Home » 国境にかけるスクリーン

国境にかけるスクリーン vol.1ーMain Hoon Na

2009.10.30

映画の中で描かれているパキスタンおよびイスラーム描写を毎回綴ってゆきます。今回は、南アジアに強い影響を与えているばかりか、在外人口の多い欧米、アフリカ周辺国、旧共産圏など今やハリ ウッド映画に追随する巨大なマーケットを持つ北インド映画のボリウッドから。使用する言語がヒンディー/ウルドゥー語とあって、英領インドより分離独立を果たしたパキスタン国内でも高い人氣を得ています。

ハーンからの提言
「Main Hoon Na(私がいるから)/2004
ひんでぃまさらコレクション:レビューを読む

1990年代以降、インド国内ではアヨーディヤー寺院事件も手伝ってヒンドゥー/ムスリム(イスラーム教徒)の対立を描いた 作品が頻繁に作られるようになり、なにかとパキスタンを敵とする安手の映画が目立つようになった。

そんな風潮にあって、「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)は、印パ陸軍が1971年の印パ戦争における捕虜交換を行なう和合計画 (Project Milaap)を推進し、これを<内側の>元インド陸軍のインド人テロリストが妨害するという設定になっている。

この作品は、ボリウッドのトップスターとして90年代より活躍するシャー・ ルーフ・ハーン(ヒン ディー読みだと、シャー・ルク・カーン)*が自らのプロダクションで製作、中国映画「ウインター・ソング」にも招かれ国際的にも高い評価を得ている振付師ファ ルハー・ハーン(ファラー・カーン)が満を持して初監督に臨み、印パ問題に家族愛やロマンスを挟み込んだインド娯楽映画の王道をゆく大作である。

シャー・ルーフとファルーハは、ヒット狙いの定番モティーフとされるヒンドゥー神話「ラーマーヤナ」を選んでいるが、離別した兄弟の再会劇は1997年 前後に流行した分離独立50周年映画が好んで使った印パのメタファーでもある。それだけでなく、敵役となるインド人テロリストの腹心で、リーダーの主張に 疑問を感じ、主人公に協力することとなる正しき男の役名が(通常ファーストネームとされる中で)<ハーン>(劇中はヒンディー式に「カーン」と発音)とさ れていることからも、これまでボリウッドを陰で支えてきたムスリム映画人の主張が見てとれよう。

この年、ボリウッドのヒットメーカーであり、(分離独立以前の)ラホール出身説もあるヤ シュ・チョープラー監督がシャー・ルーフを起用した「Veer Zaara(ヴィールとザーラー)」(2004)でも印パの国境に分断された愛の復縁が描かれていた。

このうねりは在外パキスタン人の視聴者を多く持つインドのTVネットワークがロンドンで開催したZee Cine Awardsにも及び、シャー・ルーフのパフォーマンス中、パキスタン人女優リマー・ハーンらがステージに上がり、両国の国旗が並んで翻るなど、銀幕の掛け橋は進んでいる。
(すぎたカズト)

追記:「ハーン」は、チンギス・ハーンの 「ハーン」と同じ出自を表す。

初出「パーキスターン No.213 2007/9」(財) 日本・パキスタン協会

<TIRAKITA>でDVDを購入する(ティラキタ日本語字幕対応)

関連する記事

タグ: , , ,