国境にかけるスクリーン vol.3 – Sarfarosh
ちょうど10年前あたり、セパレーション(分離独立)50周年記念を謳って、印パ問題を題材にした映画が北インドのボリウッド(ヒンディー/ウルドゥー映画界)でしばしば作られるようになった。おおむね、パキスタンを悪者に仕立てた作風が多かったが、やはりそこは元同胞だけあって、印パを双子に見立てた作品も見受けられ、彼らが抱く両者の姿が感じられたものである。今回取り上げる「Sarfarosh(命がけ)」(1999)では、その役をガザル(ウルドゥー恋哀歌)が担っており、同じ文化を共有する離れ難い結びつきと、同時に根の深さを描きあげている。
印パに深く根づく「歌」の文化
「Sarfarosh」(レビュー)/1999
シンジケートはAK-47などの武器をラクダ隊商によって砂漠を越えて運び、ムンバイーのアンダーワールド(マフィア)を通して、インド国内の分離主義テロリストに供給する。裏で糸を引いているのは、この時期の定番敵役ISI(パキスタン軍情報部)だが、シンジケートにはヒンドゥーも絡んでいる。
この親玉となるのが、ISIから送り込まれたナスィールッディン。パキスタン国境に程近い彼のハーヴェリーを訪れたアーミルを一夜の客としてもてなす。素性が判明しながらも「友人だから」と、ナスィールッディンは寝首を掻くようなことはしない。
その彼が悪事に手を染めるようになったのは、英領インドに生まれ、分離独立により新しい祖国を夢見てパキスタンへ渡るも「ムハージル」して差別され虐げられた背景がある。「独立して50年経つが、未だにムハージル(難民)扱いされ、パキスタン人にはなれない」という台詞が国家に翻弄された人々の哀れな姿を伝えている。
日本でもインド・レストランが増え、中にはパキスタン人経営の「インド」レストランでボリウッドのフィルミー・ソングをカラオケで歌う店もあり、パキスタン人、インド人が通い詰めている。そこには、国家の枠組みを超えて、歌を愛する文化がみてとれ、本来の人のつながりに氣付かされる。
*歌の吹き替えは、甘い歌声で誉れ高いジャグジット・スィング。彼自身も分離以前、印パ国境が引かれることとなる現ラージャースターン州ガンガーナガルに生まれる。
(すぎたカズト)
初出「パーキスターン No.215 2008/1」(財) 日本・パキスタン協会