逆レビュー(3)ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル
ボリウッド的見地から非インド映画を鋭くレビュー。不定期連載の第3弾は現在上映中の「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」を逆レビュー!
file.3 「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」(2011)
監督:ブラッド・バード
原作:ブルース・ゲラー/脚本:ジョシュ・アッペルバウム、アンドレ・ネメック
製作・出演:トム・クルーズ/出演:ジェレミー・レナー、サイモン・ベッグ、ポーラ・パットン、アニル・カプール
STORY
ロシアの刑務所に服役していたイーサン(トム)はIMF(米国極秘諜報機関)の仲間によって救出されたものの、刑務所の爆破テロ犯として指名手配され…。
逆Revie-U
シャー・ルク・カーン主演「Don」シリーズの向こうを張った?トム・クルーズ製作・主演「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」を、アニル・カプールの出演シーン見たさに鑑賞。
まずオープニング・スケッチは、よくあるスパイ映画のパターン。これを陳腐と言う事なかれ。往年のスパイ映画への敬愛と見るべきで、ラロ・シフリン作曲のメインタイトルもモダンジャズに回帰。
当初、オリジナルとはいかにイメージを別モノにするか腐心して来た本シリーズだが、本作ではTV版の「スパイ大作戦」を見ていたクチをくすぐるスケッチが盛り込まれているのが嬉しい(例の公衆電話から「なお、この録音は自動的に消滅する」といって煙モクモク出る演出等)。
監督のブラッド・バードは「ザ・シンプソンズ」や、シャー・ルクがヒンディー版のダビング(吹き替え)を担当した「Mr.インクレディブル」等のアニメ畑出身。まあ、シリーズ1などはあからさまに「ルパン三世」だったので、頷けるオファーと言えよう。
さて、問題のアニルだが、トレーラー(予告篇)で流れているトム・クルーズが例によってビルに張り付いているエピソードがドバイとあって、ここに登場するかと思っていたら、さにあらず。
せっかくボリウッドでお馴染みのドバイ・ロケを堪能し、アニルの登場場面で「Welcome」(2007)におけるアッキーやらナーナー・パーテーカルのドタバタぶりを妄想してニヤニヤしようと思っていたのに…。
このビルの場面に世界一高いというブルジュ・ハリファを使っている事もあって、かつてドバイのシンボルと誇ったバージ・アル・ドバイなどは登場しない。というよりドバイの街並みそのものが、ある理由からあまり描き込まれていないのだ。
その空中場面だが、たいていの遠景ショットがCGIであるのと同様にワイヤー・ハーネスをデジタル処理で消していると解ってしまっている以上、ほとんどスリルを感じない。
むしろ、続く取引場面などデジタル抜きの古典的な演出こそが映画の原点と再認識させられる。
脚本の描き込みもあるのだろうが、ブラッド・バードの演出は超人的なスーパースパイでなく主人公イーサン・ハントのキャラクターに躊躇や迷いを含ませ深みを与えている。これらはシリーズ3のエピソードを引き継いだ流れも大きいだろう。
そうそう、アニルの登場場面だが、終盤前にムンバイーの新興大富豪というおまけ的なキャラクターであった。役名「ナス(Nath)」は米語読みで、ヒンディーでは「ナート」となる。
巨大な宮殿で豪勢なパーティーをやっている、という設定であるからして、ここはボリウッド・スターのカメオが20人くらいあったよさそうなものだが、それどころか肝心のダンス・ナンバルもなく、ボリウッド的には実に<退屈な>パーティーと言えよう。
一応、踊り子(大して上手くない)たちがお立ち台の上で躍っていて、ドレミ~にあたるインド音楽のサレガマを用いた変な拍子のスコアが用意されているが、これは「ブラックレイン」における大阪のクラブMIYAKO場面に坂本龍一が提供したナンバルへのしきたりと言える(これを受けてA・R・ラフマーンがシャー・ルク主演「One 2 Ka 4」に伝説ナンバル「osaka muraiya」を書き上げた)。
ボリウッドでは2~3ヵ国のアウトドア(海外)・ロケもさして珍しくないが、本作も<低予算>の中、プラハ、モスクワ、ドバイ、ムンバイーと国際的に舞台を移し、スケール感を大きく見せる事に成功している。
ここで<低予算>映画としたのは、本来ならスケール感を出すにはあと数百億ドル必要だった訳で、ここ数年くトム・クルーズ危機説が流れていたから予算集めも大変だったのだろう。
そういう点では「Phir Bhi Dil Hai Hindustani(それでも心はインド人)」(2000)のフロップから自主製作の歴史物「Asoka」(2001)で予算が通常作品と同等しか集まられなかったシャー・ルクのケースに似ている。
本作も一見、大仕掛けに思えるが、ストーリー展開はイーサンら仲間の周辺がほとんどで、ノルマンディー上陸作戦を描いた低予算米画「最前線物語」と同じ手法を取り成果をあげている(プラハ、ドバイ等、遠景はCGIで済ませ、街頭ロケは極力減らされている)。
もっとも、スペクタクルとして見せたかったCGIの<砂嵐>は、実際の巨大津波映像を生中継で体感した日本人の目からすると、デジタルなお遊びにしか見えない。
その事はトムや本作の中心スタッフも重々承知のようで、意外にもドラマ作りをしっかりさせていて好感が持てる。
特にエンディングで描く本物の愛情は心に迫るものがある。
お知らせ:2012年1月14日(土)、日印パ国交60周年に合わせた記念企画「ボリウッド講座@早稲田」+ナマステ・ボリウッド新年オフ会を行います。くわしくは、こちらのページをご覧下さい。
www.facebook.com/namastebollywoodjapan
図書カード編集部直送で送料無料中!