インド映画は お祭りがいっぱい(16)シュラーッダ
早稲田大学でボリウッド映画を題材にインド学を研究している高橋 明氏による「ナマステ・ボリウッド」連載コラム。毎回、映画に登場するインドのお祭りを月1でアップしてゆきます。コラムと連動したボリウッド講座@早稲田大学も企画しています。次回、開講をお楽しみに。
最終章 遺骨は河に流す―ヒンドゥーに墓なし
(ナマステ・ボリウッド #30/2011,9月号)
昨年の浅草したまちコメディー映画祭in台東のスクリーンで堪能した「3 idiots」3バカに乾杯! (2009)。10年後の今月今夜(朝)、生き方・価値観をかけた勝負の因縁の屋上に現れなかったアーミル。彼を求め3人(敵役と3バカ片割れ2人)は一路アーミルが住むというシムラーへ。名前を出せば知らぬ者とてない、町を睥睨する館に着くと、庭に集まる人々は白い服ばかり。館に入れば広間左手に薄手の小さな布団に安置された遺体の前にうつむき座る白衣の人々。死後火葬までの間死体を安置し服喪する儀礼だ。本来は大地に抱擁されるよう土間に直接寝かせたものだが、この節、床の上に直接は嫌われるらしい(それでも顔はよく見える)。
父君の葬儀に遭遇かと広間正面接客スペースで後姿の彼に声をかけるとそれは見知らぬ別人。謎の男はアーミルの役名を名乗り、見知った顔が並ぶ卒業写真にもアーミルではなくその男が! タイミング絶妙の中入りの間に火葬儀礼と骨揚げ、骨壷安置の儀は終わり、翌日早朝になっている。儀礼の進行が分からなくとも画面の薄曇り感や謎の男のガウンでこれが分かると以後のタイトな作劇が理解しやすい。押しかけた3人が売られた喧嘩を幸いに演じた父君の骨壷を人質?にした大立ち回りも、次の予備知識があると黒いユーモアにふくらみが出てくるだろう。
火葬した骨や灰の大部分は近くの川に流してしまうが、遺族は小さな骨壷に少量遺骨を納めしばらく家に安置する。所定の期間の後、死者霊のためのシュラーッダ(祖霊祭)を行い喪主自ら川に入り遺骨は全て河に流す。そこで頭までの沐浴をすると死穢の物忌み義務は全て終わる*。
遺骨はどうせ水に流すものということでユーモア度がアップした分、遺骨を水洗に流すという悪ふざけの許容範囲が膨らんでいるわけだ。
高橋 明(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
*ハルドワル等聖地で行うのが理想のようだが、各地方の川にこのためのガート(沐浴場)がある。ちなみにシヴァ派はハルドワル、ヴィシュヌ派はハリドワルと呼ぶ。
お知らせ:2012年1月14日(土)、日印パ国交60周年に合わせた記念企画「ボリウッド講座@早稲田」+ナマステ・ボリウッド新年オフ会を行います。くわしくは、こちらのページをご覧下さい。
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