梵林浄歌(5)陶酔の原風景を求めて〜カッワーリー巡礼#2

熱唱するバダル・アリー・ハーン楽団(撮影:村山和之)
ナマステ・ボリウッド初期に、隆盛するパキスターニー・ポップスをいち早く紹介して好評を博した村山和之氏(「旅の指さし会話帳(75)パキスタン・ウルドゥー語」情報センター出版局)による連載コラムを月1で復刻アップしてゆきます。乞うご期待!
ボリウッドへ越境するパキスターニー・ポップス5章
陶酔の原風景を求めて〜カッワーリー巡礼(2)
(初出:ナマステ・ボリウッド #06/2007年6月号)
マルチスター時代の代表作「Amar Akbar Anthony」アマル・アクバル・アントニー(1977)で、リシ・カプール*演じるアクバルが楽団の歌手だったことを覚えているだろうか?
脚色はされているけれど、あれこそインド、パキスタンの大衆音楽としても人気があるイスラム神秘主義歌謡カッワーリー**であり、それは「Main Hoon Na」(2004)でも見られる。
ラホールの聖者ダーター・ガンジ・バフシュのウルス(命日祭)を訪ねた今回、縁あってカッワーリー楽士家族に同行し、日常的な音楽活動を見せてもらう機会を得た。アクバルならぬバダル・アリー・ハーン Badar Ali Khanを主唱者とする楽団は、ラホールを中心に活動する売出し中の実力派である。
携帯電話で尋ねながら会場となるイスラム聖者の邸宅に辿り着くと、月明かりの下、庭に舞台が用意されていた。すでに聖者は正面に座り、同様に男たち、後方に女たちが集まっている。
音楽会が始まった。聖者や楽士の頭上に御捻りを撒く人、婦人まで舞台へ来て札を撒きリクエストをする。両替***に忙しい楽団員。ターバンから飛び出した長髪を振り回し挑発するようにバダルを指揮しようとするスーフィー男、おちゃめに飛び跳ねる老人。二時間強、皆、幸せそうである。最後は由緒ある古句「ラング(色)」Rang。聴衆も歌手も起立し、敬礼となる。
カッワーリーを聴く日常が、伝統としてそこにあった。ウルスでの音楽会が待ち遠しい。
(村山和之/和光大学オープンカレッジぱいでいあ講師/「J-one」talk/「J-one」2号コラム連載中)
*:ランビール・カプールの父。
**:現在は「カウワーリー」と表記。
***:楽団への報酬として、お捻りに相当する少額の札びらを演奏者の前で撒き散らすのが慣習となっていて、マネージャー係が両替を担当。不評だと、出番なし。
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