 06.10.09 ★★★
プール・オール・カーンテー
製作:ディニーシュ・パテール/監督:クク・コーフリー/脚本:イクバル・ドゥルラーニー/撮影:トーマス・A・ザヴィエル/作詞:サミール、ラーニー・マリック/音楽:ナディーム-シュラワン/振付:サロージ・カーン、ラグラーム、スレーシュ・バット/アクション:ヴィール・デーヴガン/美術:スニール・スィン/編集:スレーシュ・チャトゥールヴェード/音響:J・P・セーガル
出演:アジャイ・デーヴガン(新人)、マドゥー・ラグナート、アルフ・カーン、ジャグデープ、アルナー・イラーニー、サティヤン・カップー、ラーザ・ムラード、アムリーシュ・プリー
助演: スレーシュ・チャトワル、ブラーフマチャーリー、ダン・ダノア、ガンシャヤム、アプラジーター、ラージャー・ドゥッガル、ヴィシャール・カーン、ティラク・ラージ、シャブナム、ラヴィ・ディディー、ラーム・サクレ、マジョール・R・C・ナンド、アショーク・スィン、トニー・シャーム、ラーナー・ジャン・バハドゥール、プラヴィーン、サリーム・カーン、プールニマー、プラカーシュ・ラトード、ニティン・ワディア、アンクシュ、アントニー、アヌラーダー、ニルマーラー、デーヴェンドラ・ランダワ、ジャイ・スィン、マヘンドラ・シャルマー
ゲスト出演:アンジャナー・ムンターズ、ゴーガ・カプール、イクバル・ドゥルラーニー
公開日:1991年11月22日(日本未公開)
STORY
学園のヒーロー、アジェイ(アジャイ)は、新入生のプージャー(マドゥー)に一目惚れ。恋に落ちたふたりは結婚するが、アジェイがアンダーワールドのドン、ナゲーシュワール(アムリーシュ)と敵対して・・・。
Revie-U *結末には触れていません。
アジャイ・デーヴガンのデビュー作であるが、役名もアジェイそのまま(劇中ではアジェイと発音)。デビュー作では、本人の認知度を高めるため、芸名を役名にすることが多い。
前半は、いわゆる学園物。瀟洒とは言い難い(あるいはベタな)キャンパス風景が綴られた後、2台のバイクにまたがった伝説の「股割り乗り」でアジェイが登場!
はじめは2台で並走するバイクのシート後部に直立して女学生たちに投げキッスしているが、分離帯に差しかかるとバイクがやや離れる。するとアジェイはそのまま180度の股割りとなり、それでも余裕でキャンパス内を疾走させるのだ!
「他人と同じことをやっていたらダメ」というのは大陸育ちに多い発想だが、やはりデビュー作としてはこれくらいインパクトがなくては! 父親であるアクション監督ヴィール・デーヴガンの下で幼少の頃からみっちりトレーニングを受けて来たことを存分に見せつける実証的ショットといえよう! 他には、ウールドゥワ・ダヌラ・アーサナ(アーチのポーズ)で銃弾を除けつつ撃ち返すなど、一朝一夕では真似できない若きアジェイのアクションが惜しげもなく用意されていて楽しめる(JAC時代の真田広之を彷彿!?)。このへんは筋肉をつけるだけで済ませている、昨今の新人諸君にも見習っていただきたいところである。
ちなみに、この夏、あまりのバカバカしさに英国週間チャート・トップ8に喰い込んだ「Golmaal」(2006)でも、アジャイは同じく女性ライダー2名の運転する2台のスーパーバイクに跨がって仁王立ちしている。
本作はもちろん、ヴィールーがアクションを担当、兄のアニル・デーヴガンも助監督で参加。
ちょっとドキッとするのが、夜道を走るアジェイのジープがドシュマン(敵)に細工され、ブレーキが利かなくなって暴走するエピソード。なんと、路上の傍らで寝ているストリート・チルドレンの列に突っ込みそうになるのだ! これをハイ・ウイングという片輪走行でクリアするのだけど、そこには本当に子供たちを寝かせているのが実にインド的。今となっては、某スターの人身事故を連想して、ちょっとスリリング(苦笑)。
もうひとつ、氣になるのが、アジェイに叩きのめされる金持ちのドラ息子がロッキーという役名であること。この男、グンダーらとつきあっていて、キャンパス内でドラッグ取引をしていたりするのだが、これって「Rocky」(1981)でデビューして、その後、ドラッグ漬けとなって米国の更生施設へ入っていた某スターへの当てつけか?(苦笑)
このロッキーが叩きのめされると、大物スポンサーである父親が学長のところへ乗り込み、「アジェイを退学させないと、10ラーク引き上げる」と息巻く。そこへ、ポンと小切手の束を投げ出し、低いダミ声でその場を制するのが故アムリーシュ・プリー! その渋さは圧巻!
まだ「DDLJ」(1995)以前の敵役全盛期とあって、自ら殺人も厭わないアンダーワールドのドン役。ただし、身よりのないアジェイの父親であることが後半、明かされる(アジェイは、母と自分を見捨てた父親を恨み続けており、前半、ふたりの謎めいた確執が描かれている)。
この後、アジェイとアムリーシュの父子物となるのだが、こうして観ると本作はアジャイのデビュー作というだけでなく、アムリーシュの父親役者への転換作と位置づけることが出来よう。
また、アジェイとアムリーシュの父子物としては「G.air(除け者)」(1999)が思い出される。
ミーナー・クマーリーの瞳、マドゥーバーラーの微笑み、シュリーデーヴィーの肉体、ジャヤープラーダーの振る舞い、レーカーの鮮烈さ、マードゥリー・ディクシトの名声をすべて合わせたヒロインとして紹介されるプージャー役は、「Roja」(1992)でアラヴィンドスワーミーの妻役だったマドゥー。驕慢な顔つきに黒のドレスと網タイツのスタイルからして、とても女子大生には見えないのが難点。
この時期はタミル映画ばかり出演していたが、吹き替え版の「Roja」が北インドでもヒットして以降、ヒンディー作品の本数も増えたものの、スターとしては認知されず終いであった。
ところで、本作のキャンパス・シーンには教授と熟女教授の妙なロマンス?があったり、授業で「愛」について出題されたりと、どことなく「KKHH」(1998)めいてるのが興味深い。まさか、カラン・ジョハールが本作からインスパイアしたわけではあるまいが??
中盤、ふたりはシャーディー・ナンバル「dheele dheele pyaar ke」(クマール/アルカー)中で結婚。この曲の間で生まれる子供が誘拐されて、先の父子の確執が炙り出される展開となる。
アジャイとマドゥーは熱いキス・シーンがあるのだが、よく見れば、接しているのは唇の下であるのが微笑ましい。
もうひとつの熱々ナンバー「I love you〜dil ye kehta hai」(ウディット/アリーシャー)における「I love you〜♪」というメロは、シュリーデヴィー主演「Mr.India」(1987)の悩殺ナンバー「kaante nahin katte(棘でなく短剣)」からのリサイクル。
校舎の屋上から自殺をはかろうとしてヒロインの氣を惹こうとするのは「炎」Sholay(1975)、「Tezaab(酸)」(1988)、最近では「Kyon Ki…(なぜならば・・)」(2005)でも見られたボリウッドの常道的求愛といえよう。
サポーティングは、カレッジの学長に「Mann(想い)」(1999)のサティヤン・カップー。
コメディリリーフの教授役が「Lajja(恥)」(1975)のジャグデープと「Beta(息子)」(1992)のアルナー・イラーニー。
学園の小間使いに、「Chori Chori Chupke Chupke(そっとこっそり)」(2001)でプリティー・ズィンターにビンタを喰らっていたエレベーターワーラー役のガンシャーム。
アジャイが激突したことから彼の仲間に入る巨漢の学友がサリーム・カーン。トリプルLサイズながら、バイクで手放しの上、シートに寝そべってみせる。身体だけでなく心臓もデカイ! アジャイとは親しいらしく、「G.air」や「Kachche Dhaage(不完全な鎖)」(1999)、「Hindustan Ki Kasam(インドの誓い)」(1999)などにもその巨漢を見せている。
ナゲーシュワールに敵対するグンダー、シャンカル役は「Gupt(秘密)」(1997)のラーザ・ムラード。その強烈な低音がひと際印象深く、ラージ・カプール監督作品「Ram Teri Ganga Maili(恋のガンガー)」(1985)など大きな役を得ていたものの、年々ランクが落ちてゆき、近年は「Tarzan Ki Beti(ターザンの娘)」(2002)のようなZ級映画にも出演する境遇が涙を誘う。
不良学生ロッキーの父親ティワリ役に「Karobaar」(2000)のスレーシュ・チャトワル。ラーザ同様、近年はマイナー作品の端役者に甘んじているが、「Mili(ミリー)」(1975)ではジャヤー・バードゥリー(バッチャン)の兄役として重用されていて、アルナーとのロマンス・シーンもあったのだが。
監督のクク・コーフリーは、本作からアジェイ3部作を発表。その後はゴーヴィンダ「Anari No.1(おバカさんNo.1)」(1999)やアクシャイ・クマール「Zulmi」(1999)などがあるが、大成せず。その演出はマサーラー平均点に留まる。ヴィールーの功績なのか、前半におけるシャワールームの格闘など目を見張るシークエンスもあるものの、後半、誘拐された赤ん坊の奪回ではやたらに赤ん坊が放り投げられるなど、現代日本の視点からするとかなり目くじらを立てられそう。
故アムリーシュ・ジーの重演も手伝って、冷酷なアンダーワールドのドンにも息子を思う氣持ちがひしひしと伝わるB級アクション作であった。