国境にかけるスクリーン/特別編6
パキスタン女性映画の挑戦~『Bol』への道
すぎたカズト
女たちの叫び
『Bol』で感心するのは(一部つたないシーンがあるが)、これまでのパキスタン映画と異なり役者のグレードと撮影のクオリティがぐっと高まっている事だ。特に回想場面(むしろ、これが本筋)での色褪せたルック(画調)は主題を正しく表し、まるで中世の物語を見るよう。
重く陰湿なストーリーに凄みのある配役から醸し出される強い印象を日本映画で例えるなら、ハキーム役に山崎努を充て『犬神家の一族』ばりに前近代的因習に染まった地方都市の暗部を炙り出したような作品としてリメイク出来そうな、とでも言おうか。
そして、何よりインド映画では決して描かれる事はない重厚な結末が選ばれている点こそ、『Bol』の真価であり、パキスタンの人々が今求められるものを感じ取り、熱狂的に支持した理由と言える。「真のロックはインドでは生まれない」という言葉が重なるように思えてならない。
本稿に挙げた四作に通ずるのは、すべて虐げられた女性達の心の叫びを描いている点だ。『Khuda Kay Liye』では西洋文化に染まり白人女性と妻帯した父親の贖罪を負わされた娘が原理主義者の夫に手籠めにされつつも自由を懸けて法廷で闘い、尚もパキスタンに留まり、女たちの学校を作る。
『Bol』のエンディング・クレジットでは、悲しき歴史を背負い遺された女たちが細腕で始めた飯屋が当たり、モダンなレストランへと移り変わる<夢>を描いて見せる。
「パーキスターン」239号にて村山和之氏が紹介していたパキスタンの誇るべき音楽番組『Coke Studio』では無名の女性シンガーがブルカを被る事なく登場し、自分でギターを爪弾き歌う様が見られる。これが現代の、そして進むべきパキスタンの道だと言わんばかりに。
そしてまた、こうしたパキスタン映画の成長ぶりは、ボリウッドにとっても大いに刺激となるだろう。
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蛇足ながら、パキスタン映画界の進展ぶりを記しておこう。『Tere Bin Laden(「君のビン・ラーデン」まはた「ビン・ラーデンなしでは」)』(2010)でボリウッド・マイナー進出を果たしたパキスタンのマルチ・アーティスト、アリー・ザッファルが2011年からボリウッド・メジャー作品にも重用され、<明日のスーパースター賞>を受賞するほど期待が高まっている。
(すぎたカズト ボリウッド映画情報誌「ナマステ・ボリウッド」主宰」)
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