それでも心はボリウッド! #01「Gauri」(1968)
それでも心はボリウッド!〜梵林心象風景
#01「Gauri(ガウリー)」(1968)
監督・脚本:A・ビムスィン
訳あって結婚をあきらめていたガウリー*に、縁あって婚約が成立する。挙式の最中、花嫁が盲目であると知ったサンジーヴは、憤慨して立ち去ってしまう。そんな彼を、無垢なる心を持った親友スニールが諭す。サンジーヴは妻の下へと戻り、彼女は手術を受ける。始めて目にするのは、夫の足下。
ヒンドゥーの女性にとって、夫は神に等しい存在。ガウリーは夫の足に触れ、敬意と祈りのプラナームを捧げようとするが、夫はそれをかわそうとする。
実は、サンジーヴは狩りへ出かけて事故に遭い死んだと思われ、彼女の自殺を防ぐために、恋人を持つスニールが行きがかり上、夫の<代役>を演じさせられていたのだった。彼は、神への篤い信仰から、そして兄弟愛とも言える友情から、これに苦悩する。
ある日、生き延びていた夫サンジーヴが姿を表す。事の成り行きを知った彼はまたも怒りを露わにするが、目が見えるようになった妻がいかに<夫>スニールを敬愛しているか知るや、<代役>の後押しさえする…。
やや見え透いた展開ながら、ガウリーに扮したヌータン*の風格と優雅さ、温かみあふれるスニール・ダット*、憂いを漂わせるサンジーヴ・クマール*のアンサンブルが観る者を惹きつける。
劇中、スニールが夫の<代役>となる背景にはヒンドゥーの古い慣習で妻の美徳とされている夫への殉死「サティー」*があり、サンジーヴが身を引こうとするのは神に認めてもらう結婚の儀式を途中で投げ出した負い目から。真相を知ったガウリーは、不貞を避けるために妻の鑑(かがみ)とされるサティー女神*に祈り、結果としてガンガー女神*が彼女を正しき夫の下へ送り届ける。
インド映画は、日本人のために作られてはいない。その上で、彼らの文脈に心を委ねる時、力強い感動が見えてくる。
(初出:2007年4月 ナマステ・ボリウッド5号掲載/KJR)
*ガウリー:シヴァ神の妻パールヴァティーの別名が由来。シャー・ルク・カーンの妻もガウリー。
*ヌータン:50〜60年代の人氣女優。カジョールの母タヌージャーの姉。息子はモーニーシュ・ベーヘル。
*スニール・ダット:サンジャイ・ダットの父。妻は「Shree 420(詐欺師)」(1955)のナルギス。「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)で父子共演。
*サンジーヴ・クマール:舞台出身の名優。代表作「Sholay」炎(1975)。
*サティー:夫の死に際し一緒に焼かれるのが妻の美徳とされる風習。しばしば相続殺人に発展。現在、法律では禁止されているが、後を絶たない。
*サティー女神:シヴァ神の妻、父はダクシャ神。夫と父の諍いを仲裁するために聖火に飛び込んだことから「殉死」の元に。後にシヴァの妻パールヴァティーに転生。
*ガンガー女神:ガンジス河(ガンガー)を象徴する浄化の女神でシヴァの妻。ガウリー女神の妹とされる。