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国境にかけるスクリーン/特別編4

2012.05.08

パキスタン女性映画の挑戦~『Bol』への道
すぎたカズト

『神に誓って』
そして、『Bol』の前哨となるのが、「神に誓って」の邦題でアジアフォーカス・福岡国際映画祭でも上映された『Khuda Kay Liye(神のために)』(2007)だ。先に挙げた二作と異なり、男性監督の作品であるせいか、より社会的な出来事にフォーカスし、9.11の煽りを受けた在外同胞の苦境を真っ向から描く。
監督は、TV制作者のショーアイブ・マンスールで、自身の友人が音楽活動から原理主義へと転じた実体験を重ね合わせて作ったと言われる。
兄弟でバンドを組んでいたマンスールとサルマドはミレニアム・コンサートの準備中に原理主義青年団の襲撃を受け、マンスールは米シカゴの音楽学校へと留学、サルマドは逆に原理主義へ同化と道が分かれる。
これに絡むのが、ロンドンで白人女性と暮らす在外パキスタン人の父親に育てられたデーシー(在外南アジア系)・ガールのマリーだ。自分は白人女性と所帯を築きながら娘に対しては純粋なイスラーム教徒である事を強要し、帰郷旅行と称して祖国パキスタンへ連れて行った娘を原理主義に染まったサルマドと無理矢理結婚させてしまう。
一方、シカゴで白人女性と恋に落ちたマンスールは2001年9月11日に起きた同時多発テロにより言われなき容疑を掛けられ、不法に逮捕監禁され拷問を受ける(このシーンは2004年にイラクのアブグレイブ刑務所で発覚した米軍による捕虜虐待事件が思い出される)。
これまで紹介した三作は、国際的に高い評価を受けながらも主演女優や重要な役柄に国外のボリウッド俳優を起用しており、『Khuda Kay Liye』も終盤、重要な判定を下す法廷場面で神学者として登場するのが、ボリウッドの名優ナスィールッディン・シャーだ。この法廷場面で見せるナスィールッディンの名優としての存在感はパキスタン人の俳優たちを霞ませ、むしろパキスタン映画がまだまだ一本立ちするには道は険しいとの印象すら植え付けるほどだ。
しかしながら、9.11という重いテーマを正面から取り上げた『Khuda Kay Liye』は、ボリウッドの映画人にも響き、すぐに在米ムスリムの悲劇を描いた『New York』(2009)、Kurbaan(犠牲)』(2009)、My Name is Khan(DVD化邦題「マイ・ネーム・イズ・ハーン」)』(2010)等が制作されたばかりか、『Khuda Kay Liye』をコピーしたかのような不法な拷問シーンが見られる。映画史的に、パキスタン映画はインド映画のドー・ナンバルという立ち位置を脱したと言えよう(シカンダル・サナムは相変わらずボリウッドのパロディー映画を作っているが)。

初出「パーキスターン」(財) 日本・パキスタン協会

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