梵林浄歌(4)陶酔の原風景を求めて〜カッワーリー巡礼#1

ウルス参拝者で埋め尽くされたダーダー・ガンジ・バフシュ廟(撮影:村山和之)
ナマステ・ボリウッド初期に、隆盛するパキスターニー・ポップスをいち早く紹介して好評を博した村山和之氏(「旅の指さし会話帳(75)パキスタン・ウルドゥー語」情報センター出版局)による連載コラムを月1で復刻アップしてゆきます。乞うご期待!
ボリウッドへ越境するパキスターニー・ポップス4章
陶酔の原風景を求めて〜カッワーリー巡礼(1)
(初出:ナマステ・ボリウッド #05/2007年4月号)
ボリウッド映画を見ていると、主人公たちがヒンドゥー寺院でもなくモスクでもない、しかしイスラム風の宗教施設にお参りしたり、避難したりする場面に出くわす時がある。
これは、イスラム聖者の墓廟<ダルガー dargah>である。生前の奇跡や高徳さを慕う人々が、聖者崇拝と民族伝承、そしてスーフィズム(イスラム神秘主義)の融合から編み出した、現世利益を祈願する聖地になる。日本の神社のようなもの。聖者やその子孫を敬い、救済を求める者は、性別や宗教を問わず誰も参拝できる。供物を捧げ、墓に接吻して聖者の呪力を賜う。この際持参した色糸や錠前を境内に結び、祈願が成就した時はお礼参りをして外すのが習わし。廟によっては、毎週木曜の夜にダンマール(神秘舞踊)やカッワーリー(神秘主義歌謡)*の集会がもたれる。聖者の命日は、<ウルス ‘urs>の名で呼ばれ、巡礼者を迎える大きな祭<メーラー mela>となる。
アビシェーク・バッチャンのデビュー作「Refugee」(2000)にも印・パ国境付近に実在するダルガーが登場し、終盤、両国人がともに祝う場面があった。
南アジア最大のスーフィー聖者は、パキスタンのラホールに眠るダーダー・ガンジ・バフシュ。今年の3月に963周忌のウルスが祝われた。インドのムスリムたちからサラーム(祝辞)を託されて祭日の3日間で数十万人が参拝するダルガーを訪れると、無数のランプや電飾が燈された境内が実に幻想的で、さながら桃源郷に迷い込んだよう。参道ではダンマール伴奏のドール太鼓が鳴り止まらず、廟地下のホールではカッワーリー音楽会が2昼夜通しで始まろうとしていた。
(村山和之/和光大学オープンカレッジぱいでいあ講師)
* qawwali:故ヌスラット・ファテー・アリー・ハーンが来日した90年代のワールド・ミュージック・ブームの折、「カッワーリー」と紹介されたカタカナ表記が定着しているが、現在では「カウワーリー」と書くのがよしとされる。ボリウッド的には、「Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)や「Hum Kisise Kum Naheen(俺たちは誰にも負けない)」(1997)で「カワリー」とワにアクセントを置いてシャー・ルク・カーンとリシ・カプールが発音している。
お知らせ:村山和之氏と矢萩多聞氏によるパキスターニー・ポップス最前線にして南アジア最高峰の音楽プログラム紹介イベントが開催されます。ご都合のよろしい方、是が非でも行かねば!という方、ぜひどうぞ!
Coke Studio 世界が熱狂したパキスタン発音楽TVショウ
会期:2011年12月17日(土)/開場 12:30 開演13:00
チャージ:前売2,000円(1ドリンク+限定小冊子付き)*当日参加は小冊子が別売となります。
会場:東京都・渋谷 サラヴァ東京
(東京都渋谷区松濤1丁目29-1 渋谷クロスロードビル B1 TEL/FAX 03-6427-8886)
詳しくは、イベント公式サイトをご覧下さい。