インド映画はお祭りがいっぱい(4)ヒンドゥー結婚儀礼#2
早稲田大学でボリウッド映画を題材にインド学を研究している高橋 明氏による「ナマステ・ボリウッド」連載コラム。毎回、映画に登場するインドのお祭りを月1でアップしてゆきます。コラムと連動したボリウッド講座@早稲田大学も企画しています。次回、開講をお楽しみに。
4章 ヒンドゥーの結婚儀礼(2)/
花嫁は二日前から準備祭
(ナマステ・ボリウッド #18/2009,4月号)
タイトルロールの背景で結婚式の準備が進んでいる。広間では女たちが花嫁になる娘を囲んで歌を歌い終えたところだ。母屋の飾りつけは済んでいるが、庭では儀礼用と来客用の日よけ屋根の設営工事中。シュリーデーヴィー扮するチャンドニーが両親と到着。ここはデリーの親戚の家で、結婚する娘とは特に親しい間柄のようだ。お祖母さんとふざける場面、お祖母さんの手はすりおろしウコンでべたべた。娘を花嫁に仕立て上げていく儀礼第一弾、ウコンを塗りつけた娘の牛乳灌頂の準備中ということだろう。自室で休む娘はチャンドニーを見るや「二日前に来るなんてお客様みたい・・・水臭いわ」の挨拶。20年前、お金持ちで伝統を重んじる家ではこんな感じだった。それと、ヒンドゥーの結婚式は花嫁の家で行うのが基本と憶えよう。
「Chandni(チャンドニー)」(1989)の白眉、「mere hathon men nau nau churiyaan 〜両腕に九つのチュリー(ガラスの腕輪)をして」の踊りは、牛乳灌頂を終えて最初の盛装をした花嫁化途上の娘にさらなる自覚を促す儀礼の踊りだ。「仕立て屋さんと喧嘩してきたの・・・今朝作ったブラウスがもうきついんですもの」とサンスクリット古典、カーリダーサ作「シャクンタラー」以来の定型表現*を含む、「昨日の少女が妙齢の乙女に」の歌で踊るチャンドニー。親友の中で踊りのうまい娘が依頼される儀礼だ。場所は昼間作っていた日よけ屋根の広間、夜になっている。参加者は女ばかり、を確認してほしい。ここに闖入したリシ・カプールは罰が当たって(?)後半、試練を受けることに。それでもチャンドニーのこの世ならぬ美しさに、たまらず<禁男>の場に入ってしまう(よい子はまねをしないこと)のが愛の狂気であり、試練を乗り越えたのも甦った愛の力だ。
バラモン祭官が仕切る<結婚式>はまだ遠い。女たちが伝える家独自の儀礼は続く。「結婚式のことは女たちに聴け」と紀元前のバラモン教の聖典にもあるほどだ。
高橋 明(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
*太ったという意味でも縮んだという意味でもない。二つの胸のふくらみが数時間のうちに…ということだ。興味のある方は、カーリダーサ作、辻直四朗訳「シャクンタラー姫」(岩波文庫)第一幕を読んでみよう。すこし先まで読めば「Devdas」(2002)の参考になるところ、第三幕まで読み進めれば「Wanted」(2009)でニヤリとできる箇所もあるぞ。