ボリウッド・インタビュー(3)フェーローズ・A・カーン
ナマステ・ボリウッド創刊4周年を振り返って、これまで本誌で掲載したボリウッド映画人8名のインタビューを月1でアップしてゆきます。

Namaste Bollywood, 2007.
第20回東京国際映画祭コンペティション部門にインド映画の最新作として出品され、最優秀女優賞を獲得した「Gandhi My Father」ガンジー、わが父(2007)。上映前日、本誌は日本で唯一のボリウッド雑誌として、フェーローズ・アッバース・カーン監督を六本木ヒルズに訪ねた。
(Namaste Bollywood #09 / 2007,12月号初出改訂再録)
interview by Kajuto Sugeeta / translation by Yurak
KJR まずは米アカデミー・ライブラリーの脚本収蔵*1、おめでとうございます。
F.A.K ありがとう。ボリウッドの雑誌と聞いていたから、てっきりインド人が来ると思ったよ(笑)。
KJR 「Gandhi My Father」は元々、舞台劇ですね。映画版と舞台版の違いを教えてください。
F.A.K 映画の脚本は、ガーンディー・ジー(師)の長男ハリラールの自伝、彼の孫が書いた小説、そして劇中、南アフリカのシーンで登場するガーンディー・ジーの協力者であるヘンリーの奥さんの手記をベースにしている。舞台劇の「Mahatma v/s Gandhi」は孫のノベライズを原作にしているのに対して、映画では世界をぐっと広めてみたんだ。
KJR 「Mahatma v/s Gandhi」では、Mr.ボーマン・イラーニーがマハートマー*2を、そしてハリラールはご自身で演じています。映画版ではMr.ボーマンが演じていないのは何故でしょう?

Namaste Bollywood, 2007.
F.A.K 知っての通り、彼は身体が大き過ぎるからね! 舞台では観客が少人数なこともあって(抽象的な表現が許容されやすいため)彼がガーンディーを演じても納得してもらえる。けれど映画となると、とても大勢の人が観るから本人と外観が似ている役者を選ぶ必要があったんだ。
KJR Mr.アニル・カプールがプロデュースをしていますが、この企画は、もともと貴方が進めていたものにMr.アニルが乗ったのですか? それとも、貴方の舞台を観たMr.アニルが映画化を提案したのでしょうか?
F.A.K 私とアニルは、もう10年来の友人でね。私の舞台を全部観てくれている。彼は映画スターとして永らく活動しているけれど、演劇をまだ経験していないので舞台をやりたがっていた。残念ながら、まだ実現していなくてね。ある時、私が映画用に書いた「Gandhi My Father」の脚本を読んで聞かせたら、彼は涙を流して感動して「これを映画にしよう!」と言ったんだ。
KJR Mr.アニルは、この映画のポスターを街なかの壁に貼るのを禁じたそうですね?
F.A.K それは私とふたりで決めたことだよ。公開されるのが、ちょうど雨季だったから壁にポスターを貼ると雨で汚れたり、破れたり、人々がそれを剥がしたりするだろう? そういうことを許したくなかったんだ。ガーンディー・ジーへの敬愛から、そうすることにしたわけだよ。
KJR ハリラールを演じているアクシャヱ・カンナーもビッグ・ネームの父親(ヴィノード・カンナー)を持っていますが、撮影中の彼はどうでしたか?
F.A.K 最初に、彼には「この映画にはスターは要らない」と告げたんだ。スター扱いはしないよ、とね。ボリウッドのスターには、いろいろと付いてまわるものがある。役柄のイメージもそうだし、付き人や運転手、スターをもてなすためのケータリング等々。私はそういう特別扱いを好まないので、それらのことは一切やりたくなかった。それに、スター意識というものは、特にこの映画では邪魔になる。彼にも「この役を演ずるなら他の役者と同等に扱う」と念を押しておいたわけだよ。
KJR それではじめにオファーのあったアーミル・カーンはキャンセルになったのですか?

Namaste Bollywood, 2007.
F.A.K それは、ネット上の噂に過ぎない。アーミルは、私の大学時代の後輩でね。一緒に芝居をしたり、裏方を手伝ってもらったりもした。今回の配役について、あれこれ言われているけれど、私から彼にオファーしたことはなかったよ。
KJR ラスト近く、ハリラールが茶屋にいるとラジオからガーンディー・ジーの悲報が告げられ、店主が店を閉めてしまうシーンに心打たれました。
F.A.K あのシーンは、自分でも氣に入っているシーンだよ。原作にはないオリジナルのエピソードだ。私はガーンディー・ジーが撃たれて死ぬようなセンセーショナルなシーンははじめから撮るつもりはなかった。「建国の父」と言われるガーンディー・ジーへの想いを抱く一般の人々の受け止め方も描いておきたかったんだ。
*1:ゼロ年代に入って、イルファン・カーンの妻スタパー・シクダルが手がけたサンジャイ・ダット N アイシュワリヤー・ラーイ出演「Shabd(言葉)」(2005)、ヴィッディヤー・バーランのデビュー作「Parineeta(既婚女性)」(2005)、ファルハーン・アクタルの俳優デビュー作「Rock On!!」(2008)などヒンディー映画の脚本が続々と米国AMPAS(映画芸術科学アカデミー)の図書館に収蔵されている。
*2:「マハートマー(大いなる魂)」は、かのラビンドラナート・タゴールがはじめガーンディーを評して用いた。

Namaste Bollywood, 2007.
>フェーローズ・アッバース・カーン監督とのインタビューを振り返って
トップで活躍するボリウッド映画人とインタビューすると、毎回必ず「インドの文化を紹介してくれてありがとう」と感謝される。フェーローズ氏も同様で、持参したナマステ・ボリウッドを喜んでくれ、また熱心に答えてくださった。インタビューやティーチ・インでは彼のよい人柄が感じられた。
フェーローズ氏はその後、演劇の世界に戻ったようで、監督第2作はまだ発表されていない。が、意外なところで「再会」することとなった。本作のプロデューサー、アニル・カプールが悔いず番組の司会者を演じ、アカデミー賞受賞で話題になった「スラムドッグ$ミリオネア」(2008)の劇中に登場するアミターブ・バッチャンのダブル(吹き替え)を彼が演じていたのだった。肥だめから抜け出て来たスラムの少年にオートグラフ(サイン)を応じる手元のカットからでさえ、彼の心の温かさが伝わるようであった。