国境にかけるスクリーン/特別編1
パキスタン女性映画の挑戦~『Bol』への道
すぎたカズト
インド、パキスタン、スリランカの南アジア三国と日本が国交を交わし60周年を迎える今年、日本のインド映画ファンにもこのところ伝え漏れていた話題のパキスタン映画がある。2011年、パキスタン国内で歴代興行1位を勝ち取ったという『Bol(口述)』(2011)だ。
残念ながら現時点で日本での劇場公開や映画祭上映の話はないが、パキスタンで今、何が求められているか、を知るには絶好の映画であるからして、本稿でご紹介したいと思う。その前に、ここ10年間に海外でも評価を得たパキスタン映画の流れをざっと触れておこう。
パキスタン映画はNo.2か
インドの代表的映画界であるボリウッド(ムンバイを中心とするヒンディー語映画界)ファンとしてパキスタン映画というと、『Tere Name 2(君の名は2)』といった安手のパロディー映画の印象が強かった。
パキスタンとインドは幾度かの戦闘を交え国家的には対立していたが、ウルドゥー語/ヒンディー語が話し言葉として通じ合う事も手伝って民衆レベルではボリウッド映画が国境を越えたパキスタンでも愛されていた。隣にハリウッドのような巨大な映画産業がそびえ立つ南アジア諸国はどこもそうだが、長らく自国の映画産業は大きなハンディを背負っていた。国民がボリウッド映画ばかり観てしまうのだ。
パキスタンも自国内でロリウッド(ラホール)、カリウッド(カラチ)、ポリウッド(ペシャワール)等、地方ごとに映画界を擁してはいたものの、市場が小さい分、予算も出来も限られていた。
ゼロ年代になって日本にも微かに伝わって来ていたのが、野っ原で撮影した素人映画レベルのチープさを逆手に取ってボリウッドのヒット作を細部まで丁寧に茶化した「2」シリーズだ。シカンダル・サナムという冴えないカラチのコメディ俳優によるパロディー作品で、『Tere Name 2』の「2」は勝手に作った続編ではなく「ドー・ナンバル」つまりNo.1になれない「偽物/バッタ物」の意。
例えば、ボリウッドのA級予算で仕立てられた2008年のトップ1ヒット『Ghajini(凶悪男ガジニー)』をパロディにした『Ghanjini 2』は、鍛えられた肉体にデーヴァナーガリー文字(ヒンディー語)の刺青→痩せぎすの身体にアラビア文字(ウルドゥー語)の刺青、ヒロインが鈍器で惨殺→卵を投げつけられ、といった具合。その一方でオリジナルのBGMを貼り付けたフルコピーぶりからむしろボリウッド愛が迸るほどの出来となっている。
そんな状況であるからして、パキスタンでは多額の資本を要する映画産業よりも演劇や音楽などの方がむしろ充実していると言われた。実際、ジュヌーンが口火を切り、アーティフ・アスラムやラーハト・ファテー・アリー・ハーン等は国境を行き来し、今やボリウッド映画に欠かせぬプレイバック・シンガーとして持て囃されるまでになっている。
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