カタックを語る。#04 Bombay(1994)
カタックを語る。
#04 マニーシャーの想い出~「Bombay」(1994)
(ナマステ・ボリウッド#06号/2007年5月号初出)
1996年の夏。留学先のデリーで、私は鳥の音に目覚め、夕立の雨水で髪を洗い、土製の壷で冷やした水を飲んだ。ラジオから流れる美しいインド映画の曲を聴き、ルームメイトが「耳の聞こえない夫婦の子供が大歌手になるミュージカル*よ」と楽しげに囁く。かくしてインド映画を知らない私は映画館に連れて行かれ、薄暗いバルコニー席で初めて見るヒロインに息を飲んだ。何と清楚で美しいこと。彼女の名はマニーシャー・コイララ、ネパール出身のボリウッドスターであった。
聞くところによると、マニーシャーは、私達の下宿先から数件先の家に住んでいたらしい。カタックダンスを男性トップ・ダンサーのラム・モハン師に習っていたという。さもあらん。国立舞踊学校は、インドが誇る超エリート校NSD(国立演劇学校)と敷地を同じくする。多くの俳優がデビュー前にデリーでの生活を満喫しているのだ。
翌年、一時帰国した日本ではインド映画があちこちで上映されていた。マニーシャー主演「ボンベイ」Bombay(1994)もその中の一つであった。劇中、彼女が主人公に見初められるナンバー「kehna hi kya」で、南インドの女性達による民舞?に混じって北インド・テイストで踊るマニーシャーが可愛らしい。彼女が時折見せる旋回やハスタ(手)の動きは、まさにカタックダンスの基本の所作。ヒンドゥーとイスラームの融合を踊りによって見せたいという監督の技が冴える。
*「Khamoshi : The Musical(沈黙のミュージカル)」(1996)〜「Devdas」を作ったサンジャイ・リーラー・バンサーリーの監督デビュー作。サルマーン・カーン共演。
佐藤雅子/インド宮廷舞踊家。1995年渡印、インド人間国宝Pt.ビルジュ・マハラジ師に直接師事。師の許しを得て、2005年帰国。みやびカタックダンスアカデミーを設立し、2008年、東京都千代田区麹町に専用スタジオをオープン。古典のカタック・クラスの他、ボリウッド・カタック・クラスも併設中。
2010年12月18日、みやびカタックダンスアカデミー(MKD)×ナマステ・ボリウッド共催「X’mas印装パーティー」を銀座マハラジャにて開催します。MKDによるインド宮廷舞踊カタックやボリウッド・カタックなどの演舞と北インド料理のディナー、ボリウッド映画トークをお楽しみください。詳しくは、こちらのページにて。