カタックを語る。#16
カタックを語る。
#16 碧色の瞳の美女〜Umrao Jaan(2006)
(ナマステ・ボリウッド#18号/2009年4月号初出)
19世紀末。衰退していくデリーを尻目に、アワド(現在のラクナウ)は、人々の生活に彩りを与える文化人達が宮廷の庇護を求めて集まり、たいそう華やかな都市であったという。歌と踊りで自分を高く売る芸妓はバイジと呼ばれ、詩や歌舞を師匠について習い、練習に励んだ。芸に秀でることは彼女達にとって出世の道であった。
サンフランシスコで伝説のバイジの舞を見たことがある。数十年前に引退したという彼女の名前はマドゥーリー。ステージに現れた彼女はハルモニウムとサーランギー、タブラーの音が鳴ると、昔そうであったように凛とした高い声を張り出し、小鳥のように歌い始めた。確かな旋律でゆったりと穏やかに、時にはころころと転がすように歌い、間奏ではグングル(鈴)で拍子をとりながら手と腰をくねらせて華麗な舞いを見せる。観客の呼吸を読み、場に合わせて自在に音と空気を操る。これは凄い。官能的だ。目の前にその時代を生きた歌姫が存在しているのだから。
その時のダンスを再現したようなシーンを「Umrao Jaan」(2006)で見ることができる。一曲目の「salaam」だ。舞を披露するのは稀代の美女アイシュワリヤー・ラーイ。伝説のバイジと一つだけ違うところは、歌詞に基づいた感情の高まりを、歌うことによってでは無く、瞳で訴えるところである。旋律と共に碧色の瞳が次第に表情を帯び、時には煌めき、旋律の度に輝きを増しながら、観る人々の心を速く正確に打ち鳴らしてサムを決める。それは、しなやかな豹の動きのように躍動的で挑発的だ。いつか是非、劇場で観てみたいものだ。
佐藤雅子/インド宮廷舞踊家。1995年渡印、インド人間国宝Pt.ビルジュ・マハラジ師に直接師事。師の許しを得て、2005年帰国。みやびカタックダンスアカデミーを設立し、2008年、東京都千代田区麹町に専用スタジオをオープン。古典のカタック・クラスの他、ボリウッド・カタック・クラスも併設中。
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