国境にかけるスクリーンvol.8 – Kaafila(2007)
ボリウッドにおいて、パーキスターンに友好的な作品が増えたが、数年前までは何かと敵役に据えた設定が目立ったものだ。印パ分離独立を扱い、インド映画最大のヒットとなった「Gadar(暴動)」(2001)などもそのひとつ。アムリトツァルの大虐殺から幕開け、新天地へ逃げ延びようとする家族からはぐれたヒロインを暴徒から守るため、スィクの主人公が行きがかり上、「妻」にする。が、何年も経って父がラーホールにいることが解り、訪ねるもインド帰国を阻まれる。業を煮やした主人公が越境し、理不尽な父親とパーキスターン軍を相手に戦うという物語。
昨日の敵は今日の友。印パ友好、それだけでは終わらない?
Kaafila(隊商)/2007
この主人公を演じたサニー・デーオール(往年のスター、ダルメンドラの長男)はこの時期、カシュミールを舞台に国境警備隊のヒーローを演じるなど、「インド愛国」を全面に打ち出した主演作でヒットを勝ち取った。
「Gadar」の監督と再び組んだ「The Hero」(2003)では、インド陸軍情報部のスーパーエージェント役で、敵役として<悪名高い>ISI(パーキスターン軍情報部)を翻弄する。
サニーの(演じる)愛国愛郷ぶりは、時にエスカレートし過ぎ、パンジャービーの素朴かつ滑稽な田舎警官がクリスチャンの国際テロリスト相手に米国で大暴れする「Jo Bole So Nihaal(讚え、祝福されよ)」(2005)など、スィク側からも抗議を受けたばかりか、デヘリーの劇場で爆破テロさえ起きたほど。
一転、彼の主演作で驚かされるのが「Kaafila(隊商)」(2007)だ。ヨーロッパに夢を託した出稼ぎ労働者たちが搾取に反発、追手を振り切って陸路でインドへと戻る、というストーリー。サニーは後半、いわば「逃がし屋」として登場する。アフガンを越え、パーキスターンへさしかかった時、一向は国境警備隊に捕まってしまう。が、ここでなんとサニーがパーキスターンの潜入警官だったことが明かされるのだ!
初の印パ同時公開という触れ込みの映画に、それまでインド愛国で売ったサニーを看板に据えるとは。ボリウッドの商魂たくましさには感服してしまうが、これもパーキスターン国内でのボリウッド浸透があってこそであろう。
もっとも開いた口が塞がらないのは、親パになった途端、最後の最後で裏切り者がバングラデーシュ人に設定されている点だろう(しかも「俺もパーキスターン人だ」と命乞いする)。この商売っ氣たっぷりのマイナー映画は、やはりインド人の観客からも支持されずに終わったのが救いであろう。
(ナマステ・ボリウッド発行人/すぎたカズト)
初出「パーキスターン No.220 2008/11」(財) 日本・パキスタン協会