国境にかけるスクリーン vol.2ーNamastey London
2009.12.01
近年、ボリウッドではNRI(Non Resident Indian)市場を重視して製作される傾向にあったが、これには在外パキスタン人も大きく貢献している。2007年に公開された「Jhoom Barabar Jhoom(酔ってぐるぐる)」は人氣女優プリティー・ズィンター(「Veer Zaara」に続くパキスタン人役)扮するヒロインがNRP(在外パキスタン人)に設定されており、別の映画「Kaafilia(旅団)」ではこれまでインド愛国映画でヒットを放って来たサニー・デーオールがパキスタン人の警官ヒーローを演じる豹変ぶり。また、インド国内でスーパーヒットとなったシャー・ルーフ・ハーン(シャー・ルク・カーン)主演「Chak De! India」(2007)もスポーツ映画故に愛国描写が足を引っ張り、最大の在外市場イギリスでは同月公開のコメディ映画「Heyy Babyy」(2007)に比べ動員が半分に留まったことからもその影響が伺われよう。
インド映画を押す在外パキスタン人の存在
「Namastey London」/2007
ここ4~5年、ボリウッドにおいてパキスタン人アーティストの活躍が目立っているが、俳優ジャーヴェード・シェイフ(ヒンディー読みではシェイク)もその一人。ボリウッド入りした2005年のうち1本「Shikhar(頂上)」での役どころは、なんと<ヒンドゥー聖者>役。1980年代からパキスタン映画界で活躍し、製作・監督作も手懸けた映画人であるジャーヴェードの国境を越える意氣込みが見て取れるというものだ。
ジャーヴェードはその後「Jaan-E-Mann(心の命/愛しき人よ)」(2006)での成功した在外NRI役を経て、「Namastey London」(2007)において、ようやくNRPを演じることとなる。
この役は、NRIヒロインカトリーナー・ケイフの父リシ・カプールの親友役。共に異郷の地で長く暮らし、子供がイギリス人の恋人を持っていることに憂いを感じている。ジャーヴェードの息子ウペン・パテールは家出して恋人の屋敷に転がり込んだ上、ヒロインにインド人婚約者アクシャイ・クマールとの結婚を袖にするよう入れ知恵する。これに怒ったジャーヴェードが英国人に囲まれて誕生日を祝う息子のパーティーに乗り込み、「招かれていないが、父親としておまえにプレゼントを持って来た。受け取るがよい」と、鉄拳を差し出す。経済成長に伴いボリウッドでも若者に迎合した柔な父親像が当たり前となった昨今、強い父親像を打ち出すこのエピソードはジャーヴェードの存在を鮮やかに示し、印象深い。
また、リシとジャーヴェードが参加している印パ混合ラグビー・チームも共感を誘う。試合ともなれば、両頬にそれぞれの国旗を描いて臨むのだ。無論、対戦相手は旧宗主国の英国人チームである。
国家としては何かと対立が続く印パだが、遠く離れた異国では手を取り合う友人として描かれる姿が胸を打つ。
(すぎたカズト)
初出「パーキスターン No.214 2007/11」(財) 日本・パキスタン協会