Home » カタックを語る, コラム

カタックを語る。#09

2011.06.06

みやびカタックダンスアカデミー

Devdas(2002)でマードゥリー・ディクシトに振付を施したインド人間国宝Pt.ビルジュ・マハラジ師に直接師事したインド宮廷舞踊家、佐藤雅子女史みやびカタックダンスアカデミー主宰)による「ナマステ・ボリウッド」連載コラム。華麗な舞踊について月1でアップしてゆきます。

カタックを語る。
#09 心美しき人〜Pakeezah
(ナマステ・ボリウッド#11号/2008年4月号初出)

黒髪とエキゾチックな大きな瞳。弓なりの眉の下に輝く瞳の縁は、漆黒のカージャルでアーモンド形に塗られ、まるで子鹿のよう。当時最も美しいと言われた瞳の持ち主の名はミーナー・クマーリー。美しさに加えて確かな演技力と魅力的な踊り、けだるく甘い声で、モノクロからカラーに移行するインド映画界を一世風靡した大女優だ。

遺作となった「Pakeezah」(1972)では自らが衣装デザインを担当している。ウルドゥー詩に合わせて選んだ豪華な衣装と装飾品が印象的だ。ヒロイン登場シーンでは可愛らしい真紅、白亜に輝くコーターでの舞踊披露シーンは高貴な緑やオレンジ、悲しみの表現では白を用いるなど、色彩と感情を見事に紡ぎ、タワーイフ、あるいはNauch Girlと言われた芸妓の日常を、美しく洗練されたものとして表現した。

さて、3曲目のthade rahiyoに触れよう。これは、インド独立後にボンベイに移り、数多くのボリウッド映画にカタックダンスの振付を施したラクナウ派の巨匠、ラッチュー・マハーラージによるもの。ミーナー・クマーリーの身体全体から流れ出るしなやかな空気の流れとバオ(表情による感情表現)、足さばきが必見だ。彼女が大理石の上を華やかに規則的に舞い走る際に上体は一度も揺れない。かなり難易度の高い技である。古典のガト・アイテムを変形させた動きであるが、ガトやトゥムリなど情緒的な踊りを得意としていたラッチュー・ジー以外にはきっと指導できなかったであろう。

佐藤雅子/インド宮廷舞踊家。1995年渡印、インド人間国宝Pt.ビルジュ・マハラジ師に直接師事。師の許しを得て、2005年帰国。みやびカタックダンスアカデミーを設立し、2008年、東京都千代田区麹町に専用スタジオをオープン。古典のカタック・クラスの他、ボリウッド・カタック・クラスも併設中。

関連する記事

タグ: ,