国境にかけるスクリーン vol.13
インド国境に面した寒村ナガルパルカルに住むチャンパーの一家。彼女は夫シャンカルと8歳になる小さな息子ラームチャンドと3人で日々ささやかに暮らしていた。ある日、ぼんやりとひとり歩いていたラームチャンドが地続きの国境を越えてしまい、後を追ったシャンカル共々、インドの国境警備隊に逮捕されてしまう。ふたりはインド側の収容所へ連れ去られ、チャンパーは突如夫と子供を失う境遇に落ちる。国境より遠く離れた収容所に収監された父子は無実を訴えるも4年の月日が流れ、ようやく本国への<移送>の手はずが整う。しかし、それが誤りと判り、再び収容所での生活が続くのだった…。
同じ大地が区切られた国境の悲劇
「Ramchand Pakistani(ラームチャンドはパキスタン人)」/2008
2008年9月、パキスタンで製作され、インドでも公開された本作は、パキスタンに住む最下層のヒンドゥー教徒に起こった実話を女性監督メヘリーン・ジャッバールが映画化した。
パキスタンは英国統治下にあったインドのムサルマーン(イスラーム教徒)たちが夢にまで見た新生イスラーム国家であったが、印パ分離独立でムサルマーン/ヒンドゥー、そしてスィクとの間に深い瑕を残したばかりか、「Sarfarosh(命賭け)」(1999)でも描かれている独立以後に流入したムサルマーンが<ムハージル(難民)>として差別的境遇に位置づけられたままであったこと、そして本作のようにわずかながらヒンドゥーもまた生活しており、決してイスラームの一枚岩国家ではないことがわかる。
国境と言えば、安易な発想で製作されたボリウッドの凡作「Heroes」(2008)にもパンジャーブ州の印パ国境が登場する。ボンクラ学生が、キルギルの国境紛争に散った軍人の家族をドキュメンタリー映画に卒業製作する中、訪れた緑豊かなパンジャーブの農村で子供と水遊びに興じるうち、水田に設置された金網のボーダーラインに<遭遇>し、人々の生活に現実としてのし掛かった印パの分断を見るわけだ。
本作では見渡す限りの荒野が舞台となっていて、ところどころ岩の表示があるだけ。島国の日本人には地続きの大地に国を隔てる線引きとは想像しにくい(もっとも海上にしても、国境そのものは目に見えるものではないが)、子供でなくとも氣づかずに渡ってしまうだろう。ただ、子供と言えどもテロリストである可能性が否定し切れない<現実>がやるせない。
チャンパー役にボリウッドの中でインディペンデントな作品を主に活躍しているナンディーター・ダースを起用した他はパキスタン人キャストで占められているが、ラームチャンドと交流を深めるインドの女性刑務官が仕事をサボってオフィスでシュリデヴィー主演のビデオを観るシーンがある。あえてこのエピソードが盛り込まれていることにも、文化的にも分け難い印パの深い関わりが感じられる。
(ナマステ・ボリウッド発行人/すぎたカズト)
初出「パーキスターン No.225 2009/9」(財) 日本・パキスタン協会