国境にかけるスクリーンvol.7-Hey Ram!
時は印パ分離独立間際の英領インド。モヘンジョダロの遺跡発掘現場で働く考古学者ラーム(カマール・ハッサン)とアムジャード(シャー・ルフ)の下に作業中止命令が届く。
ふたりは、ヒンドゥー/ムサルマーン(イスラーム教徒)の違いはあれど、篤い友情を結び、印パ分離独立を望んでいなかった。
だが、帰還したラームは、かのカルカッタ(現コルカタ)大虐殺でムサルマーンの暴徒により妻を陵辱殺害され、拳銃を片手に復讐を始める。
やがて、ヒンドゥー原理主義の過激派へと身を寄せ、パーキスターン建国を許したガーンディー暗殺の命を受ける…。
ヒンドゥー/ムサルマーンを超える南アジア的友情
Hay Ram !(神よ)/2000
この夏から秋にかけて続々と主演作が上映されているキング・オブ・ボリウッド、シャー・ルフ・ハーン(ヒンディー読み:シャー・ルク・カーン)が初めてムサルマーン役を演じたのが、マハトマ・ガーンディー暗殺を扱った「Hey Ram !」(2000)である。
銃弾に倒れたガーンディー最後の言葉から、極右ヒンドゥー主義に走る主人公ラームを作り上げたのは、南インド・タミル映画界のトップスター、カマール・ハッサン。その彼がヒンディー映画界へ乗り込もうと製作・主演・脚本・監督を手がけた野心作に、箔を付けるべく選んだのがシャー・ルフ。通常なら出番からして特別出演となるところを、オープニング・タイトルバックでも彼の名を2番目に登場させる持ち上げよう。役柄に関しても、かのガーンディー暗殺を企む主人公を救う、言わば「おいしい」役。
印パ分離独立にあたって、英領インド内のヒンドゥー/ムサルマーンは血で血を洗う抗争を展開。裕福層は新天地パーキスターンへと渡り、移住を為し得なかった貧困層のムサルマーンがその後にヒンドゥー教徒から憎悪のツケを払わされたとされる。
本作でシャー・ルフ扮するアムジャードは、分離独立後もインド国内に好んで留まり、ガーンディーを讚え、インドそのものを愛するムサルマーンの鑑として描かれている。ヒンドゥー極右テロリストに身を落としたラームを、昔と何一つ変わらず、彼を親友として懐深く受け入れ、彼を信じ通し、ヒンドゥー暴徒からでさえ命を賭して守ろうとする。
「ジンナーの国、パーキスターンへ行け」と言い放つラームに、「ジンナーの娘は、自分の国はインドと思い、ここに戻った。私はガーンディーの息子だ。この国に留まる」と言わしめるこのアムジャードは、いささか見せ場が多過ぎるようにも思えるが、立場を超えても友情は不変とする、南アジア的心情が実に心地よい。
(ナマステ・ボリウッド発行人/すぎたカズト)
初出「パーキスターン No.219 2008/9」(財) 日本・パキスタン協会