カタックを語る。#06 Kisna(2005)
カタックを語る。
#06 クリシュナにちなんで~「Kisna」(2005)
(ナマステ・ボリウッド#08号/2007年10月号初出)
2002年の冬であったか、ICCR(インド文化交流評議会)主催で「KRSNA」と題し、数あるインド古典舞踊を代表する大御所アーティストがクリシュナとラーダーの物語をテーマに創作作品を披露する舞踊祭が催された。私の師匠であるパンデット・ビルジュ・マハラジ師はクリシュナ神を表す黄色、一番弟子のサスワティ・セーン女史はブルー(ラーダーの衣装の定番色)の衣装を身につけ、北インド独特の、密やかに美しい様式美の世界を創り上げていた。
映画「Kisna(キスナ)」*の作品中、鮮烈な印象を放つのが、インドのマドンナ、スシュミター・セーンのカタック・ナンバー「chilman uthegi nahin」である。舞姫達の中心で踊るのはスシュ演じるナジマ・ベガム。20世紀半ばにラクナウで多大な人気を博したベガムと思われる。現代風のナンバーからは、当時のアンニュイなカタック文化を偲ぶことはできないが、ボール(口唱歌)部分については古典の面影をみることができる。白亜の宮殿内に作られた碧と白のメイフィルも美しい。
ボリウッド・カタックは、ハスタ(手の所作)の動きは単調ではあるが、軽快で刺激的だ。圧巻は20数名での旋回。白と銀のスカートが一斉に翻る。難しいテクニックを用いなくても、全てのダンサーが一様に揃う振り付けだけで約6〜7分のダンスナンバーを魅せることができるのは、流石サロージ・カーンである。
*主人公キスナはクリシュナにちなんだ名前。
佐藤雅子/インド宮廷舞踊家。1995年渡印、インド人間国宝Pt.ビルジュ・マハラジ師に直接師事。師の許しを得て、2005年帰国。みやびカタックダンスアカデミーを設立し、2008年、東京都千代田区麹町に専用スタジオをオープン。古典のカタック・クラスの他、ボリウッド・カタック・クラスも併設中。