ボリ映画とインド古典の秘かな愉しみ(1)口実 apadesa その1
早稲田大学でボリウッド映画を題材にインド学を研究している高橋 明氏による「ナマステ・ボリウッド」連載コラム。コラムと連動したボリウッド講座@早稲田大学も企画しています。次回、開講をお楽しみに。
1章 恋愛心理ゲームの小道具ーー口実 apadesa その1
頼りになりそうにないが気がきく子分たちのおかげでエレベーターに閉じ込められたサルマーンとアイーシャー。急発進・急停止のサービスで二人はさらに急接近。暑さを口実にした息の吹きかけ合い(これがまた顔を寄せ合うことの口実になっている)からアイーシャーの楽屋ネタ、そして名画「Mughal-E-Azam(偉大なるムガル)」(1960)のパロディーへと楽しい演出は快調に続く。圧倒的なアクションと誇張された悪党描写にはさまれながら「Wanted」(2009)を彩る二人の恋模様はお気楽で楽しい(順風満帆ではない!のだが)。その中心にあるのが<口実>をケレン・クスグリに用いた描写だ。皆さんも何箇所気が付くか数えてみていただきたい*。
口実をつくってコナをかけその反応を看ながら…は恋のかけひきの基本。古典の世界でも花盛りだ。カーリダーサ作「シャクンタラー」**第3幕は馴れ初めの悦びを描いて様々な手管のお約束表現のカタログになっている。主人公ペアー両性に対等に現れるばかりか御付の者たちまでが技を尽くすところ、ボリ映画の<恋狂い pagal/deewana>に通じる<抑えがたさ>を主眼に置いた恋愛観を見せ付けている。ここに、耳に飾った蓮華の花粉が飛んで目に入りそうなのを吹き飛ばしてあげるという口実で、王様がシャクンタラーの顔に息を吹きかけるシーンがある。王様は悪乗りして彼女の顎に指をかけ上を向かせ、彼女に「王様、約束をかなえるのに少し長くかかりすぎません?」と言われるまでねばる。「かぐわしい君の息吹にふれるだけで、私はうれしい報酬」という王様の感想は、吹きかけ合っていなくとも互いの息がかかるほど顔を接近させる口実であった事を語る。
映画も古典も愉しんでナンボ。本欄がその一助になることを祈って。
*「指笛指南」は古典以来の伝統に新しい項目を付け加える出来だ!
**岩波文庫に、辻直四朗訳「シャクンタラー姫」がある。
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