国境にかけるスクリーン vol.9 – Mission Kashmir(2000)
独立闘争が激化しているカシミール。武装ゲリラは警官を治療した医者の家族を皆殺しにすると宣言。警察本部長イナヤット・ハーン(サンジャイ・ダット)の息子が2階から転落、奔走するも治療を行う医者はみつからず息子を失ってしまう。イナヤットは復讐のため、民家に潜伏していたゲリラ一味を襲撃し、皆殺しにする。唯一生き残った少年アルターフを息子の代わりに引き取るが、ある日、アルターフは自分の両親を殺した連中がイナヤット達であったことを知り、出奔。国境を越え、10年数後、復讐のゲリラとなって舞い戻る…。
印パに深く刻まれた愛憎は利用され、真の敵は見えない。
「アルターフ 復讐の名のもとに」Mission Kashmir/2000
昨年(2008年)11月末、世界的な不況(西洋型消費社会の躓き、とも言える)を嘲笑うかのように、ムンバイで同時多発テロが起きた。犯行にはパキスタン系過激派が背後に絡んでいるとも言われ、この10年、ボリウッド映画で使われた設定を地で行くようなテロ事件であった。
この「アルターフ」では、アフガニスタンなどでロシア兵を悩ませたパターン人の傭兵に出資し、「カシミール作戦」を仕掛けるのが、パキスタン軍とは無関係の(あるいは軍を手緩いと思う)、豊富な資金源を持つ聖戦組織となっている。
ゲリラの若き英雄アルターフを演じたリティク・ローシャンは、この年がデビュー。出演した3本の映画がメガヒットとなり、インド文化圏を熱狂の渦に巻き込み、ボリウッド・スターのトップに躍り出た。
その影響は意外な出来事を呼ぶ。ささいなことを理由にネパールで彼を糾弾するデモが起こるや、インドに反ネパール暴動が飛び火。国境が封鎖される事態にまで発展。この騒乱の陰にはISI(パキスタン情報部)が暗躍していた、とも報じられた。
なぜ、彼がスケープゴートに選ばれたのか? この年、リティクは「Fiza (フィザー)」(2000)という作品でも暴動に巻き込まれ、翻弄された人生の末、ゲリラに身を落とすムサルマーン(イスラーム教徒)青年を演じている。どちらの主人公もゲリラであることに悩み、終盤、「改心」してしまう。インド政府に対立を仕掛ける者からすれば、聖戦の反プロパガンダ映画とも受け取れたのだろう。
「アルターフ」では、作戦を指揮する傭兵が養父を憎むアルターフを捨て駒に使い、ヒンドゥー寺院とモスクを連続してミサイル攻撃し、インド国内でヒンドゥー/ムサルマーン衝突を起こそうとする。
映画が示唆する結末が妙に気掛かりだ。作戦の失敗を知ったスポンサー組織の幹部は部下を抹殺して作戦そのものを封印しようとするが、自分も消されてしまう。真の敵は、いつも見えない。
(ナマステ・ボリウッド発行人/すぎたカズト)
*カシミールは現地風、カシュミールは中央風のカタカナイズ。
初出「パーキスターン No.221 2009/1」(財) 日本・パキスタン協会