インド映画はお祭りがいっぱい(2)ヒンドゥーの結婚儀礼part1
早稲田大学でボリウッド映画を題材にインド学を研究している高橋 明氏による「ナマステ・ボリウッド」連載コラム。毎回、映画に登場するインドのお祭りを月1でアップしてゆきます。リアル・ボリウッド講座も2010年10月16日(土)に開講!
2章 ヒンドゥーの結婚儀礼(1)
結びの火七回廻って婚儀成就
(ナマステ・ボリウッド #16/2008,12月号)
アメリカに渡り、車の設計技術者として成功したボビーは、プライベートでも寺院のおみくじ売り場で出会ったビパーシャー(後に社長の孫娘と判明)と婚約。幸いっぱいの彼に<父病気>の手紙が届く。即刻帰国した彼を待っていたのは、元気な父と、3年前不承不承結婚式を挙げてそのままの妻プリヤンカー。筒井筒の二人だが、遊学中に愛を見失ったボビー。それでも伝統的結婚式を挙げたのは、プリヤンカーのただ一人の肉親である祖母の懇願ゆえだった。「Barsaat(雨季・雨)」(2005)はインドの大地の上で、雨季の終わりの二ヶ月*に急展開していく。
離婚を迫られたプリヤンカーが何度も訴える<ヒンドゥーに離婚という言葉はない・・・タラークは外来語>は現実に重みのある言葉だ。ヒンドゥー教のサンスカール(伝統儀礼)としての結婚式は、祭火とそこに集まる神々とヴェーダ(ヒンドゥー教最古の聖典)の力で二人を生涯結ぶ儀礼だから、覆すことはほとんど不可能とされる。様々な儀礼が続くが、ヴェーダが唱えられるなか衣の端を結ばれた二人が手をつないで祭火の周りを7回廻る儀礼で完全に成就するとされ、事情・都合に係らず以後撤回はできない。彼らの結婚式はこの儀礼の直後に行われる、衣を結んだ状態での双方の親への挨拶を中心に描かれ、儀礼の成就を強調している。
カルワーチョゥト(妻が夫の健康を願って断食する祭り)の夜、離婚届に署名するプリヤンカー(空きっ腹に哀しみはきついぜ、ボビー!)。涙のディワリ(家族そろっての日なのに!)。事情を知らぬまま現れるビパーシャー。ボビーとビパーシャーの結婚式。祭火を2回廻ったところで事件が起こり、ビパーシャーを含む全ての者たちにある事を覚らせる。<7回廻る前ならキャンセル可>は鑑賞必携アイテム。憶えて<濃い映画>に挑戦しよう。
高橋 明(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
*ドゥルガー・プージャーの翌日帰省してディワリ半月後の満月まで。