逆レビュー(2)ブラザー・サン、シスター・ムーン
ボリウッド的見地から非インド映画を鋭くレビュー。不定期連載の第2弾は70年代に作られた聖フランチェスコの伝記映画「ブラザー・サン、シスター・ムーン」を逆レビュー!
file.2 「ブラザー・サン、シスター・ムーン」Brother Sun, Sister Moon(1972)
監督:フランコ・ゼフィレッリ
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、ケネス・ロス、リナ・ウェルトミューラー
出演:グレアム・フォークナー、ジュディ・バウカー、リー・ローソン、アレック・ギネス
STORY
裕福な商人の息子フランチェスコ(グレアム・フォークナー)は、仲間と戦場に赴くも悲惨な現実を目の当たりにし、逃げ戻ってくる。何日も熱病にうなされる中、恍惚となり、小鳥の姿から無垢なる魂の在りように目覚める。人々は彼の氣がふれたと思うが、美しく純粋な美少女クレア(ジュディ・バウカー)と交流するうちに次第に強い信仰へ歩み出す。
Revie-U
「ロミオとジュリエット」の監督によるアッシジの聖フランチェスコを描いた名作。
徹底した自然主義で描かれる映画世界は、まさに中世イタリアに飛び込んだかのよう。
しかしながら、風光明媚な田園風景や見渡すばかりの草原と山々、コンピレーション・サントラCDの制作装置と化している現在の洋画と違ってドノヴァンによる全編書き下ろしのテーマに沿ったサウンド作り、シリアスな芝居の中に中世の教会システムや商人の浅ましい生き方を揶揄するためフランチェスコの父親役などコミックリリーフとも呼べる道化芝居を用意しているのもボリウッドに通ずる。
そればかりか、細部まで手の込んだ衣装の数々は、まさにシャー・ルク・カーン製作・主演「Paheli(謎めいた人)」(2005)。石積みの古い塔から屋根伝いに小鳥を追うスケッチがまた「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)を連想される。
こうなると配役も脳内で妄想版ボリウッドに自動変換してしまう。
フランチェスコを演じるグレアム・フォークナーは、やはりイタリア系のディノ・モレアを彷彿とさせる美形だが、ボリウッドでリメイクするとすれば、デビュー直後のシャーヒド・カプールがよろしい。
彼を慕い、真に愛らしい存在そのものが神の創造物を思わせるヒロイン、クレア役はこれまた結婚前の初々しいアイーシャー・タキアそのもの。
彼に従って出家したものの、女性への想いを断ち切れずひとり苦悩する鼻のでかいジオコンド役など、サイーフ・アリー・カーンにうってつけ。
フランチェスコの活動を認可したローマ教皇のインノケンティウス3世をアレックス・ギネスが演じているが、ボリウッド版なら当然、ナスィールディン・シャーを特別出演させるところだろう。
滑稽な父親はボーマン・イラーニーが適役だが、オーム・プリー、アヌパム・ケールでももちろん可。目鼻の整った憂いを漂わす美しい母親役は、往年の名女優ヌータン(カジョールの母タヌージャーの姉)をインドが誇るITで復活させて欲しい。
監督は、耽美的かつ深遠なテーマを得意とするサンジャイ・リーラー・バンサーリーの出番だろう。
クライマックスは、フランチェスコが修道会の活動を求め、ローマに教皇を訪ねるエピソード。
腐敗と硬直したシステムの上に祭り上げられた教皇自身がフランチェスコの中に神を見出し、その足下にひれ伏す様は、インドで年長者に敬愛を表する儀礼プラナームに等しい。